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市場

 俺は町の市場へとやってきた。

 大通りを挟むようにして様々な店が軒を連ねている。まだ昼前だが、多くの買い物客で通りは賑わっていた。

 食料品関係のブロックは素通りし、市場の奥へと入っていく。この先には武器や防具などを扱う鍛冶屋関係の店が集まっていた。

 そう、まずいま必要なものは武器だ。白光の剣は強力すぎる。魔王戦の近くにならなければ出番は無いだろう。

 いまの俺の能力を持ってすれば、そこらの石ころででもそこそこ魔物を退治することは出来るだろう。だから強い武器は、今は必要ない。ただし弱い武器は強度も弱いため簡単に壊れてしまう。なのでいま欲しい武器というのは、ただただ丈夫なだけてーでよかった。

 何軒か武器屋をのぞいてみる。しかし、ちょうどいい具合の武器はなかなか見つからない。丈夫な武器というのは、強さもそこそこ良いものになってしまうのだった。

 やはり、それなりの武器で手加減して戦うしかないのか。

 諦めかけたその時、道端に布を広げ無造作に武器を並べて売っている商人がいた。

「いらっしゃい!安くしとくよ!」

 商人にしては、かなり若い男が武器を売っていた。しかし残念ながら良いものを売っている雰囲気はまったくない。

「ミスリルソードの掘り出し物があるよ。こっちは超レアのエルフのサーベルだ」

 こんなところに、そんなレアな武器が売っているとはとても信じられない。

「どうだい?上物だろ?」

「……」

 やはりどれも偽物のクズだ。鑑識眼のスキルがあるので、アイテムの性能は見れば分かった。

 どれもこれも普通の武器のほうがマシな代物ばかりだ。よくこんな奴が商売などやっていられるのかと、不思議になってくる。

「今日が初出店なんだ!だから記念で安くしとくよ!」

 なるほど、だからか。

 たぶんもう会うこともないだろうと、その場を立ち去ろうとした時、脇に無造作に積まれている剣の山が目に入った。思わず、その剣の山に見入っていると、男が話しかけてきた。

「なんだい?こんなクズに興味があんのかい?」

 確かにそれはクズ山だった。しかし、その中に一本だけ変わった剣があった。

 思わず、その剣を手に取る。刃が真っ白い大理石のようなもので出来ている短剣である。

「よりによって、それかい?そんな石の剣、ぜんぜん斬れないよ」

 男が呆れて笑い出した。

 確かに切れ味は、その辺の包丁よりも悪そうだ。しかし、この白い刃は白鉄鋼石で出来ている。白鉄鉱石は滅多に取れない鉱石で、世界一硬いといわれているレアアイテムだ。恐ろしく硬いだけに普通の職人では加工さえおろか、割ることさえ出来ないと言われている。

 そんな代物がこんなところにあるとは驚きだ。これこそが、まさにいま俺が欲しい武器だった。

「そんなガラクタ、銅貨1枚でいいよ」

 激安!さすが商人の才能の欠片も無い男だけのことはある。

 俺は急いで小袋をひらく。しかし中には金貨と銀貨しか入っていない。

 しかたなく俺は銀貨を1枚差し出す。

「開店したばっかだから、釣りなんかないよ」

「釣りはいい。開店祝いで取っといてくれ」

「あいにくこっちは乞食じゃなく商人なんだ。こんな金受け取れないよ!」

 商人の才能は無いが、プライドだけは一人前にあるようだ。

 参った。どこかで両替してこないとならない。

「アイン先輩じゃないですか!」

 そこへちょうどポルッツが現れた。どうやら彼も買い物をしていたようだ。

「先輩も買い物ですか?」

「そうなんだが小銭が無くて困ってる。貸してくれないか?」

「いくらですか?」

「銅貨1枚」

「それだったら、あげますよ」

 そう言ってポルッツが銅貨を差し出した。

「いや、すぐに利子付けて返すから」

 そう言いながら、銅貨を受け取る。しばらく、あげます借りるのやり取りをしていると、ポルッツの後ろから若い男が声をかけてきた。

「ジャスティス、そろそろ行くぞ」

「ああ、ごめんごめん」

 気が付くと、ポルッツの後ろに若者が4人並んでいた。どうやら彼らも冒険者のようだ。

「彼らは冒険者ギルドで知り合った、今日登録の同期なんですよ。今から5人で、初めての依頼を達成しに行くところなんです。そうだ!先輩も一緒にどうですか?」

「いや、俺は遠慮しておくよ」

「そうですか」

 そう言うとポルッツは仲間たちと装備を確認しながら市場を出て行った。奴が懲りずに、みんなにジャスティスと呼ばせていたことは聞かなかったことにしておこう。

 そんなポルッツを見送ってから、俺は銅貨を商人に渡す。

「まいどあり!よかったら、この山の剣、全部持っていってくれてもいいよ」

「いや、この一本だけでいい」

「そんなのがいいのかね~?物好きだな」

 申し訳ないが、この剣はたぶん普通の店なら金貨500枚でも買えない代物だろう。少し、この男の将来が不安になってきた。

「またなんかあったら来てくれよ」

「ああ、また来るよ」

 店がまだあったらだが。

 よし。これで武器は手に入った。次は鎧も買っておこうか。なんせ今は、ただの布の服を着ている状態だ。防御ステータスが高いとはいえ、布の服だけというのはよくないだろう。それに恰好もつかない。

 かといって重い鎧を装備するつもりもないので、それなりの恰好良い鎧を探すことにしよう。

 ちょうど向かいに良さそうな雰囲気の防具専門店があった。

 店に入ると頑固そうな親父が不愛想に座っていた。いらっしゃいの一言もない。

 店内には4着ほどの鎧しか飾っていなかった。だが、そのどれもが手入れの行き届いた、かなり良い品物だということが見ただけで分かる。

 ここはかなり良い店のようだ。

「鎧を探してるんですが」

「どんな?」

「軽くて疲れないもの。出来れば疲労しないような特殊効果があるといい。防御力のほうは、あればでかまわない」

「あんた舞台役者か?」

「いちおう冒険者ギルドに所属してます」

「変わった奴だな。やる気が無い怠け者の冒険者か」

「できれば楽したいもんで」

「ふん」

「そんな鎧って、やっぱないですかね?」

「あるよ」

 そういうと親父は店の奥へと入って行く。そして、しばらくして出てくると、手には皮の鎧を持っていた。

「レザーアーマーですか?」

「ああ、疲労低減の魔法効果つきだ。全力で走っても、軽く走った程度にしか息も切れず疲れない。物理的ダメージには特殊効果は無いが、普通の鎧としても鋼の鎧ほどの強度はある」

「いいですね」

「さらに睡眠時間が半分以下になるという、おまけ付きだ」

「最高じゃないですか……で、いくらですか?」

「金貨2000枚」

「買った」

 良い物には金を惜しんではいけない。そして俺には時間が無いのだ。

 しかし、小袋をひらいて青ざめる。しまった。そんなに現金は無かったのだ。

「宝石での支払いは?」

 そう、実は小袋の奥にさらに小さな小袋が入っていたのだ。その中には50粒ほどの宝石が入っている。

「うちは現金商売」

「ちょっと待っててください。すぐ戻りますから!」

 俺は慌てて店を出ると、宝石店を探す。

 いや、その前にマジックアイテムが売っている店が先だ。辺りを見回すと、ちょうど近くにそれらしい店があった。俺は急いでその店へと駆け込む。

「いらっしゃいませ」

 笑顔だが隙の無さそうな、おばあさんがこの店の店主のようだ。

「魔法の小箱、あります?」

「容量は?」

「一番でかいのは?」

「小部屋ほどのものならあるよ」

「これでどう?」

 俺は宝石をひとつ差し出した。

「ほぉ~上玉だねぇ……ただ現金の釣りは出せないよ」

「いいよ、これで」

「まいどありぃ~」

 おばあさんは満面の笑みで宝石を受け取ると、魔法の小箱を差し出した。

 これで宝石を換金できる。金貨は意外とかさばるうえに、想像以上にかなり重いのだ。

 俺は店を出ると、今度は宝石店を探した。さすがに市場だけあって、すぐに何店舗か見つかる。そのうちの一店をなんとなく選んで入ってみた。

「いらっしゃい」

 その宝石店の店主は、なんとも色っぽく、とても美しい女性だった。着ている服も、なんだか布が少ないような気がする。

「なにをお探しで?」

「あ、いえ、宝石の買い取りをお願いしたくて……」

「もちろん、よろこんで買い取らせていただきますよ」

「これなんですが……」

 俺は妖艶なお姉さんにドギマギしながら、宝石を20粒だけテーブルに出した。

「1つ800でどうでしょう?」

 お姉さんは宝石を見るなり金額を提示してきた。

「金貨で?」

「もちろん金貨800枚です」

「即決ですね」

 するとお姉さんは微笑みながら、俺の目の前に顔を近づけてきた。甘く良い香りが鼻をくすぐってくる。

「私は宝石だけでなく人も見ます。あなたは信用できます。ですので買い取り価格の最高額を提示させていただきました」

「あ、ありがとうございます」

「いかがでしょう?」

「あ、800で結構です」

 正直、1粒金貨500枚ぐらいで考えていたので、こちらとしてはまったく問題なかった。

「では、全部で金貨16000枚ということで……用意しますので少しお待ちください」

 そういうとお姉さんはティーセットを出して、お茶を入れ出した。その仕草は優雅で、つい見惚れてしまいそうだ。

 う~ん、エレガントな昼下がりのひととき……って、用意するってお茶のことですか?

「どうぞ」

 そういうとお姉さんは、お茶を注いだティーカップを差し出した。

「いただきます……あら、美味しい」

「お口に合いまして良かったですわ、フフフ」

 なんていう貴婦人のようなことをやっている場合ではない。

 と思っていると店の奥から、ガタイのいい男がのっそりと出てきた。見るからに強そうな用心棒である。

 その男は俺の前まで来ると、無造作に皮の袋をテーブルに置いた。そして、また店の奥へと帰っていった。

「お代の金貨16000枚になります。ご確認ください」

「いえ、信用しておりますので」

 そう言いながら、ずっしり重い皮袋を魔法の小箱へとしまう。

「また良いものがございましたら、ぜひ当店へ」

「はい……あの原石も買い取れますか?」

「うちは工房も持っておりますから、原石も歓迎いたします」

「では今度持って来ます……たぶん」

「お待ちしております」

 俺はお茶のお礼を言うと、店を出た。そう、呑気にお茶を楽しんでいる場合ではない。俺は鎧を買っている最中なのだ。

 俺は急いで防具屋へ駆け込む。相変わらず店の親父は不愛想で、俺が入って来ても何も言わずただ座っていた。

「お待たせしました」

 そう言って親父の前に2000枚の金貨を置く。

「うむ、持っていきな」

 親父はブスッとした態度は変わらず、鎧を差し出してきた。とても客商売をする態度ではないが、職人なので仕方ない。

 鎧を受け取った俺は、資金も出来たことなので回復薬も買っておこうと薬屋へも寄ることにした。

 俺はステータス最強のおかげで体力もかなり高い。なので弱い回復薬を飲んでも、あまり効果が無いのだ。なので、店にある最上級の回復薬をあるだけ買い占めた。買い占めたと言っても5本しかなかったのだが。

 どうもここ最近モンスターの出現が増えているようで、回復薬がよく売れているという。そのため、ここのところ品薄状態が続いているらしい。

 これも魔王復活の予兆なのだろうか?

 嫌な予感しかしてこない。

「いかんいかん!」

 頭に浮かびかけた悪夢を慌てて振り払う。今はやれることをコツコツとやっていくしかないのだ。

 まずは冒険者ギルドに戻ることにしよう。ポルッツを見習って、俺もギルドの初依頼に挑戦だ。そして早くランクを上げなければならない。

 もう一度いま買った品々を確認すると、俺は冒険者ギルドへ向かって歩き出した。

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