星空の瞳
バタバタしてたら期間空いてしまいすみません(汗)
これからはちょこちょこ更新できるかと思いますのでよろしくお願いします。
「なるほど……、つまりあなたは記憶がないということね」
少女は少年が荷物はおろか服すらも持っていないと聞き、全力疾走で近くの茂みに置いてきた自分の荷物を持ってくるとテキパキとタオルと自分の代わりの服を渡して身なりを整えてあげた。
もちろんその間は少年の裸を見ないようにしっかり目を瞑って。
今は焚き火で少年の髪を乾かしてあげながらここまでの経緯を聞いているところだった。
「話を聞いた感じだとほとんどの記憶が無いみたいだけど……もしかして名前も分からない?」
少女は髪をとかしてあげながら、少年の頭をさりげなくさわる。サラサラとした心地よい感触が手に伝わり、その感触を邪魔するような怪我がないことを確認する。
つい数時間ほど前に目が覚めたが怪我らしいものはないと少年自身も言っていた、つまり怪我による記憶障害の可能性は低い。少年が嘘をついている可能性はあるが、裸で森の奥にいる理由が思いつかない。
それよりも聞いているだけで危機的状況だったのにどこか他人事のような、あまり感情が感じられない口調の方が気になる。
少女は落ち着きを取り戻したこともあり、少年の様子を観察しながらこれからどうするかを思案する。
少年を見てみると、恐らく自分の名前を思い出そうとしているがうまくいっていないようで、うーんと唸りながら顎に手を当てて考え込んでいた。これまでの話を聞くと何かを思い出そうとするとひどい頭痛になる事があるということだったが幸い今のところない。
少女は少年の髪を一通り乾かし終わると、少年の正面に腰を下ろし改めて少年を見てみる。
髪は白銀に淡い金を溶かしたような色をしており、癖のないその髪は歩くと地面に擦ってしまうほど長い。
肌は真っ白、手は武芸をしている様子のないスラリと伸びた指をしている。
顔は非常に中性的で、あまり高くない身長と合わさって女性と言われたら女性にしか見えない。 歳は15歳くらいだろうか。整った鼻筋に小さい口、大きいが少し眠たそうな印象を与える目……。
少女は自分の少し癖のある赤茶色の髪を摘まむと少し溜息をするが、不思議な物を見たようなを感覚を覚え改めて少年の目を見る。
瞳は髪の色とは対照的に黒に近いミッドナイトブルーだがとても澄んだ色をしている――がよく見ると瞳孔の部分に金色がちりばめられており、瞳の色と合わさってどこか星空を見ているような不思議な瞳をしていた。
ある程度近くまで接近しなければ分からないかもしれないが、少なくとも少女はこのような瞳をもつ人間を見たことがなかった。
「ごめんね、やっぱり名前思い出せないみたい……」
少女はハッとすると自分が身を乗り出す勢いで少年の瞳を見ていた事に気づき、慌てて姿勢を整えた。
コホンとわざとらしく咳をして自分を落ち着かせると、少年の名前について考える。
「とりあえず名前がないと不便だし、思い出すまでアルフィンって呼んでいい? アルフっていうのは昔の言葉で精霊とか妖精って意味なんだけど、あなたを見てたらなんとなく思い出してちょっともじってみたの。あ、呼んでほしい名前とかあればその名前で呼ばせてもらうけど、どうかな?」
「アルフィン……」
少年――アルフィンはそう呟くと嬉しそうな顔をして頷く。
「ううん、僕はアルフィンがいい……。君の名前も教えてくれる?」
少女はアルフィンの嬉しそうな顔を見て、感情ちゃんとあるんだと変なところでホッとする。そして自己紹介していなかったことに今更気づき、スッとアルフィンの前に手を伸ばすと自分の名前を伝える。
「私はルーシア・バーンキルツ、ルーシアって呼んでね。年は18歳、多分あなたとそんなに変わらないと思うわ。Cランク冒険者よ、よろしくね」
「ルーシア……、うん、いい名前だね……。よろしく」
アルフィンはルーシアの自己紹介を聞き終わるとじっと見つめる。
背中まで伸びたほんのり毛先の方にウェーブがかった赤茶色の髪。
明るく輝く翡翠色の瞳。
目まぐるしく変わる豊かな表情。
いい人、だな……。
人間はいい人ばかりではない、記憶は無いがなんとなく覚えている。
アルフィンはルーシアに出会えたことを改めて嬉しく思い、彼女を見て微笑みかける。
――だがルーシアの表情はだんだんと微妙な表情に変化していった。
「……あのね、アルフィン」
ルーシアはしばらく黙っていたが痺れを切らして言った。
「握手……したいんだけど……」