魔法
「魔法が使えるのかぁ……。ほんとアルフィンって謎……」
アルフィンが魔法を使えることが分かり、試しにルーシアが自然魔法と呼ばれる火、水、土、風の四属性の初級魔法を見せたところ、アルフィンは問題なく使ってみせた。
マナを変換し、使用者の望む事象を引き起こす能力、魔法。
マナは空気中にも人の体内にもあり、もともとは無属性である。属性を持たないマナや相性の良いマナを使って魔法を使うことは魔法が使える者にとって容易なものだが、マナは環境の影響を受け属性を持つという特性がある。属性を持ったマナを別属性に変換させることは使用者の能力に大きく左右され、それは魔法の威力の大きさに反映される。
二人がいる森のような環境では土と水のマナが多くなる。深い森ではないので無属性のマナの割合が多いものの、ここで火や風属性の魔法を使おうとすると変換する必要がある為、使用者のマナ変換能力によって魔法の威力が左右される。
そのため、ルーシアが使用する魔法は火や風魔法の威力が僅かだが弱くなっている。しかしアルフィンの魔法は全ての属性が同じ威力をもち、またルーシアの倍に近い威力を持っていた。
「ここはマナの影響がそこまでないとはいえマナ変換の誤差が無いって中級魔法使い以上じゃない……。私は自然魔法しか使えないから他の魔法がどんなものか見せてあげられないけど、この調子だと全属性制覇しそうな……さすがにそれはないか……。いや、アルフィンならありえそうだわ……」
アルフィンが魔法を使えたこと、さらに自分の倍近くはあろう威力の魔法を使ったことに、ルーシアは少しショックを受けていた。他人に自慢をするようなことはしないが、魔法が使えることに誇りを持っていたため、少し落ち込んでいた。
「魔法使える人なんてほとんど会ったことないし、狭い世界で生きてたってことかぁ……もっとがんばらなきゃ!」
ルーシアはそう言って俯き気味だった顔を上げ、胸の前でグッと握りこぶしを作る。
その一方でアルフィンは魔法を使う感覚を思い出したのか、指の先に火を出したり水の球を出したりしていた。
――魔法。個人が使える技は一括りに能力とだけ覚えていたけど……この力は魔法と呼ぶんだ……。魔物に襲われた時の感覚に似てるけどちょっと違う……。
アルフィンは魔法を何度か試してみるが、魔法を使う感覚と襲われた時に起こった力の流れる感覚が別物であると分かり、先ほどの感覚は何なのか首を傾げる。
ルーシアが他にも魔法があるような素振りをしていたことをアルフィンは思い出し、もしかしたら他の魔法に関係があるかもとルーシアに視線を移す。
「他にもあるの……?」
「細かく分類すると色々あるけど、他には光属性の聖魔法とか闇属性の暗黒魔法ね。ただこの二つは個人というより種族ごとの適正差が激しくてね、人族……人間や亜人種はほとんど適性がないのよ……っと」
ルーシアはそこまで話すと足を止めてアルフィンに前を見るように促す。先ほどまで視界を埋め尽くしていた木々が途切れ、その先に草原らしき景色が小さく見えていた。
アルフィンは小走りで森から出ると、遮るもののない日の光に眩しさを覚え一瞬クラっとするが、そのまま辺りを見渡す。なだらかな薄い緑の草原が広がっており、先ほどの濃い緑の風とはまた違う優しい風が頬を撫でる。少し先にむき出しの土でできた道のようなものがあり、その道をたどっていくと畑が見え、さらに町らしきものが小さく見えた。
「町だ……」
ルーシアと会うまで人と会うことができるのか、森を出ることができるのか不安に思っていただけに、遠目ではあるが肉眼で町を見れたことにアルフィンは少し感動を覚える。
「ええ、あそこが目的地イルノブルの町。もう少しがんばりましょ!」
アルフィンは自分の力について一先ず置いておき、ルーシアに町について話を聞きながら二人は改めて町へ向けて歩き始めた。