世間知らず、常識知らず
「なんというかこう……、アルフィンって変わってるわね……」
二人はアルフィンの記憶障害がどの程度のものか話をしながら森の出口へ歩いていた。
その結果は散々なもので、記憶がないというよりそもそも知らないのでは?とルーシアは考えていた。
例えばアルフィンが不安がっていた頭が重く感じるという話も地面に着くほど髪が長いのが原因で、本人の了承のもと腰程度まで切ってゆるく三つ編みにして整えたところ頭が軽くなったと驚いていた。
先ほどの握手のような挨拶は知識としてもってはいるようだが、習慣になっていない地域の人のように自然に出てこない。その一方で不慣れな者にはすこしきつい森の中を、長年住んでいるような自然な足運びをしたりする。さらに字は読めるか確認したところ最初は読めなかったが、少し教えるとスラスラと読めるようになったがまるで今覚えましたという雰囲気だった。
アルフィンを知れば知るほど、どのような生活をしていたのか分からなくなる。
「うーん、とりあえず町まで行けばアルフィンを知ってる人が居るかもしれないし、私もクエストの報告しに冒険者ギルド行かなきゃいけないし、何はともあれ町に急ぎましょ」
ルーシアは考えても答えはでないと割り切ることにし、少し歩く速度を上げようと腕組みを解く、が――
「そういえば……冒険者ギルドって何? さっきCランク冒険者って言ってたよね……」
アルフィンのこれまた世間知らずな発言にルーシアは再度胸の前で腕を組み、うーんと唸る。
冒険者ギルドはどの町にも配置されており、小さい村でも派出所があるので村の子供でも知っているものだが……。
「冒険者ギルド知らないかぁ……あ、忘れているだけかもしれないんだっけ」
もはや記憶喪失者ではなく世間知らずの子供と一緒にいる気分になりつつあったルーシアは思い出したように腕組みを解くと、ポケットから手のひらサイズのカードのような物を取り出す。
「冒険者ギルドっていうのはね、世界共通の何でも屋さんみたいなところかな。こんな言い方したらしたら怒る人もいるけどね。お金を払って依頼をすると、登録している冒険者がクエストという形で受注してこなしてくれるの。依頼の内容は本当に簡単なものから死の危険があるものまで様々で、ランクによって受注できる依頼も変わる。で、ランクっていうのはその人のギルドへの貢献度や強さの目安って感じかな。これを見て」
ルーシアはそう言うと先ほど出したカードのような物に向かって「ステータス」と呟いた。すると不思議な模様が浮かんだかと思うと、ブンッと小さい音を立ててカードから画像のようなものが空中に出現した。そこにはルーシアの名前や年齢、職業、ギルドランクが表示されていた。
「このカードが冒険者ギルドの会員証、ギルドカードね。身分証明書代わりにもなるの。魔術が組み込まれててステータスの表示や地図なんかも見れるちょっとした便利アイテムね。ギルドの説明とかも見れるんだけど歩きながらじゃ見づらいし、まぁこれからギルド行くわけだし詳しい話はそこでね」
ルーシアはそう言ってステータス表示を消そうとしたが、アルフィンが職業の欄をジッと見つめていることに気づく。
「魔法……剣士?」
あきらかに頭の上に『?』が浮かんでいそうなアルフィンの呟きに自分の職業を教えていなかったことより魔法剣士がどういうものか自体分かっていないことを察知し、ルーシアはギルドカードに向かって呟く。
「魔法剣士、詳細」
ギルドカードにまた不思議な模様が浮かぶと『魔法剣士とは』という文が表示され、魔法剣士についての詳細が浮かび上がる。発祥や魔法剣士に必要なスキルなどが詳しく書かれている。さすがにこの全てを伝えるのは時間がかかりすぎるのでルーシアは掻い摘んで説明をする。
「まぁ簡単に説明すると魔法が使える剣士ね。魔法使いほどは使えないけど、私もある程度の魔法だったら使えるわ。結構珍しい職業なのよ」
そういうと人差し指を上に向け、その先に火を出してみせる。魔法はその人の才能や適性にほぼ依存しており、魔法が使えるルーシア自身も使える者とはあまり会ったことがなかった。
魔法が使える――それだけで戦闘では大きく有利であることは間違いなく、使える人間を冒険者ギルドの支部間で取り合いをしていたりもする。
「魔法……」
アルフィンはそう呟くとルーシアの真似をして人差し指を上に向ける。次の瞬間、先ほどルーシアが出した火の2倍は軽くある火の玉を出現させた。
「魔法って……これ?」
「ちょ、ちょっとまって! アルフィン魔法が使えるの!?」