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耳かき

新しい依頼を受注してから5日経った。



出発まで2日となったその日、忠一が背嚢の中身を整理しているとふとあるものに目が止まった。


「これは屠龍丸! この世界に来てたのか...!」


感動に打ちひしがれながら忠一は屠龍丸をてに取る忠一。


長さ20センチほどで先端がヘラ状になっている木の棒。通称耳描きである。戦争が始まる少し前に近所の雑貨屋で5銭で買った安物であるがどういうわけか忠一の耳にジャストフィットし、かれこれ5年も愛用し続けているのだ。


忠一は何を隠そう大の耳かき好きで転生前は徴兵された後ですら週に一度は耳かきをするくらいであった。


「うへへ...こいつはいい...」


ベッドにあぐらをかいて軍隊手帳の切れ端を足元に置き屠龍丸を耳に挿入する忠一。


耳の奥から伝わる名状しがたい快楽に忠一は身体を震わせた。



「ただいまー! って忠一さん何してるんですか?」


井戸から水を汲んで来たコゼットがバケツを持ったまま変態を見る目で忠一を見据えた。


「これはな 耳かきだ」


忠一は紙切れで先端を拭うとコゼットに屠龍丸を見せびらかす。


「それでなにするんですか?」


「耳掃除だ」


「耳掃除!? それで!?」


コゼットがビクッと背筋を震わせおぞましいものを見る目つきで屠龍丸をまじまじと眺めた。



「それで? って普通どうやって耳掃除するんだ?」


「普通細い木の棒の先に綿を付けて軽く掃除するだけですが...」


「なるほど」


この世界にはこのような形状の耳かきで耳掃除をする文化がないらしい。確かにコゼットの言ったやり方でもある程度は掃除できるだろう。しかし忠一からすれば耳かきを知らないというのは人生の5パーセントは損してるとしか思えなかった。


「コゼットもやってみるか?」


そう言って忠一が自分の膝をポンポン叩くとコゼットが息を飲んで忠一の顔と屠龍丸《耳かき》を交互に見る。少し考えたようだが結局小さく頷くとおずおずと、目線が忠一の方に向くようにして彼の膝を枕にしてベッドに横になる。


忠一がほくそ笑む。なにせ自分自身の耳掃除しかやったことなく、人の耳を綺麗にするという行為は生前一度もしたことがないようだった。不安もなくはないが忠一は自分の耳かき技術に絶対の自信を持っている。


「よーし。じゃ、始めるからな」


忠一が宣言するとコゼットが一瞬身体を震わせ、不安に満ちた目つきで忠一を見上げた。


「あの...痛くしないでくださいね」


「任せろ。俺はプロフェッショナルだ」


忠一はそう言ってコゼットの耳を覗き込み、思わず「ちっ」と舌打ちした。


思っていたよりもコゼットの耳の中はずっと綺麗で、これまで耳かきをした経験がないとは到底思えなかった。


(奥はまだわからんぞ)


忠一は気を取り直して屠龍丸をゆっくりとコゼットの耳の中に入れる。


「ひゃ!」

耳の内壁に屠龍丸の先端が触れた途端、コゼットがビクッと身体を震わせた。


「大丈夫かコゼット? 痛いか?」


「んっ...大丈夫...です...」


「そうか」


コゼットの言葉を信じ忠一がゆっくりとコゼットの耳の奥に屠龍丸を進ませる。しかし、大丈夫という言葉とは裏腹にコゼットの様子は明らかにおかしかった。


「んん...あっ...だめ...だめです...!」


コゼットが忠一の腰を握り力なく主張する。目がやや潤み始めている。


(痛いのかな...)


コゼットの反応に忠一が少し傷付く。自分の技術テクには覚えがあったはずだが、もしかしたら人からすれば痛いのかも知れない。


「そんじゃ、ここまでにしておくか...耳綺麗だし」


そう言って耳かきを抜こうとする忠一をコゼットが制した。


「ま、待ってください!」


「ん?」


「もうちょっとだけ続けてください...」


忠一の胸に自信が戻ってきた。ようし耳の中をすっからかんにしてやろうと意気込み、コゼットの耳内を丁寧にゆっくりと探る。


「んん...ふぅ...あっ」


コゼットがなんとも色っぽい声を出すので忠一は内心ドギマギしたが努めて気にしないように掃除を続けた。


「あっ。だめ...もう...」


「痛いか?」


「痛く...ないです。続けて...」


そうは言うもののコゼットは固く目をつむり、全身に力を入れて何かに耐えてるように見えた。しかし痛くないと言うし、続けてと言うからには続ける。


「くぅ...ふぅ...あっ。もうだめ...です」


「だめか? 辞めるか?」


「あ...辞め...ないで...続けて」


「そうか」


「はぁ...! くぅ...あっ...」


コゼットがもぞもぞと動き出したかと思うと、ヘラの先端がコゼットの耳奥を軽く書いた瞬間彼女は「もうだめ!」と叫び、一瞬ビクッと身体を跳ねさせて忠一の服を力強く掴む。そしてほんの少しだけ間を置くと全身の力が抜け切った。


「おい大丈夫かほんとに」


膝から生暖かい何かを感じた。コゼットのよだれが少し垂れていたようだった。


忠一は耳かきを抜いて荒い呼吸をするコゼットの顔を覗き込んで驚く。コゼットの顔は茹でたてのタコですらここまでにはならないだろうというほどに真っ赤に染まりきっていた。


コゼットが慌てて立ち上がり、忠一の瞳をキッと睨みつけた。


「も~! 忠一さんのばか!」


そう言なり忠一の胸に顔を埋めてしばらく動かなくなってしまった。


「俺...なにか悪いことしたか?」


忠一は戸惑いながらも胸元のコゼットに尋ねたが、返事は返って来なかった。



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