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クラスDへの道

 ゴブリン退治で村をあとにした俺は、そのまま次の依頼の現場へと向かった。先ほどの村からそう遠くない、小さな村だ。

 村に到着すると、中央広場に村人たちが集まっていた。俺が近付くと、ひとりの村人が慌てて駆け寄ってくる。

「もしかして、冒険者ギルドの方ですか!?」

「ああ、そうですが」

「よかった!大変なことになっているんです!」

 どういうことだろうか?俺は依頼書を取り出して、内容を確認する。依頼書には、スライム100匹退治、と書かれているだけだ。

「スライムですよね?」

「は、はい……」

「100匹?」

「そ、それが……」

「もしかして増えました?」

 スライムは弱い魔物だが、分裂したりしてよく増える。

「増えたというか……減ったというか……」

 どういうことだ?なぞなぞか?

「とりあえず見ていただいたほうが早いかと……」

 俺は村人に案内され、村外れにある礼拝堂へやってきた。礼拝堂は小屋ぐらいのサイズで、全てが石で出来ている。装飾もほとんど無い質素な造りで、窓も無いため出入りできるのはひとつある石の扉だけだ。

 密室感が半端ない。なんか嫌な予感がする。

 礼拝堂の前に立つと、村人たちが、どうぞどうぞと扉へうながそうとする。俺は仕方なく扉に手をかけ、ゆっくりと開いた。

 礼拝堂の中は窓も無いため薄暗く、石造りのためかやけにひんやりとしている。

 スライムがうじゃうじゃうごめくところを想像していたが、なぜか何もいない。よく目をこらしてみるがスライムが一匹も見当たらないのだ。

「あのぉ~……」

 俺は後ろに遠ざかって様子を見ている村人たちを振り返った。すると村人たちがいっせいに声を上げる。

「よく見て!よく見て!」

 そう言いながら礼拝堂の中を必死で指差すばかりだ。

 訳が分からず、もう一度、礼拝堂の中を凝視するが、やはりスライムの姿は見当たらない。いちおう探知スキルを発動してみる。

「うわっ!」

 探知結果に俺はゾッとする。礼拝堂の部屋全体が魔物で満たされているはずなのだ。しかしスライムは一匹もいない。どういうことだと、しばらくジッと礼拝堂内を見つめ続ける。

「嘘だろ!?」

 俺は慌てて扉を閉めた。村人たちを見ると、みなウンウンとうなずいている。

 みんなが大騒ぎしている理由が、やっと分かった。礼拝堂の壁から床から天井まで、スライムで覆いつくされていたのだ。つまり巨大な一匹のスライムが礼拝堂内に張り付いているという状態だ。完全にスライムで出来た礼拝堂になってしまっている。

「これは参ったぞ」

 どう倒そうかという悩みもあるが、こいつを倒してもスライム一匹としかカウントされないということも考えられる。申し訳ないが人助けのためでなくクラスアップのために来た身としては、ただ働きは避けたいところだ。

 しかし心配そうな村人たちの顔を見てしまうと、やっぱ帰りますとは言えない。

 どうしたものかと悩んでいると、一人の青年に話しかけられた。

「あなたはギルドメンバーですか?」

 その青年はギルド職員だった。村人からの緊急事態報告を受け調査に来たところだという。

 ちょうどいいので事態の説明をし、礼拝堂の中を確認してもらった。

「これはまた厄介なことになってますね」

「こういう場合はスライム一匹という扱いになるんですか?」

「いえ、そういうことにはならないと思います。危険性や緊急性などを考えると、スライム100匹どころではない案件ですので」

 それを聞いて少し安心した。報酬のことばかり気にするゲス野郎と思われるかもしれないが、こちらにはもっと大変な事情があるのだ。

「そんなことより、これをどう処分するかのほうが問題ですよ」

 ギルド職員は頭をかかえている。スライムの合体巨大化は、かなりレアなケースのようだ。

「俺にちょっと考えがあるんで、なんとかなると思います」

「本当ですか?」

「魔法で処理しますんで、皆さんとちょっとさがっててもらえますか?」

「わ、分かりました」

 ギルド職員は不安そうにしながらも、村人たちを危険のないよう後ろに避難させる。

 それを確認すると、俺は礼拝堂の扉の前に立った。

 スライムは攻撃力の弱い魔物ではあるが、意外と厄介なところがある。物理攻撃があまり効かないのだ。正確にはスライムの中にある小さな核の部分を破壊しなければ死なない。つまり物理攻撃で小さな的を攻撃するようなものなので効率が悪い。なので広範囲に効果のある魔法攻撃が有効になってくる。

 火属性の魔法で焼いてしまうのがいいのだが、ここまで巨大だとなかなか燃えてくれない可能性があった。なので今回は凍らせてしまおうと考えた。

 俺は礼拝堂の扉を少しだけ開くと、右手だけを中に入れる。

「アイス・ストーム」

 礼拝堂の中に凍てつく氷の嵐が巻き起こり、一気に部屋中にこびりついていた巨大スライムを凍らせた。

 残念ながら、これだけではまだ死んではいない。溶ければまた動き出してしまう。なので、その前にとどめを刺さなければいけない。

 さらに礼拝堂の中に、魔法で火の玉を発生させる。そしてすぐに扉を閉めると、急いで礼拝堂から離れた。心配そうに見守る村人をよそに、俺は耳を塞いでしゃがみこんだ。

 ボムッ!

 籠った爆発音とともに礼拝堂が振動で揺れる。しかし、それだけで外から見たぶんには、何も変化は感じられない。

 さっき発生させた火の玉は、ファイアーボールを圧縮したものだ。さらに少し時間をおいて爆発するように細工してある、簡単に言うと魔法の手榴弾のようなものだった。

 俺は礼拝堂に戻り、そっと扉を開いた。その途端、ドロドロに溶けたスライムが大量に外へと流れ出してくる。

「ひぃぃぃぃぃ!」

 村人たちから悲鳴が上がる。

「大丈夫で~す!死んでますから~」

 そう言って村人たちを安心させる。すぐに興奮したギルド職員が近付いてきた。

「凄いですね!いやぁ鮮やかなものでした!」

「たまたま上手いこといっただけです」

「いや遠目で見ても凄い魔力だと思いましたよ」

「派手に見えただけですよ」

 笑ってごまかすが、向こうも本職である。このまま職員と話していたらボロが出そうなので、ここは早いとこ立ち去ろう。

「すいません、ちょっとこのあとがあるんで、あとはお任せしてもよろしいですか?」

「ああ、お任せください。調査・確認したら、すぐギルドに戻って報酬なども含め検討いたしますので、ご安心ください」

「それじゃあ、よろしくお願いします」

 あとはギルド職員に任せて、次へ向かうことにしよう。

 最後の依頼場所は、ここから近いわけではないが、スールの町へ帰る途中に少し足を延ばせば行ける距離にある。

 依頼内容はトロール目撃の調査というものだった。

 トロールは巨人族系の魔物だが、巨人の中では小さいほうだ。もちろん人間に比べれば、ばかでかいのだが。そのトロールが猟師によって森で目撃されたという。町から離れた森ではあるが、トロールが出たとなると放ってはおけない。

 今回はクラスEへの依頼ということもあって、調査のみで退治ではない。トロールはクラスEで太刀打ちできる相手ではないのだ。

 だが俺がこの依頼を選んだ理由は違う。もちろんトロールを退治するのが狙いだ。クラスEでこのトロールを狩れば、クラスアップは間違いないだろう。さっきのスライムもボーナスが付きそうなので、トロールを倒せれば確実にクラスアップだ。

 あいかわらず馬は快調に走ってくれている。先ほどの村でも秣をもらっていたので、お腹も大丈夫のようだ。おかげで、まだ陽の高いうちに目的の森に到着することができた。

 馬を降りると、森の入り口の木に手綱をつないでおく。そして、ゆっくりと森の中へと足を踏み入れた。うっそうとした深い森ではないが、トロールが身を潜めるには充分の木々がある。戦いにくさは、そうダンジョンと変わらないだろう。

 俺は探知スキルを使い、辺りを探索してみた。

「……いた」

 小さな動物たちの反応の中に、ひとつだけ大きな魔物の反応を見つける。間違いなく、それがトロールだ。

「よし!」

 俺はトロールへ向かい、走り出す。ここは一気に終わらせてしまおう。

 先ほどの2件の時は、どうしても村人たちなどの周りの目があった。なので、あれでも力をセーブして行動していたつもりなのだ。

 しかし、この森では人の目はない。なので力を隠す必要はないのだ。

 森の木々が邪魔をして走りにくいが、俺は全速力で一気にトロールとの距離をつめる。かなり大きな巨木を避けたその時、その先にトロールが見えた。トロールも俺の気配を感じたのか、こちらに目を向けようとしているところだった。

 俺は白光の剣を抜く。ここでこの剣を隠す必要はない。白光の剣が白く輝きだし、辺りを明るく照らした。

 思わずトロールは眩しさに目を細める。それが奴の最期だった。

 トロールの首は白光の剣で斬り飛ばされ、くるくると宙に舞い落ちて行く。

 近付くと予想以上にでかかったため、あわてて跳躍したが、まぁすぐに終わってよかった。

 一瞬の出来事だったため、白光の剣には一滴の血もついていない。それを確認すると剣を鞘に納める。こいつも、こうして時々使ってやらないといけないな。

 俺はトロールの首を拾い上げると、袋へとしまう。もう血は抜けきっているようだが、それでもやはり、でかくて重い。その首を入れた袋を魔法の小箱にしまうと、森を出た。

 森の外では馬がおとなしく草を食べながら待っている。

「よし、帰ろう」

 馬の首筋を軽くポンポンと叩き声をかける。馬は返事をするように首を上下に動かした。

 馬の脚は軽く帰りも順調だ。疾風のネックレスの効果も凄く、すぐにスールの町が見えてくる。

「しまった」

 俺は大事なことを思い出した。馬を買ったはいいが、置いておくところを確保していないのだ。もちろん下宿先のパン屋さんに厩は無い。

 急いで厩を探すとして、その間この馬をどうするか……とりあえず牧に寄って相談してみよう。

 牧に近づくと馬が嬉しそうにしている気がした。やはりこいつの故郷みたいなものなのだろうか。まだここを離れてから半日しか経っていないのだが。

「おお、戻ったか!」

 牧のおじさんが優しく出迎えてくれる。しかし、すぐに馬を触り出し、色々と確認をし出した。馬が可愛くて心配なのだろう。

「ちょっと相談なんですが、厩を確保するまで、しばらくこいつを預かってもらうことって出来ますか?」

「いいよ。いつでもこの牧は使ってくれて」

「ありがとうございます」

「あんたのように馬を大事にする奴は大歓迎だよ」

「ところで……あれは何でしょう?」

 俺は牧の中を指差した。そこには馬に乗っては落ちるのを繰り返しているポルッツがいた。もう泥だらけである。

「なんか、どうしても馬に乗りたいんだと。ここの仕事手伝うっていうから好きにさせてるよ」

 そう話しているあいだにも、何度もポルッツは馬から落ちていた。あそこまで乗れないのも逆に才能だ。

「よく働いてくれるから助かったよ」

 おじさんは微笑ましく泥だらけのポルッツを見ていた。確かにあいつは真面目だけは取り柄だからな。しばらく二人で落馬を繰り返すポルッツを眺めていた。

「や、やった!」

 何回目の挑戦だろうか?やっとポルッツが落馬地獄から脱出した。そんなポルッツの感動を無視して、馬がゆっくりとこちらへ歩いて来る。たぶん、この人間なんとかしてくれ、と思っているのだろう。

「あっ!アイン先輩じゃないですか!見てください!ついに乗れましたよ!ほらっ!」

 馬の首にしがみつきながら、興奮したポルッツが叫んでいる。ポルッツよ、それは乗っているとは言わない。だが面倒なので黙っておこう。

「じゃあ、おじさん。こいつをお願いします」

「こいつを?」

 おじさんが不思議そうにポルッツを指差す。

「違います。馬のほうです」

 おじさんが愉快そうに笑いだした。あとはおじさんに任せて牧をあとにする。

「あ、アイン先輩、待って!あれ?ちょっとこれ、どうやって降りるんですかね?すいません!誰か、すいません!」

 俺はポルッツの叫び声を背中で聞きつつ、町の中へと入っていった。


 その後、無事に冒険者ギルドでの依頼達成報告を終わらせた。

 予定通りクラスアップを果たしクラスDとなった。わずか2日でクラスアップを果たしたことにギルド内が少しざわついたが、いつものように適当に笑ってごまかした。

 しかし、いつまでも笑ってごまかせるわけではない。今回はクラスアップを優先したが、これからは目立つ行動も控えなければならないだろう。とにかく自分のこの力に目をつけられるわけにはいかない。

 ともかくクラスDにはなった。おかげで冒険者ギルドの施設である、資料室の閲覧が出来るようになった。これで魔王関係の調査が進みだすことだろう。

 しかしこれはまだ始まりにすぎない。

 改めて俺は気を引き締めなおした。

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