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青の戦域    作者: 綿乃木なお
第三章 時代は踊る
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巨大な円蓋 ※ おまけマンガ 人工脳と副反応について

おまけマンがですが、かなり文字が多いです。特にスマホでお読みの方は、何が書いてあるか分からないと思いますので(ホントごめんなさい)みてみんの方で拡大して下さい。

よろしくお願いします。


 生体スーツのモニターの画面一杯に、平らな黒い円が映っている。

 直径は五十メートル。それが岩山に栓をしたようにすっぽりとはまっている。ダガー、ハナ、ジャックがこれまでに見たこともない巨大な人工物だった。


「嘘だろ、これが基地だって?」

 

 ジャックが放心したように呟いた。上擦った声から、緊張が痛いほど伝わってくる。


「スゲエな。こんなにでっかい円って、初めて見ました」


「ガグル社から与えられた座標はここで合っている。円の中心に直線の薄い切れ込みがあるのが見えるか?多分、あれが左右に開閉するんだろう。やはりここが基地への侵入口だ」


 ダガーは静かに言った。


「ガグル社が正しい情報を連邦軍に開示しているならば、俺達はアメリカ軍要塞の正門を山の絶壁から見下ろしているってわけだ」


「じゃあ、アメリカ軍の基地って、岩山ってことですか?」


 ハナが珍しく溜息を吐いた。

 連邦軍一の最新鋭であるヤガタも地下に基地機能を置いている。それでも、地上に建築物は必要不可欠だとの思いは、軍人ならば誰にでもあるだろう。

 威風堂々とした堅牢な基地は、兵士にとって絶対の拠り所になるからだ。

 頂上に巨大な蓋をしただけの岩山を軍事施設と呼ぶには、今までの既成概念をひっくり返すしかない。

 ダガーとハナ、ジャックは暫し無言で、岩陰から黒い円を見下ろした。

 目の前の巨大な円は、空に広がる明け方の天蓋よりも暗い。

 闇夜に吹き荒ぶ風の音も手伝って、恐ろしく陰鬱な沈黙を(まと)っている。

 エンド・ウォーで発生した夥しい死者を悼む巨大な墓標(モニュメント)だと言われれば、誰もが信じて疑わないだろう。


「どうやらこの基地の入り口は、山の岩盤を頂から円状に削り取って作られたようだ」


 リンクスから送られてくる分析結果にダガーはせわしなく目を走らせた。


「山の天辺から硬い岩山を五十メートルの巨大な穴を垂直に掘削しながらモルドベアヌ山の内部を基地にしていったってことですね。一体、どんな巨大な掘削機を使ったのかしら」


 ハナの低く押し殺した声に、微かな慄きが混じっているのをダガーは感じ取っていた。

 平静を装っていても、抑え込んだ動揺が僅かにこぼれ落ちてしまっている。

 今の連邦軍では到底敵わない高度な技術を目の前に突きつけられれば、誰でもそうなるだろう。ダガーはリンクスのなかで口を引き結んだ。

 エンド・ウォー以後、生き残った国々が承継することが叶わなかった技術を、敵であるアメリカ軍が保持しているのを目の当たりにしたのだ。恐怖を感じない方がどうかしている。


「どうやってこの岩山をくり抜いて地下基地を建設していったのか、想像することもできないけれど」


 ジャックの動きに連動して、ガルム1が腕を組んだ。


「木が一本も生えていない殺伐とした岩山の地下に、アメリカ人は百年以上も住んでいるんですよね。俺だったら精神がおかしくなっちゃうな」


「それだけ防御は鉄壁ってことよ。こんな急峻な山に侵攻するなんて、今までの私たちの軍事力では不可能だったもの。難攻不落の要塞というのは噂通りだった。それにしても」


 ハナが不安そうに声を顰めた


「アメリカ軍は、どうしてこんな高い岩山の頂に、出入り口を作る必要があったのかしらね」


「分かった!」


 ガルム1が右の拳を左の掌に軽く打ち付けた。


「アウェイオンで見たあの大型垂直着陸輸送機ですよ。山の天辺に穴を掘って格納しておくなんて誰も考え付かないし、絶対、見つけられません」


「なるほどね。自国民以外の目には決して触れさせずに、百年以上も隠すには、もってこいの場所だったって訳か」


 キキは納得したように何度も頷いた。


「ジャック、あなたにしては冴えた思い付きだわね」


「ハナさーん。もうちょっと素直に褒めて下さいよぅ」


 ハナのつれない言葉に、ジャックがガルム1の肩を落とす。キキはハナの動きのままに人差し指を立てて、額をトントンと叩いて首を傾げた。


「うーん。手放しで褒めてあげたいんだけど、もうちょっと何かあるような気がするのよね」


「何かって、なんですか?」


 ジャックに連動してガルム1が首を傾げる。


「他の用途よ。輸送機の発着と格納の為だけに、わざわざ山の天辺をくり抜くような事するかしら?」


「ああ、それなら」


 ジャックが明るい声を出した。


「ドラゴンですよ。大きさからして、あの怪物もここから出し入れしてるんでしょう」


 ハナとジャックが意見を交わしている脇で、ダガーは困惑した表情で絶えず更新されるリンクスのデータに目を走らせていた。


「グラフェン炭素?何だ、それは。どんな物質かは知らないが、あの円形の蓋、要塞の外壁は、かなり硬質な素材で覆われているようだ」


 ガグル社によってアップデートされたスーツの人工脳は性能が格段に良くなったとミニシャは随分とはしゃいでいた。

 しかし、ダガーには大した専門知識がない。分子配列の記号や専門用語をずらずらと並べられても、さっぱり理解出来ないでいる。

 仕方がないので、自分にも分かるようにリンクスの人工脳に一つ一つ解説させた。

 少し時間はかかったが、何とか状況は把握るに至った。


「我々が戦域で使用する分厚い砲弾防御壁よりも百倍も強度がある。大型ミサイルを空から大量に降らせない限り、あのでかい蓋を破壊するのは難しいな」


「それじゃあ、俺たちの生体スーツで攻撃しても無駄ってことですか?」


 ダガーの説明にジャックが落ち込んだ声を出した。


「どうすりゃいいんだ」


「最初からアメリカ軍要塞が難攻不落だと知っていて、中佐はこんな無謀な攻撃計画(ラストプラン)を立案したのでしょう?何か策はあるんですよね」


 ハナが乾いた声でダガーに尋ねた。


「そうだ。だから、待つ」


「待つ?」


「時が来るまで」


 地表の彼方から細く光る白い線が現れた。あと数時間もすれば夜が明けるだろう。

 ダガーはリンクスと共に白々と明け出した夜空を見上げた。


挿絵(By みてみん)

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