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カルディアへの道 1

「おはようございます。お2人ともお目覚めですか?...っと。おぉっとぉ~!?」



翌朝、忠一はコルドの素っ頓狂な声で目を覚ました。声の方を見ると唖然とした表情のコルドと目が合った。



(まだこの世界...ってことは夢じゃなくて本当に転生したってことか...)



忠一はそんな想いにふけりながら寝ぼけ眼で自分の周囲を見回すと、依然として眠ったままのコゼットが忠一の首にぴったりと回し、両足で忠一の左足を挟み込むようにし、その上左手はコゼットの枕と化しておりさらにはお互いの顔の距離が10センチもなかった。コゼットの甘い吐息が忠一の顔にすやすやとかかっている。



それはもうくっつくというよりは絡み付いてるといった方が正しいという状況で、第三者が見れば誰でも事後だと思うだろう。



「すみません。お邪魔でしたね。また来ます。」



死ぬほど気まずそうな顔をしながら全力で踵を返そうとするコルドに忠一はコゼットを慌てて引き剥がして申し開く。



「ちょ、ちょっと待ってください! 違うんです!」



「いえいえ気にしないでください。2人ともまだお若いのですから...私も若い頃は...」



優しい顔で理解のある言葉をかけてくれるがそれが逆に心に刺さった。



その喧噪でコゼットがようやく起き出した。



「おはようございます忠一さん。昨日はとても激しかったですね...」



そんなことを寝ぼけ眼で言うコゼット。なにが激しかったのか忠一には分からないが、コルドの勘違いを補強してしまったのは間違いなかった。



「じゃあまた来ますね。いえいえ気になさらないでください。何度されても構わないですよ」



やけに生々しい言葉を忠一にかけるとコルドは出ていってしまった。



「ちょ、違うんですってば!!」



狭い家内に忠一の絶叫がこだました。






翌朝、準備を整え出発しようとする忠一たちを送り出そうと村中の人たちが集まってくれた。


「もう行かれるのですか? もう少しゆっくりして行かれればいいのに」


昨日助けた女の1人が名残惜しそうにする。


「えぇ。昨晩はありがとうございました」


忠一がコルドに頭を下げると同じようにコルドが頭を下げた。


「行くあてはあるのですか?」


「いえまだ決まってないのですが...」



「ではカルディアに行かれるとよろしいでしょう。大きな街ですし、そこのマーセナル・ギルドに加入してみるといいでしょう。忠一さんなら問題ないはず。ここから東に15キロほど行ったところです」



(大きな街ならいろんな情報が集まりそうだな...)


「こちらをお持ちください」


そう言ってコルドは両手一杯くらいの大きさの中身がいっぱい入った皮袋を忠一に手渡す。


中身を見ると大量の銅貨と銀貨が入っていた。昨日山賊たちの根城から奪って来た大量の硬貨だ。


「もらえません」


忠一が袋を押し返そうとするがコルドは受け取ろうとしない。


「我々が奪われた分だけはもう返してもらいました。それは他の村が奪われたお金です。しかし、他の村はどこも滅ぼされて返すところはありません。我々が受け取るわけには行きませんし、どうぞ忠一様が」



「そうは言ってもいただけません。村のため、人のために使ってください」



忠一とコルドがしばらくこんなやり取りをしていると遂にコルドの方が折れた。渋々といった風に布袋を受け取る。



「忠一さんは街に入るための通行手形をお持ちですか?」



「ないですね」


そんなものあるわけない。街に入るのにはそんなものが必要なのかと忠一は愕然とする。


「でしたら...」


コルドが布袋の中の硬貨を何枚か手のひらサイズの布袋に移し替え、忠一に差し出した。



「せめてこれだけでも受け取ってください。必ず必要なはずです。それに街についてすぐにお金が稼げるわけではありません。せめてこれだけでも」



頭を下げられ、弱った忠一は丁重にお礼を言って布袋を受け取った。



「1アス...?10アス...50アス... 1デナリ?」



村人の見送りを受け。道中忠一は布袋の中を改めている。硬貨には2種類の銅貨と2種類の銀貨がそれぞれ適当な数入っていた。やや甘い作りの硬貨で、人の横顔の肖像の下にそれぞれ硬貨の額面が書かれている。



1アス硬貨と10アス硬貨がそれぞれ銅貨、50アス硬貨と1デナリ硬貨が銀貨となっている。



忠一にとって見たことのない文字で書かれており、アルファベットやキリル文字を足して2で割ったような、どこかで見たことがありそうでやっぱり無さそうな文字。それがこの世界の文字らしい。忠一には読めるはずないのになぜか書いてあることが頭に入ってくるのだ。



(そういえば、転生してくる前にあの女が言語は通じるようにするとかなんとか言ってたな...)



ふと天界でのやり取りが頭によぎったが考えても仕方ないので頭から振り払う。



「ちょっと見せてください~」



とコゼットが横から顔を覗かせる。実は貰ったのはお金だけではなく、コゼット用の背負うことのできるように紐を通した皮袋。そしてその中に数日分の食料など忠一たちが恐縮するほど至れり尽くせりの贈り物をもらっていた。



「へー。1デナリ銀貨なんて初めて見ました!」


そう言うとコゼットはつまみ上げた1デナリ銀貨を掲げて輝く瞳で見つめた。



「1デナリってのは大金なのか?」


「そりゃそうですよ! 100アスで1デナリですよ! これ1枚で100アス分! 村で取引するときは普通銅貨を使うんです!」




コゼットが何言ってんだかと言いたげな目で忠一の顔を見つめるが、この世界の物価など忠一に分かるわけがない。とりあえず100アス=1デナリということだけは分かった。



軍隊手帳を広げ、鉛筆で『1デナリ=100アス』とメモする。 すると驚いた表情でコゼットが鉛筆を指差す。



「その筆なんですか? すっごい便利そう...」



「これか? 鉛筆っていって鉛の芯を木で挟んであるんだよ」


銃という明らかに時代を先取りしすぎた兵器に疑問を挟んだことのないコゼットが筆記具でしかない鉛筆に興味を示したのはなんとなく意外だった。



「で、1アスっていうのはどれぐらいのものなんだ?」


「ええーっとですね...1ヶ月に1回くらい行商人の方が村に取引に来たんですけれども、農家の人が自分たちの食べる分を除いて余った作物を全部売って、もらえるお金が大体9デナリくらいです。なので1日で換算すると...えーっと...」



コゼットが指を折って計算し始めたところで忠一が口を挟む。



「1日あたり30アス」


「えっと...そうですね! へー。忠一さん計算すごく早いですね!」


「そうかな?」



適当に謙遜しつつ手帳に『農家の1日あたりの可処分所得=30アス程』と書き込む。日本の農家の収入と照らし合わせる。



(すると日本でいうと大体1アスが1銭で1デナリが1円くらいかな...この世界の調子だと農業技術もずいぶん遅れてるだろうしそんなもんだろう)


と頭の中で計算し、布袋の中身を再度改める。合計して10デナリと少し。大体日本円にして10円程と換算した。



(物価がどんなもんか分からないけど、2人で生活するとしたら節約しても2週間程度が限度かな)



そんなことを頭の中でブツブツ考えながらカルディアに向かって歩き続けた。

※蛇足と補足


忠一の考えている『1円』は物の価値が違うので一概には言えませんが現代日本の貨幣価値にしておよそ4000円〜5000円程だそうです。

当時の警察官の初任給が45円だそうなので妥当なくらいですね。少尉しょうい階級である忠一の給料は1月あたり70円程ですが、末端の二等兵の1月の給料はなんとたったの6円。今で言うと24000円から30000円程度の額です。べらぼうに安いですね。

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