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高嶺の花 5

レリィスア視点。

初戦。タイトは少しも危なげ無く勝った。


騎士団の訓練で若手の騎士をこてんぱんにしてるところは何度も見ていたが、冒険者とは勝手が違うだろうとレリィスアは気が気ではなかった。


魔法、飛び道具、著しく会場を破壊するような武器は使用不可だが、真剣を禁止してはいない。なのに、タイトが持つものは木刀だ。

レリィスアの素人目にはそれだけでタイトは絶対的に不利だった。


開会式後に治まっていたはずの動悸がタイトの試合開始前にまた激しくなり、心臓が飛び出そうになったが、タイトが三戦目に勝利したのを確認してようやく治まった。タイトが汗もかいていないのに、レリィスア自身が焦っているのが馬鹿らしくなったのもある。


しかしレリィスアはもうぐったりしていた。観客には凛とした姿勢に見えているだろうが、近くに座る家族たちが苦笑するほどに。


「次は準決勝よ。大丈夫?」


王妃が扇で口元を隠しながら、国王を飛び越えてレリィスアに話かけてきた。飲み物をすすめられて、レリィスアは喉が渇いていることにやっと気付いた。


「ありがとうございます」


たくさんいた参加者も続々と減っていき、とうとう四人になった事にもやっと気付いた。これでタイトは騎士になる。やはりタイトは強い。その格好良かっただろう姿を緊張でほぼ覚えていないのが残念ではある。

と、少し落ち着いた心で残った四人をよくよく確認すれば兄王子がいた。


「ええ!?」


レリィスアの驚きに家族は声を押し殺して笑った。


「全然気付かれないとは……シュナイルも浮かばれないな」


長兄の王太子ルーベンスが咳き込むように言った。肩が震えている。


「私ももしルーベンス様が出場されていたらシュナイル様を見つける余裕はありませんわよ?」


やはり扇で口元をかくした王太子妃ビアンカが笑顔でレリィスアを庇う。

そういえば第二王子妃であるクリスティアーナは一人で座っていた。ハッとクリスティアーナを見れば、にこりとされた。


「上手く行けばシュナイル様とタイトは決勝戦ですね」


シュナイルの次の相手は冒険者。

タイトの次の相手は騎士団員。


「準決勝に騎士団から二人しか残らないとは副長の妻として複雑ですが、優勝はいただきます」


きっぱりと言い切ったクリスティアーナは自信に満ちていて、そして美しい。

レリィスアは気圧されてしまったが、闘うのはタイトであると思い直した。何を欲しているか結局分からないままだが、ここまで残ったのなら優勝して欲しい。

それに、なんとなくだが、タイトが優勝するような気がした。


「タイトが優勝します」


思うよりもきっぱりと言えた事にレリィスアは内心驚いた。農業以外は物欲の低いタイトが望んだもの。それを手に入れる為に優勝が必要なら素直に応援できる。

レリィスアはそんな自分を不思議に思いながら、クリスティアーナに負けじと背筋を伸ばした。


「始め!」


ハーメルス騎士団長の号令に慌てて視線を向ければ、シュナイルと冒険者が構えていた。冒険者は大柄な体躯でさらに簡易鎧を纏い、武器は大剣。それを振り回す速度はレリィスアたちの席にまで風切り音が聞こえるほどだ。それに対するシュナイルは武器らしい武器も持たず、唸る大剣をかわしてばかりいる。

やっとタイトへの緊張が取れたのにと、レリィスアの握りこんだ手にまた力が入った。


しばらくはシュナイルの防戦一方の展開が続いた。大剣を使いこなす冒険者相手に素手でどう勝負になるのかと、レリィスアはハラハラするしかなかった。


タイトの試合はわりと短めだったので、シュナイルの試合は殊更に長くかかっている気がした。

レリィスアも護身でナイフを使う事があったが、ナイフを持つ相手に素手で立ち向かうというのは練習でも恐くてできなかった。こういう時はとにかく手近にある物を投げつけ、その隙に逃げる。逃げる隙がないならじっと大人しくしている。


玄武の守りがあるとはいえ、恐ろしいものは恐ろしい。

今は義姉であるサレスティアは、レリィスアの見ていない所でも先頭に立っていた。

大好きなサレスティアのようになりたくて、でもなれなくて。


―――お前までああなってしまったら、私の仕事が無くなってしまう


シュナイルが苦笑しながらそう言ってくれた時に、憧れと自分とを分ける事ができた。


―――貴族だと色々と能力を求められるけど、まずは自分のできる事とできない事の把握よ。これはけして我が儘ではないわ


護身ができなくて落ち込むレリィスアに、サレスティアがそう声をかけてくれた。無駄に落ち込む事が減った。


―――そうそう。チビはチビッ子らしくチョロチョロしてりゃいいんだよ


ドロードラング領で皆で埃まみれになって遊び、はしたないと怒られるんじゃないかとビクビクしていた時にタイトにそう頭を撫でられた。




今、レリィスアがシュナイルの為にできる事は。

姫として、毅然とした態度で、試合の行く末を見る事。

兄さま頑張れ!と叫ぶのは、心の中だけにした。


それが届いたのか、シュナイルは振られた剣を掻い潜り、冒険者の膝裏を蹴って体勢を崩し、うなじに手刀をあてて気絶させた。


あっという間の事にレリィスアが目を丸くすると、クリスティアーナの席の方からは盛大に息を吐く音がした。


それを聞いたレリィスアも、少しだけ背筋が曲がった。








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