書籍第1巻発売記念臨時SS! ②【ネリア】
空気が動く。
『あなたの名前は?』
『……ネリア』
ふわりとした感触は骨張った体に優しく、幼子は体温が高いとぼんやり思い出した。
*
「ネリアさーん!細い作業が得意って言ってたよね、細工物を作れる?」
王都の屋敷から帰って来たらしい小さなお嬢さんは、今日も小さな体で動いている。
「まあ、物によるよ」
「あのね、こう、これくらいの石を付けたイヤーカフなんだけど」
小さな手の可愛い指が小さな小さな丸を作る。そこまで小さく石を加工する方が大変だが、イヤーカフ自体は難しくはない。
翌日、とりあえず見本にとひとつ作って見せると、石を設置する部分にお嬢さんの血を一滴垂らして魔法で加工。惜し気もなく黒魔法を目の前で見せられた私を置き去りに、お嬢さんは赤い石のついたイヤーカフを自分で小さな耳に取り付ける。子供用はもっと小さく作らねばと、呆然とする頭の片隅で確認。
「いいね!じゃあ全員分お願いね!」
「……は?」
「至急で!」
「待ちな」
用件をさっさと済ませようとするお嬢さんを呼び止める。腕を組んで立つのは私の癖だが、振り返ったお嬢さんはなぜか一瞬怯えた。
「な、なにか……?」
「こんな年寄りに何を作らせるのか教えてもらおうかい?」
小さく震えるお嬢さんは、呪文要らずどころか魔法使いではない人間にも使える通信器だと言う。
「か、買い出し班や狩猟班に何かがあった時に、すぐに助けに行けるように、デス」
……変わったお嬢ちゃんだね……
「すぐに人手を集めマス」
「助かるよ、ババア一人じゃすぐには無理だからね」
「カシコマリマシターッ!」
*
「眼鏡?」
「そう!こんな形で両目用にして欲しいのね。レンズの部分は魔法で作るから、とりあえずフチだけ作って!」
お嬢さんが描いたらしい新しい眼鏡の絵は、なかなかに骨が折れそうな作業を想像させた。削りの調整が難しいレンズは魔法で作ると、またとんでもない事を言う。
それがどんな大事なのか、誰かこのお嬢ちゃんに教えてあげとくれ……
でも、私に一番に話を持って来てくれるなんて、随分と信用されたもんだ。
「軽くしたいから金属じゃなくて木で、そしてなるべく細くして欲しいんだけど、難しい?」
軽い素材というのは高級品だ。そんな物が手に入らないのは下っ端の私にだってわかる。今ドロードラング領にある資材では木材が一番軽い。
「耐久性は魔法で強くするから、元をお願い」
……魔法って、そういうものだったかね……
*
「ネリアさーん、今度は歯ブぶぶぶぶぶぅぅ!」
「いくら細工班だって、お嬢は注文数が多すぎるんだよ」
その可愛いほっぺを摘まむ理由ができるのは、まあ、良しとしようかね。
※通信器……機械ではないので『器』にしてます。
気にしなくてもいいようなところですけど(笑)




