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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第三章 時代は踊る
111/303

ガグル社の兵士 ※



「聞いたか、ロラ?」

 

 右側の男が冷やかすように、口笛をひゅっと鳴らした。


「こんな貧弱な子供が生体スーツのパイロット?ありえないんだけど」

 

 女が馬鹿にした表情で、くすっと笑った。


「アウェイオンの戦いで、軍事同盟軍に大惨敗した連邦軍は、多くの兵を失ったと聞いている」


 中央の男の目がすっと細くなった。突き刺さるような鋭い眼光だ。


「確かに、かなりの人材不足のようですな」


「そうだよ」


 ミニシャが騒々しい靴音を立てながら、ケイ達に歩み寄って来た。


「だから、あんたらに助っ人に来てもらったんじゃないか」


「ボリス大尉!」


 見知らぬ人間に囲まれていたケイは見慣れたミニシャの姿に安堵して緊張を緩めた。

 それも一瞬の事で、ミニシャの鬼のような形相に全身の筋肉が引き締まる。


「中佐が戦域に出て陣頭指揮を執ることになった。以後、私がヤガタ基地を取り仕切る」


「ブラウン中佐が自ら戦域に!?」


「そうだ。中佐はすでに大隊の戦闘指揮本部に入っている。いつ停戦が破られてもおかしくない状態だ。他のチームαは既に自分のスーツの中で待機しているぞ!ケイ、君も早くフェンリルに乗るんだ」


「さすがのブラウン中佐も進退窮まれり、だな」


 色を失うケイの隣で、ハンヌが冷たい微笑みを浮かべながら(うそぶ)いた。


「戦域一と謳われる中佐の頭の回転より、連邦軍の上級貴族将校どもの逃げ足の方が早かったってことだ。土漠で沈没しかかっているこの巨大な船から鼠のように逃げていく奴らに、一切の責任を押し付けられてね。

 最新技術が詰まっているヤガタ基地を軍事同盟軍に占領されてはならないことを一番理解しているのはブラウンだ。気の毒だが、この戦いに負けたら彼は身体に爆弾でも巻き付けて、基地と一緒に木っ端みじんになるしかない」


「連邦軍は負けませんよ。ダガー隊、チームαがいるんだから」


 ケイはハンヌを鋭く睨んだ。


「俺のフェンリルで、軍事同盟軍を蹴散らしてやる」


「ふうん?」


 ハンヌは冷笑を止めて、いつもの不機嫌な表情に戻るとケイに言い放った。


「ならば、お手並み拝見と行こうか。フェンリルのパイロット(ウルフ・ボーイ)よ。お前の狂った狼で軍事同盟の新型兵器を破壊し尽くしてみろ」


「あなたに言われるまでもない」


 ケイはハンヌの肩を掴むとその小さな身体をフェンリルの前から退かした。フェンリルの脚の窪みに手足を掛けると操縦席に向かって登り始めた。


「ああ、そうだ。ケイ」


 ミニシャが急に甲高い声を出した。ケイはフェンリルを登る手を止めて下を向いた。


「何ですか?」


「急を要するときになんだけど、君さ、悪夢にうなされるって言ってたよね。その後はどうなったの?まだ夢見は悪いままなの?」


(ミニシャさん、俺の事心配してくれていたんだ)


 ケイは嬉しかった。満面の笑みでミニシャに頷いた。


「いえ、もう大丈夫です。フェンリルとの同期(シンクロ)に慣れてきたせいか、悪夢は全然見なくなりました」


「そうか、それは良かった」


 僅かに首を傾けてケイを仰ぎ見るミニシャが、いつもより気弱げに見えた。


「安心してください、ボリス大尉。俺、体調は万全ですから」


「分かった。頼んだよ、ケイ・コストナー。フェンリルで軍事同盟軍を打ち倒してくれ」


 ミニシャが期待と不安をないまぜにした表情で、ケイを見上げる。


「了解しました。任せてください」


 ケイはフェンリルの操縦席からミニシャに手を振ってハッチを閉めた。ヤガタの、自分達の指揮官を死なせることなんてしない。絶対に。


「おいおい、冗談だろ」


 右の男が鼻で笑って嘲るような言葉を吐いた。


「スーツに自動搭乗装置もついていないのか。随分と旧式だな」


 ミニシャが憤怒で吊り上がった目をガグル社のパイロットに向けた。


「あんた、名前は?」


「ルシルだ」


 不遜な笑いを浮かべながら右側の男が答えた。


「ルシル・ベルナルド」


「ベルナルドさんよ、あんた、うちの生体スーツを随分とバカにしてくれているじゃないのさ?確かに、 ガグル社スーツは改良型で性能は上かも知れないけどね、あんたのスーツパイロットとしての腕前の方はどうなんだろうね。無駄に咆える犬ほど臆病だって言うじゃないか。おっと失礼、サルだったか」 

挿絵(By みてみん)

「なんだとこのアマ!」


 ルシルは凄みながら自分の巨体をミニシャに押し付けるように前に進めた。


「いい加減にしろ」


 腹にずしんと響く低い声が喧嘩腰の二人の間に割って入ると、一喝された大男は子犬のように大人しくなった。


「すんません、オーリク曹長」


「へへ―んだ!怒られてやんの。私はすぐに司令室に戻らなくちゃいけないんだ。あんたとなんか喧嘩している暇はないんだよ!」


 ミニシャはルシルにべえっと舌を出してから、三人の兵士たちに背を向けるとドックの出口に向かって猛然と走り出した。


「ちっ。いけ好かない女だぜ」


「ルシル、あんたがいけない。ちょっかい出し過ぎだよ」


 派手に舌打ちするルシルにロラが嫌そうな顔をした。


「そうかもな。けど、気に入らねえもんにはつい噛み付いちまうのが、俺の癖でな」


「悪い癖だね。そんな風だから、女が寄ってこないんだ」


「言ってくれるじゃねえか、この大女。お前こそ、そのガタイに釣り合う男がいるのかよ?」


「んだと?筋肉ゴリラが!」


「もうよせ」


 二人の会話が喧嘩腰になっていくのをオーリクは一喝してやめさせた。慌てて口を閉じる二人からハンヌへと顔を向ける。


「ハンヌ様、我々も戦闘準備に入ります」


「そうしてくれ。ガグル社私設軍隊曹長、ブラン・オーリク。我が守護神達の(おさ)よ。ガグル社製生 体スーツで軍事同盟軍を一掃しろ。ロシアの戦車隊、アメリカ軍の機械兵器は言うに及ばず、生身の兵士も一人残らず叩き潰せ。だがな、お前たちの真の使命は、アメリカ基地を急襲し、ガグル社の裏切り者どもを全て始末することだ」


 ハンヌはその両目に憎しみを滾らせ、野獣が牙を剥くが如く、口の両端を引き上げた。


「メインプラン。それを忘れるな。必ず、U11113RE-5Yの首を奴の胴体から毟り取って俺の前に持ってくるのだ!」

                                         




                    終

                  第四章に続く



第三章最終話です。評価、ブックマーク付けてくれた方、本当に感謝です。

四章から戦闘シーン再開です。怒涛(?)の激戦が始まりです。表現力の試金石となるか。

見捨てないでやってね。

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