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高嶺の花 12 終


何かの祭りかと思う程に食堂での夕食は豪勢なものになった。

屋敷で風呂を借り、普段着に着替えたタイトは呆れ、平民服を借りたレリィスアは呆気にとられた。


よくよく見れば、ルーベンス夫婦、シュナイル夫婦、エリザベス夫婦も席に着いている。


「父上たちは式本番に合わせるそうだ」


王太子ルーベンスがそう笑う。

そうして二人が席に着くと、サリオンの乾杯で賑やかな晩餐が始まった。


「やはりあれが『気功』か」


ほろ酔いになった男連中はタイトを囲み、シュナイルとの試合の様子を聞き出していた。一番張り切ったのはシュナイル。場外にまで飛ばされた技を聞いてやっと納得したような顔をした。


「話には聞いた事があったが……魔法探知にも引っ掛からない魔法かと思ったが、団長の判断は正しかった」


一人頷くシュナイルにタイトは苦笑する。


「覚えたかったらコムジかシン爺に習ってくれな。俺は教えられる自信は無い」


「それは残念だ。そういえば出張訓練でも見た事はなかったな」


「騎士が一対一で最後まで邪魔されず戦える事なんかあるか。不要だろ」


なるほどなとシュナイルは大人しくなった。なら何故習得したのだとルーベンスが聞くと、


「そんなの、お嬢が暴走した時の為にだよ。これなら少し離れてても投げつける武器が無くても魔力が無くても使えるからな」


ひとつ()をとって、王子たちは納得した。


「ちょっと随分な理由じゃないの!せめて領の防衛の為とか趣味とか言いなさいよね!」


女だけでレリィスアを囲んでいた中のサレスティアには聞こえたらしい。向こうの方で声だけ絡んで来た。


「じゃじゃ馬に容赦は要らねぇ!」


「よし!表に出ろ!レシィを嫁にって何だ!私を倒してからにしろ!」


サレスティアが立ち上がると、タイトも立ち上がった。


「それはシュナイルがやったろうが!誰が何と言おうとレリィスアはもう俺の嫁だ!国王が認めたからな!」


二人ともいい具合に酔っ払っていると他の全員が呆れた。しかし、サレスティアの背後に黒い影が現れるとニヤニヤと変わる。


「今日は何の日だったっけ? 少し遅れただけで喧嘩が始まるなんて妬くよ?」


サレスティアの夫であるアンドレイがサレスティアの腰を引き寄せて頭にキスをすると、サレスティアは真っ赤にくったりと椅子に崩れ落ちた。食堂は大歓声に包まれる。誰かが「よっ!じゃじゃ馬慣らし!」と囃した声に手を上げて応えるアンドレイ。

慣れたものである。


レリィスアは兄のその所作に心底呆れ、同時におののいた。兄姉夫婦も何が起きたのか分かっていないだろう。

その兄がレリィスアの元にやって来た。そしてタイトもレリィスアの隣に立つ。


「おめでとう二人とも。遅れて申し訳ない」


アンドレイはこの時期、サレスティアに付いてドロードラング領の収穫を午前だけ手伝っている。自領であるラトルジン領も収穫時期なのでそちらもチェックしつつ、宰相付きの仕事もこなす。サレスティアがラトルジン領にいればいいという話なのだが、アンドレイはものともしない。里帰りを迎えに行くのがいいのだと口説かれれば、サレスティアもそれに甘える事にしたのだった。


アンドレイはタイトに武闘会を見に行く暇がなかった事を詫び、ラトルジン領産の綿生地の反物を五つ渡した。


「とりあえずのお祝い。レシィの普段着でも作ってよ。あと必要な物は遠慮せずに言って。サレスティアも張り切っているから」


片目をつむっておどける兄に、レリィスアの隣に立つタイトが頭を下げる。それにも微笑むアンドレイ。


「レシィをよろしくお願いします。レシィも、タイトをしっかり支えるようにね」


タイトを支える。

「はい」と震えずに声が出た。


「アンディは、俺でいいのか?」


タイトの真剣な声音に、アンドレイは一瞬ぽかんとした。レリィスアもなぜアンドレイにだけそれを聞くのかとタイトを見上げる。

アンドレイはふわりと笑うと、


「ここ二年くらいは、どうやってタイトにレシィを嫁がせるかばかりを考えていたよ。レシィが修道院に行くと言ってくれて良かった。大会で噂を流すだけで良かったからね。最近は問答無用で勅命を出してもらうか既成事実を捏造するかの二択しかないと思っていたからさ」


と恐ろしい事を言い、食堂がしんとした。

それを無視して朗らかに続けるアンドレイ。


「兄上を倒してまでレリィスアを欲しがってくれた事が僕としてはとても嬉しいよ。そしてその強さが誇らしい。タイトが義理の弟というのは複雑だけど、まあ、関係は今まで通りでいいよね」


アンドレイが右手を差し出した。


「レシィよりも僕の方が訓練なんかで長くタイトといた。タイトがレシィを迎えてくれてこんなに嬉しい事はないよ」


タイトは小さく息を吐くと、アンドレイの手を握った。


「待たせ過ぎてお前にも殴られるかと思ったよ。……今、殴られるより酷い告白を聞いたがな」


「そう?」


「……俺の怒らせてはいけない人物リストにはお前も入っている。レシィは俺の全霊をかけて幸せにする」


「うん、よろしく」


「……夫婦喧嘩には割り込まないでくれよ?」


「あはは!それは理由によるよね~」


「やめろ。お嬢より洒落にならねぇ」


とタイトがアンドレイの手を振り払うと、料理長のハンクがピクニック用のかごを持って来た。

それを嬉々として受け取るアンドレイ。


「ありがとう。じゃあ悪いけどこれでお暇するね。結婚式は必ず出席するから。さ、帰るよ~」


そうして、まだくったりとしていたサレスティアを抱えてアンドレイは消えた。


「……我が弟ながら、恐ろしい男になったな……」


シュナイルの空気を読まない呟きに、食堂は爆笑となった。


「あ~、国王を前にするより緊張した……」


反物を持ったままタイトがしゃがみこむ。それに付き合ってレリィスアもしゃがむと、軽く口づけされた。

声も出せなくて真っ赤になったレリィスアを抱えあげてタイトは宣言した。


「じゃあ俺らはこれで! 邪魔すんなよ!」


やんややんやと大騒ぎの中を歩き、静かな自宅に戻るにつれ、レリィスアの緊張は高まった。

部屋の明かりを付けたタイトは、レリィスアのその様子に苦笑すると、片膝をついた。


「そういや、ちゃんと求婚していなかったな」


レリィスアを見上げるタイトの目が優しい。子供の時に向けられた優しさとも違う、少し熱を孕んだもの。レリィスアが恋愛小説で焦がれてやまなかったもの。


「レリィスア、あなたを愛しています。私の妻になってください」


顔どころか体中が熱くなる。それとともに涙が溢れた。涙とはどれだけあるものなのか。


「は、はい。つつしんで、お受け致します」


ゆっくり立ち上がったタイトがレリィスアの涙を拭い、苦笑しながらゆっくりと口づけた。


「こんなの、こっぱずかしくて言えるかと思ってたけど、好きな女になら言えるもんだな」


もうそれだけで、レリィスアは気を失うほどに嬉しかった。

タイトの瞳に自分が映っている。そんな距離で見つめ合うなんて。


「愛しているよ、リィス。もうお前は俺だけのもの……ありゃ」



初恋を拗らせ恋愛経験皆無のレリィスアは、タイトからの甘い言葉に慣れるまで気絶を繰り返す事になった。


収穫期である事も重なり、二人の初夜は結局、両親たちも参加した結婚式の後になったのだった。
















(高嶺の花 終)

お疲れさまでした(笑)

どうぞ、目を休めてください。


この『高嶺の花』の10話部分が一番最初にできました。本編が進まずもだもだしていた頃に(笑)

やっと形になって嬉しいです。

思ったよりだいぶ長くなってしまいましたが…(^-^;


お付き合いいただきまして、ありがとうございます(●´ω`●)

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