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資金調達

 初仕事の翌日、俺は下宿先の部屋で目を覚ました。

 昨日は、わりと遅くまでポルッツと酒場で飯を食べいた。酒場といっても、二人とも酒は飲まなかった。俺は強力なステータス補正のおかげで、アルコールなどにはいっさい酔うことがない。だからエールなどを飲んでも、ただ苦い炭酸水としか感じないのだ。ポルッツはただ味覚がお子ちゃまなので飲まないだけのようだった。

 なので昨日は、酒場で二人して、ひたすら飯を喰いまくっていたのだ。

 そこで楽しそうに話すポルッツの話を聞き流しながら、色々と今後のことを考えた。

 まず圧倒的に情報が足りない。魔王関連のことに限らず、様々なことの情報が少なすぎるのだ。

 そう、転生してきたため戦闘や魔法などステータスやスキルに関連する知識はあるものの、町の暮らしや国の仕組みなど、一般常識的なものがほとんど無いことに気付いた。

 そして力も足りない。個人的な能力関連は最強なので問題無いが、権力やコネクションなどの力は、まだほとんど無いといっていい。冒険者ギルドのクラスもまだEなのだ。これでは情報収集に支障が出る可能性が高い。

 さらにもう一つの力である財力も重要だ。いま現在、個人としてはかなりお金を持っているほうだとは思うが、これから魔王討伐という大事を控える身としては、お金はいくらあっても充分ということはないだろう。そして、その財力を持ってすれば情報収集も早く進むというものだ。

 そこで昨日、導き出した結論は、まず金!ということだった。資金さえ潤沢にあれば、情報収集もクラスアップも早く進めることが出来るのだ。

 そして何より魔王という巨大な悩み事を抱えているのに、これ以上お金などで悩みたくは無いという精神的な安定を求めたという思惑もあった。

「よし!まずは資金調達だ!」

 俺は服を着ると、さっそく出掛けることにした。

「うわ~!これ、めちゃくちゃ美味しいじゃないですか!」

「そうかい!?よかったら、こっちもお食べ」

「あっいただきます!」

 下のパン屋さんに降りると、ポルッツが美味そうにパンを喰っていた。

「おまえは、なんでここにいるんだ?」

「あっ!おはようございます、アイン先輩!」

 これ美味いですよ、先輩もひとつどうですか?みたいな顔をして、パンを差し出してきた。

「よかったね」

 そんなポルッツをほっといて、店を出る。

「あ!待ってくださいよぉ~!」

 慌てるポルッツを無視して、ギルドへ向かうことにする。まずは適当な依頼を見繕って、今日中にランクのほうもひとつ上げる予定だ。

 そして同時にメインの資金調達も行なう。そのために昨日、宝石店で原石の買い取りが出来るか確認しておいたのだ。宝石が採れそうな洞窟は、昨夜、探索スキルで数か所あたりをつけてある。

 さらに、それらを今日中にこなす為には、脚が必要となってくる。どこかで馬を手に入れたいところだ。

 そうこうしているうちに冒険者ギルドへ到着した。昨日と同じように3階のクラスEの依頼掲示板へ向かう。今日も変わらず、たくさんの依頼が張り出されていた。

 目をつけている洞窟の場所を思い出しながら、依頼の内容を確認していく。

「あっ!これなんかいいですよ!う~ん、この依頼もよさそうだなぁ」

 なぜか隣でポルッツが依頼を確認している。

「おまえは何でいるんだ?」

「もちろん、先輩をお手伝いするためです!」

「いや、けっこうです」

「そんな気を使って、遠慮しないでくださいよぉ~」

「気ぃ使うか!あっち行け!」

「そんなこと言わないで、手伝わしてくださいよぉ!」

「おまえクラスDだろ?上位クラスの方は、あっち行ってください。こちらは最下層のクラスEですんで」

「アイン先輩、そんな言い方したら嫌味だと勘違いされちゃいますよ」

「嫌味だよ。あっち行け!シッシッ!」

 しかし何を言ってもポルッツは離れようとしない。しかたないので無視することにした。

「よし。これと、これと……これでいいか」

 ちょうど目をつけていた洞窟での依頼があったので、それを受けることにする。さらに、その洞窟の近場での依頼を2件みつけた。その3件の依頼書を掲示板からはがし懐へしまう。

「え!?なににしたんですか?3つも同時に欲張りですってぇ!」

 ポルッツが心配そうに俺の取った依頼書をのぞき込む。昨日は良い奴だと思ったが、やはりウザイはウザイ。俺はポルッツを無視したまま、足早にギルドを出る。

 次は馬だ。が、その前に少し寄るところがある。昨日、市場へ行ったときに目をつけていたマジックアイテムを取り扱う店だ。

 市場の片隅に、その妖しい雰囲気を漂わす店はあった。さっそく店に入ると、ローブを目深に被ったこれまた妖しい雰囲気の定員が座っていた。

「いらっしゃい。なにをお探しで?」

「疾風のネックレスって、あります?」

「ちょうど良いのがございますよ」

 そう言って定員は、壁の棚にぎっしりと並んだ引き出しのひとつを開け、奇麗な緑色の宝石をあしらった金のネックレスを取り出した。

「こちらは最大3倍まで速く動くことが出来ます」

「長時間つかうには?」

「素早さを2倍以下、5割アップほどにおさえれば、半日ほどはいけるかと。もちろん使う者の体力にもよりますが」

「いいね、いくらです?」

「レアアイテムなもので……金貨8000で、いかがでしょうか?」

「もらいます」

「毎度どうも」

 俺は店員に金貨を渡すと、疾風のネックレスを受け取った。こんな使い方をしていれば、そりゃあすぐに資金難におちいることだろう。しかし、いまは金を節約している場合ではない。いくら金を貯めても世界が滅亡したら意味がないのだ。

 目的の物を手に入れた俺は、次に馬を売っている店を探す。しかし、市場に馬屋などというものは存在しなかった。

「アイン先輩、なに買ったんですか?」

 ポルッツがネックレスをしまった俺の魔法の小箱を見つめながら寄って来た。こいつがいたことを忘れていた。

「馬、売ってるとこ知らないか?」

「それだったら町外れに牧がありますよ」

「どっち?」

「東門出たところです」

 そう言ってポルッツは東の方角を指差した。黙って、さっそく東門へ向かう。

「え?馬、買うんですか?白ですか?黒ですか?やっぱ茶色ですかね?」

 気になるのは色なのか?という疑問は沸いたが、無視することにした。

 さっそく東門へ向かい、外へと出る。朝から夕方までは、町の門は開いたままだ。

 町の外には奇麗な草原が広がっていた。その中を一本の道が東へと続いている。その道を少し先に進んだところに、木の柵で囲われている場所があった。たぶんそこが牧だろう。

 その牧に近付き柵の中を覗くいてみると、かなりの数の馬が草を食べたり元気に走り回ったりしていた。

 そんな馬を優しそうに見守るおじさんがいたので、話しかけてみる。

「こちらの馬は購入できますか?」

「仔馬は無理だけど、他はどれでも譲るよ」

「選んでも?」

「どうぞ見てやって。気に入ったのがいたら言ってね」

 おじさんに言われ俺は馬を眺めた。馬の良し悪しが見た目で分かるほど、俺は馬に精通していない。だが鑑識眼のスキルがあるため、ある程度の馬のステータスは分かる。なので駄馬を掴まされるということはないだろう。

 しばらく馬をチェックしてみたが、どれも平均的なステータスのようだ。そんな中、遠くに1頭だけ群れから離れている黒い馬がいた。よく見るとなかなかのステータスを持っている。

「あの馬は?」

「あいつは、なつかないと思うよ」

 おじさんは、やめておけという表情だ。

 俺はその馬に意識を集中させると、軽く念をおくった。俺の念を感じ取った馬は、一瞬ビクンと体を硬直させる。そしてしばらくすると、こちらに歩いてやって来た。

「ありゃありゃありゃ?」

 おじさんは不思議そうに馬と俺を交互に見ていた。

 そんなおじさんを無視して馬は俺の目の前までやって来る。しばらく見つめ合うと、馬は数回、首を上下にふった。

「珍しいこともあるもんだ。こいつが他人になつくとはねぇ」

 俺は動物との意思疎通が出来るスキルも持っている。魔物化していない動物であれば、だいたいの動物は大丈夫だ。

「この子、譲ってもらえます?」

「あ、ああ!売り物にならないと思ってた馬だ。安くするよ」

 こうして俺は、なかなかの良馬を格安で手に入れた。鞍も売っていたので、さっそく買って取り付ける。

 またがってみるが、馬は別に嫌がることなくおとなしくしていた。

「アイン先輩、馬にも乗れるんですね!?」

 馬に乗るのは初めてだが、乗馬スキルがあるので簡単に乗れてしまうのだ。改めて自分がチート的な存在だということを認識した。

「いいなぁ~カッコいいなぁ~」

 ポルッツがうらやましそうに馬の周りをウロチョロしている。蹴られるぞ。

 俺は先ほど購入した疾風のネックレスを取り出すと、馬の首に取り付けた。これは人間だけでなく、こういった動物にも効果を発揮するのだ。

「馬にネックレスですか?お洒落ですね!」

 ポルッツは楽しそうに馬の首を眺めている。噛まれるぞ。

「じゃあな」

 そんなポルッツにお別れを告げ、俺は馬を歩かせた。

「え!?ど、どこ行くんですか?」

「仕事」

「待ってくださいよ!僕、馬に乗れないんですよ!」

「そりゃいいこと聞いた」

 俺はポルッツに微笑むと、馬を疾駆させる。

「ああ、先輩!アイン先輩~!!」

 ポルッツの叫ぶ声をあとにして、俺は町の南へと馬を走らせた。疾風のネックレスのおかげで凄い加速だ。だがあまりスピードを出すと馬がすぐばててしまう。上手いこと調節しながら走らせねばならない。

 そんな心配をよそに馬は気持ちよさそうに走っていた。牧を出て全力疾走できたことが嬉しそうだ。

 気が付くと、もう目的地の村が見えてきた。さすが、この馬のステータスと疾風のネックレスの効果だ。思ったより早く、目的地に到着してしまう。

 馬の乗ったまま村に入っていくと、さっそく何人かの村人につれられた老人がやってきた。すぐ出て来たところを見ると、冒険者の来訪を待ちわびていたのがよく分かる。

「冒険者ギルドからやって来ました」

 俺は馬を降りると、老人に話しかけた。

「この村の村長をしております……失礼ですが、おひとりですか?」

「はい」

「そ、そうですか……」

 村長はあからさまに落胆の色を見せた。それはそうだろう。ギルドの依頼書にはクラスE向けではあるが、5人以上のパーティー推奨と書かれていたのだ。

「安心してください。こう見えても意外と強いんで」

 満面の笑みで村長に話しかけるが、村長の顔から不安の色は消えなかった。まぁ仕方がないか。とりあえず、とっとと結果で示すしかない。

「問題の場所はどこですか?」

「村の裏山の中腹に、いまは使われていない坑道があります。そこに10匹ほどのゴブリンの群れが住み着いてしまいました」

「依頼は、そのゴブリンの討伐ということで、よろしいですね?」

「はい。あいつらは家畜どころか村人まで、たびたび襲ってきます。すでに6人の犠牲者が……」

 そういうと村長は肩を落とした。周りの村人も、力無く俯いている。

「分かりました。すぐに処理しますんで」

「あ、あのぉ……おひとりで?」

「すぐ終わりますから」

「…………」

 村長はただ戸惑っているようだ。ようやく現れた冒険者に失礼な態度はとりたくないのだろうが、それよりも不安のほうが大きいのだろう。

 気持ちは分かるので、急いでゴブリンをかたずけてしまおう。

 俺は村人に馬をあずけると、急いで裏山へと向かった。

「あ、あの、案内人をつけますが……」

「いや、だいたい場所は分かるんで大丈夫です」

「そ、そうですか……」

 いかんいかん。これ以上、村長の不安が大きくなる前に終わらせてしまおう。

「あ、ちなみに、その坑道の使用権は今どうなってます?」

「もう10年以上前に鉱石などは採れなくなり、ずっと放置されてます。領主も村もだいぶ昔に、もう放棄しております」

「分かりました」

 どうしてそんなことを聞くのかと村長たちは訝し気に俺を見る。

 ゴブリン退治をしたあとにお宝を採掘する予定なので、あとでもめないようにいちおう聞いておいたのだ。洞窟と違い坑道は人の手が入っているのでトラブルになりやすい。

「では急いで終わらせますので、ここで少々お待ちください」

 不安気な村長たちをあとに、俺は裏山へと急いだ。

 坑道の入り口は木々が生い茂る中にあり、少し分かりづらかった。それがいっそうゴブリンどもの住処にしやすい環境になっていたのだろう。

「なんだ、クソ人間が!」

 坑道に近づくと、さっそく一匹のゴブリンが外へ飛び出してきた。ゴブリンは敵意をむき出しにしている。

 魔物は基本的に人間を嫌い、殺害の対象としてしか見ていない。その中でも、このゴブリンの人間嫌いはトップクラスである。我々がゴキブリを無条件で嫌うのと同じようなものなのかもしれない。

「殺すぞ、クソが!」

 敵意むき出しである。言ってるそばから、ぞろぞろと何匹もゴブリンが出てくる。

「6匹か」

 もっといるはずだが、待ってももう出てこないようだ。

「一人でバカか?ギャハハハハ!」

 見事な下品な笑いかたをする。こいつらと人間が分かり合うことなど不可能だろう。

 いかん、早く片付けねば。俺は右手を上げて掌をゴブリンどもに向ける。

「ファイアー」

 火属性のオーソドックスな初級魔法を唱える。掌から巨大な火の玉が発生すると同時に、ゴブリンへ向かって飛んでいく。

「グワァァァァァァァ!!」

 6匹のゴブリンが一瞬で炎に包まれ、地面を転げまわった。

 ごく初級の魔法だが俺の魔法スキルは異常に高いため、ゴブリンからすれば凄まじい業火に焼かれていると同じことだろう。

 しばらく転げまわっていたゴブリンは、いつしかピクリとも動かなくなった。そこには6つの黒い炭の塊があるだけだ。

「なんだ、なんだ!?」

 外の騒ぎを聞きつけ、残りのゴブリンが飛び出してきた。

「8匹か……これで全部だな」

 坑道から出てきたゴブリンどもは、地面に転がる炭の塊が仲間だということに気付き固まった。

「悪いが急いでるんでね……アース・ニードル」

 こんどは土属性の魔法だ。ちなみになんとなく呪文を唱えてはいるが、実は口に出さなくても魔法は使える。無詠唱(むえいしょう)というやつだ。高等技術のひとつだが、もちろん俺の能力なら使えてしまう。

 なら、なんで呪文ぽいものを唱えているかというと、正直、雰囲気重視で何となくなのだ。

「ギャアアアアアア……」

 ゴブリンの足元の地面から巨大な岩の針が何本も飛び出し、次々と奴らを串刺しにしていく。絵に描いた針山状態になったゴブリンどもは、絶命し倒れていった。

 そきほどは燃やしたため、思った以上に異臭があたりに漂ってしまった。なので今度は串刺しにしたが、針山血塗れのゴブリンも決して気持ちの良い物ではなかった。ゴブリンを殺す以上、奇麗に処理できるわけがないのだ。

 俺はゴブリンの死体の山を避けて、坑道へと入って行く。あまり広くはない坑道なので、すぐに行き止まりに行きついた。村長の言う通り鉱石などは採り尽くされており、もう何も無いように見える。しかし、この奥にはまだお宝が眠っているのだ。

 改めて探索スキルで坑道の行き止まりの壁面の、さらに先を探知する。思った通り宝石の原石などをふくんだ貴重な鉱石の反応があった。

 しかし、そこは巨大な硬い岩盤によって塞がれてしまっている。なのでこの坑道も、これ以上、掘り進めることが出来ず廃坑となってしまったのだろう。

 俺はその厚く硬い岩盤に手をそえる。そして、岩が溶けて溶岩になるイメージを頭の中で描いていった。

 すると岩盤はみるみる赤く熱をおび、ドロドロと溶岩となって溶けだした。

「熱つつつ!」

 溶岩が足元まで流れ出したので、慌ててあとずさる。さすがに溶岩は熱かった。

 しばらくすると巨大な岩盤は姿を消し、壁にポッカリと穴が空いたようになっていた。これで宝石が掘り出せるだろう。

 その後、下調べをした通り、宝石の原石がゴロゴロと出てきた。しかし、簡単に収集できたというわけではない。原石は単体であるわけではなく、ほとんどが岩などに埋まっている状態なのだ。なるべく宝石部分を割ったり傷つけたりしないよう、丁寧に掘り出さなければならない。

 また落盤という違う問題もあった。無造作に掘り進めると、いきなり穴が崩れてしまう可能性があるのだ。なのでどうしても慎重に掘り進めざるを得ない。

 なので急ぐわけにもいかず、思った以上に時間が掛かってしまった。

「ふぅ~とりあえず、これだけあれば充分か」

 黙々と作業を続け、気が付けば宝石の原石がかなりの量、採取できていた。これでしばらくお金に困るということはないだろう。

 レザーアーマーの効果でまだまだ元気ではあるが、多少の疲労を覚えたので軽い回復薬を飲んでおく。おかげで坑道を出て村に着いたころには、すっかり元気を取り戻していた。

「お待たせしました」

「おお!ご無事でしたか!」

 村長たちが心配そうに出迎えてくれる。

「思ったより手こずってしまいました、すいません」

 時間が掛かったのは、ほとんど宝石採取の時間だったのだが。

「え?終わったのですか?」

 自分では時間が掛かった認識でいたが、村長たちからすればすぐだったようだ。なので、やはりひとりでは無理と断念して帰って来たとでも思っていたらしい。

「ゴブリンは全て退治しましたので安心してください。死体は坑道の外に全てありますので。あと坑道の中も調査しましたが、もうゴブリンは一匹もいませんでした」

「おお!」

 村人たちから歓声が上がった。まだ確認したわけではないのに、俺の話を信じてくれているようだ。そういうところは純粋で素直なようだった。

「後日、冒険者ギルドの者が確認と処理に来ますので、ゴブリンの遺体はそのままにしておいてください」

「わ、分かりました」

 村長もここにきて、ようやく安心した表情7をうかべている。

「あ、あとこの書類にサインをお願いします」

 そう言って依頼書を出すと、依頼達成証明者の欄に村長がサインをしてくれた。

「本当におひとりで倒してしまわれるとは……疑ってしまい申し訳ありませんでした」

 あ、やっぱ疑ってたんだ。しかたないけど。

「いえいえ、思ったより弱い集団だったみたいで、助かりました」

「はぁそうですか……」

 村長はあまり納得はしていないようだ。村人が何人も殺されているから、当たり前といえば当たり前か。俺の誤魔化しや謙遜も、彼らには嫌味にうつるかもしれない。

「あ、あと坑道を調査して分かったのですが、奥のほうが落盤の危険性がありました。なので誰も近付かないでください。危ないんで」

「りょ、了解しました」

 宝石の採掘跡など色々と見られると面倒そうなので、いちおう入らないよう釘は刺しておく。

「それでは私はこれで」

 依頼は達成したので、俺は馬のほうへ向かったった。そんな俺を見て、慌てて村長たちが立ちふさがる。

「いやいや、そんな急がれなくとも。たいしたものはございませんが、お食事やお酒も用意しておりますので」

「申し出はありがたいのですが、この次の依頼がありまして」

「え?まだやられるのですか?」

「すいません、今日中にあと2件」

「あと2件も!?」

 その言葉で村長たちは俺を制止するのを諦めてくれた。俺も世界の滅亡がなければ、こんなのどかな村でゆっくりしたいのだ。

「すいません。いつかご縁があれば、また」

 そう言って馬を走らせ村を出る。村長たちは俺が見えなくなるまで、いつまでも手を振ってくれていた。

 後ろ髪を引かれる思いだが、いまは先を急ごう。俺にはクラスアップという、もうひとつの目標があるのだから。

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