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逃走

 アーネスと別れてすぐ宿屋へと戻った。

 エルフの森まで2週間前後と考えると、少し多めにアイテムは補充しておいたほうがいいだろう。

 とりあえず明日、買い物に行くとして、いまの所持アイテムを確認しておこう。そう思い魔法の小箱の整理を始めようとしたその時、外が急に騒がしくなったような気がした。

「なんだ?」

 窓から顔を出し外を確認すると、通りをもの凄い勢いでこちらに走ってくる馬車が見えた。その馬車を操っているのは、オルトだ。もの凄い速度を出しているため、馬車は安定せず真っ直ぐに走らない。そんな不安定な馬車をオルトが必死に操っている。

 その後方に目を向けると、馬車を追いかける4頭の馬が見えた。その馬にまたがる者たちは全て黒い布で顔を覆っている。あからさまな暗殺者の姿だ。

「マジか……」

 もの凄い勢いで走り込んできた馬車が、この宿屋の前で急停車する。窓から見下ろしている俺とオルトの目が合った。オルトが何かを言おうとしたとき、追手の馬が次々と馬車に追いつく。そのまま馬から跳び降りると剣を抜いて次々と馬車に襲いかかる。

 俺が咄嗟に魔法で吹き飛ばそうかと思った瞬間、襲撃者のひとりが高々と宙に舞い、首から地面に落ちて動かなくなった。そのすぐそばにはオルトが静かにたたずんでいた。

「すげー……」

 俺は思わず見入ってしまっていた。次々と襲い掛かる襲撃者をオルトは軽々と投げ飛ばしていく。いや、投げている様子はなく、ただオルトは攻撃を受け流しているだけのように見える。しかし、オルトを攻撃した襲撃者は、気が付くと宙に投げ飛ばされているのだ。

「体術か」

 流れるようなオルトの動きは無駄が無く美しかった。そのイケメンな容姿と相まって、神秘的でもある。相手の力を利用しているので、オルトは最低限の動きしかしていない。素人目には、とても戦っているようには見えないだろう。

 そんなオルトの動きをよく見てみると、投げ飛ばす瞬間に肘などを相手の急所に入れているようだ。そのため、ほとんどの襲撃者は地面に落ちたときには絶命していた。投げ飛ばされた中にひとりまだ少し息がある者がいたが、オルトはすぐにその男の首を蹴り折って止めを刺した。容赦ないな……。

 そんなオルトの体術に見とれていると、また追手の馬が5頭ほど走ってくるのが見えた。今度はさらに通りの反対側からも5頭ほど現れた。

「こりゃまずい」

 俺は窓から外の通りに飛び降りると、馬車に駆け寄った。

「アイン様、お騒がせして申し訳ございません」

 こんな緊急時にもオルトは礼儀正しい。さっき追手の首を蹴り折った男には、とても見えない。

「なんで自分の屋敷に逃げ込まず、こっちに来た?」

「そのお屋敷前で襲われたのです。しかも凄い数でして……」

 いよいよあからさまに命を狙ってきたか。もう暗殺という感じではない。これはまさに襲撃だ。

 そう言っている間にも通りの両端から追手がすぐそばまで迫って来ていた。俺は両手を左右の追手へそれぞれ向けると、氷の矢を発射した。

「グハァ!」

 氷の矢は迫る追手全員の胸板を貫いた。俺の攻撃は威力だけでなくスピードも凄いので、簡単に避けることは出来ない。追手どもは叫び声とともに絶命し、馬からバラバラと落ちていった。

「す、凄い、同時に10人も……」

 オルトが俺の魔法に感心してるのもつかの間、また何人もの追手が通りに現れた。いったい何人、用意してんだよ!?

 とにかく、これはもう逃げるしかない。

「アーネス様は?」

「わたくしは大丈夫です」

 そう言いながらアーネスが馬車から降りてきた。とりあえず怪我などはなさそうだ。顔色は悪いが落ち着いているところはさすがだ。

「時間が無い。こっちへ」

 俺は宿屋の横の厩へと二人を導く。しかし、そこにはなぜか、もうひとりいた。メイド服のようなものを着た、ちっこい女の子だ。

「誰?」

「わたくしのお付きの侍女、エマです」

 そうアーネスに紹介されたのは、まだ十四、五歳の女の子だった。素朴を絵に描いたような顔をした、おとなしそうな娘だ。

「危険だ。君は残れ」

「私はアーネスお嬢様から絶対に離れません!」

 そう言うとエマはアーネスに寄り添い、俺を睨み返してきた。おとなしそうだと思ったら、お嬢様に関しては気が強くなるのか。また面倒な奴が着いてきたもんだ。しかし、いま揉めている時間はなかった。もうまとめて逃げるしかない。エマのことは、あとで考えよう。

「と、とにかく、こっちへ!」

 俺たちは厩へ入ると、俺の馬の周りに集まった。人が大勢きたので馬は足をバタつかせたが、俺が鼻づらを撫でるとそれもすぐに収まった。

「みんな、この馬に触って手を離さないように」

 アーネスたち三人は、訳が分からない顔をしながらも俺に言われた通り馬に触る。エマも震える手で恐る恐る馬に触れてきた。

「絶対に手を離さないように」

 みんなの手がしっかり馬に触れているのを確認すると、瞬間移動の呪文を発動させる。みんなの身体が一瞬で光に包まれる。

 気が付けば全員が馬ごとスールの町へとワープしていた。三人は目を白黒させている。

「こ、これは瞬間移動ですか?」

 オルトが辺りを見回しながら聞いてくる。目立たないよう町の裏路地にワープさせたので、すぐには何処かは分からないのだろう。

「緊急だったんで、ひとまずスールの町に移動した。目的地からは少し遠くなったが仕方ない」

「上級魔法である瞬間移動まで使えるとは、さすがはアイン様です。しかもこの人数に、馬までいっぺんに転送してしまうとは……」

 オルトが感心している。俺はチートで凄いのだから、驚くのは仕方ない。アーネスもエマもまだ呆然としている。気が付くとエマは震えながらアーネスにしがみ付いていた。

「いえ、逆にフェラルドからかなり離れられたので、これで数日は安全ではないでしょうか?」

 オルトが希望的観測を口にする。確かに追手から数日の距離は取れたので気持ちは分かるが、そんな甘く行く相手とは思えない。

「だからと言って、ゆっくりもしてられないな。とりあえずアーネス様をどこかに隠さないと」

「どこか心当たりはありますか?」

「悪いが知り合いは巻き込みたくない。なので普通に宿屋へ泊ってもらう。いまなら普通の客として泊まったほうが安全だろう」

「分かりました。アイン様にお任せいたします」

 落ち着きを取り戻したアーネスが同意する。しっかりとした教育を受けているため、危機的状況でも凛として気品がある。ただ、その気品がいまは目立ってしまうのだが。

「あとは、その服を脱いでください」

 アーネスは誕生会帰りのままなのでド派手なドレスを身にまとっているのだ。目立つのは気品以前の問題だった。

 俺は大きめの毛布を出してアーネスに渡した。アーネスは黙って受け取ると侍女のエマと馬車の中に入っていく。しばらく二人でゴソゴソとすると、毛布をマントのようにまとったアーネスが馬車から出て来た。

「ではいったん宿屋に入ります」

 アーネスたちは黙ってうなずいた。

 宿屋では一番大きな部屋をおさえ、みんなでそこに泊まることにした。朝まで少し時間があるのでアーネスとエマを休ませ、俺とオルトで警戒することにする。しかしアーネスもエマも眠ることは出来なかったようだ。

 朝になり、エマにお金を渡してアーネスの服など必要な日用品などを買いに行かせた。そして俺も逃走の準備のため宿を出る。

 まずは中古の馬車を購入した。アーネスが乗っていたような高級な馬車は乗心地は良いが目立ち過ぎる。なので荷物などを運ぶ幌のついた二頭立ての馬車を選んだ。

 次に鍛冶屋に行き鉄板を何枚か購入する。その鉄板で馬車の荷台の内側の四方を補強した。これで弓矢ぐらいならば簡単には貫通しないだろう。最後にクッション代わりとなる藁を荷台に積んでおく。

 さらに回復薬を補充しようと寄った店で守りの護符を見つけたので、買って馬車に貼り付けた。もの凄いバリアを張るというわけではないが、まぁないよりはマシだろう。馬車を引く馬のスピードアップは事故につながりかねないので、今回はやめておいた。

 その他もろもろの買い物を済ませて宿屋に戻ると、エマも戻っていた。アーネスはエマが買って着た地味な服に着替え終わっていたが、やはり気品さは隠しきれないようだ。まぁドレスで逃げるよりはマシである。

「少し休ませてあげたいところだが、出来ればもう出発したい」

 俺がそう提案するとオルトは何か言いたそうだったが、アーネスは嫌な顔ひとつ見せずに賛成してくれた。仕方なくオルトも黙って賛成するしかない。

 俺たちは宿屋の支払いを済ませると、さっそく馬車に乗り込んだ。馬車の運転はオルトに任せ、俺は自分の馬で同行することにする。

「では行きます」

「はい」

 オルトの言葉にアーネスが静かに返答した。

 俺たちはエルフの森を目指しスールの町を出発する。


 スールの町を出て4日が過ぎた。逃走の身ということで目立つわけにはいかない。なので、なるべく町や村を避けてエルフの森へと向かう。必然と野宿が続くことになり、アーネスの顔には少し疲労の色が見えだしていた。

「アイン様、少しよろしいですか?」

 その夜みんなが寝静まり、焚火の番をしていた俺のもとにオルトがやって来た。焚火を挟んで俺の向かい側に腰を下ろした。

「お嬢様の疲労が少し心配でして」

「野宿には、なれてないだろうからな」

「この先にある村なのですが、そこにはよく鹿狩りなどのさいにお嬢様と寄った所なのです。もしよろしければ、一泊だけでもその村に滞在できないでしょうか?」

「その鹿狩りにはアーネス様だけが行ったわけじゃないんだろう?」

「はい……旦那様も一緒に」

「じゃあ危ないと思うがね」

「アイン様のおっしゃることはごもっともなのですが、この先お嬢様が休めるような場所は、もうほとんどありません。その村の方たちは、とてもお嬢様によくしてくれていましたので、危険はないと思うのです」

「オルト、気持ちは分かるが賛成できない。もう少し冷静に考えてみてくれ」

 オルトは肩を落として、うつむいてしまった。無茶なことを言っている自覚はあったのだ。こんなに頭の良いイケメンでも、お嬢様のこととなると冷静さを失ってしまうらしい。

「失礼しました。アイン様のおっしゃる通りです。少し頭を冷やしてきます」

 そう言うとオルトは焚火から離れて行った。とにかくお嬢様のことで頭がいっぱいなのだろう。だがそれが逆にアーネスの危険を招くことにもなりかねないのだ。

 翌日、オルトの言っていた村を少し迂回するルートを通ることにする。アーネスの父も敵に回っているいま、その村はむしろ危険と判断したほうがいい。

 運のいいことに、その日も何事も無く進むことは出来た。日が暮れる前に林の中に入り野営の準備に入る。例の村から、まだそんなに離れていないのが少し気がかりではあった。

 食事のあと、エマが用を足すといって林の奥へと入って行った。危険はあるが、さすがについて行く訳にはいかない。一応、周辺の探知を頻繁におこなっているので大丈夫だとは思うが……。

「ん?」

「どうしました、アイン様?」

 エマの方向からほんのわずかではあるが一瞬、微量な魔力を感じとった。探知を集中させるが、エマ以外の反応は無い。

「まさか!」

 俺は急いでエマのほうへ走って向かう。侍女が魔法を使えるとは思えない。

「アイン様!?」

 慌ててオルトもあとを追ってきた。どうやらその後ろからアーネスも来ているようだ。

 腰ほどの高さの草むらをかき分けて抜けると、エマがしゃがみ込んでいた。もちろん用を足しているわけではない。

「ア、アイン様!?」

 エマが俺を見て、慌てて何かを服の中に隠した。躊躇することなく俺はエマの服に手を突っ込むと、隠した物を取り上げる。

 それは小さなオーヴだった。そのオーヴの能力は、ある特定の振動を発生させるというものだ。この振動を探知し辿れば、このオーヴの場所に行きつく。つまりこのオーヴは発信機のようなものだった。

「やってくれたな、エマ」

「わ、わたし……わたし……」

 エマはブルブルと震えていた。視線は宙をさまよっている。

「エマ、あなた……」

 その場を見たアーネスが寂しそうにエマを見つめていた。侍女までもが自分の敵だったのが、かなりショックのようだ。

 考えてみればエマも男爵に雇われている身なのだ。男爵の指示に従わないわけにはいかなかったのだろう。それにどうせ脅されでもしていたのは容易に想像がつく。

 アーネスは怒ることはなく、肩を落として馬車のほうへと戻って行った。

「アイン様……」

「大丈夫。悪いようにはしないから、お嬢様についてやってくれ」

「よろしくお願い致します」

 オルトは一度、心配そうにエマを見てから、急いでアーネスを追いかけて行った。

「さてと……」

 俺がエマの肩に手をやると、エマはガタガタと震え出した。歯が当たってカチカチと鳴っている。

「乱暴はしないよ」

 俺は瞬間移動でフェラルドの宿屋の厩へと飛んだ。申し訳ないが自宅に送り届けるほど優しくはない。

「じゃあな」

「す、すいませんでした!わたし、わたし!」

「謝るならお嬢様に言うんだね。この先、その機会があればだが」

 俺はエマの返事は聞かず、すぐにアーネスのもとへ飛んで戻った。アーネスは焚火の前に座り、うなだれていた。傍らにいたオルトが俺を見ると軽く首を横にふった。

「アーネス様、申し訳ないがすぐに出発します」

「アイン様、もう少しだけ時間を……」

「わたくしは大丈夫です。出発しましょう」

 心配するオルトの言葉を制して、アーネスが毅然とした態度を取り戻し答えた。さすがはお嬢様だ。

 急いで焚火の処理をし、アーネスを馬車に乗せようとしたその時、周辺探知に反応があった。数人のものが、まっすぐこちらに近付いてくる。

「もうオーヴを探知されたか」

 オルトも気配に気付き、アーネスをかばうようにして身構えている。

 しかし、不思議なことに反応からは敵意がまったく感じられなかった。どうやら追手ではないようだ。

「あなた方は、ケルク村のっ!」

 オルトが思わず声を漏らす。しばらくして我々の目の前に現れたのは、ごく普通の村人たちだったのだ。

「ケルク村って、例の?」

「そうです」

 敵意は無いようだが、問題はそこの村人たちがなぜ我々の前に現れたのかだ。村人たちは脅えるようにこちらの様子をうかがっていたが、アーネスの姿を見ると安心した表情を浮かべた。

「おお、アーネス様!ご無事でしたか!」

「あなたたちでしたか。でも、どうしてここへ?」

 その問いかけに村人たちは互いに顔を見合した。そして険しい表情になり、喋り出した。

「いま村にはハルメルド様の追手が何十人もおります。我々はその者たちから、この林でアーネス様を捕らえると聞き、それを知らせるため先回りしてやってまいりました」

 やはり追いつかれていたのか。たぶんエマのオーヴは、スールの町でも発信されていたはずだ。それで数日あったアドバンテージも無くなってしまったのだ。

「早くここからお逃げください!もうすぐにでも奴らはここへ来ます!」

「ありがとうございます。さぁ急ぎましょう、お嬢様」

 オルトがアーネスを馬車へと乗せる。村人たちは心配そうにアーネスを見ていた。本当にアーネスは彼らから慕われているようだ。だからこそ、この村人たちを巻き込んではいけない。

「ここで迎え撃つぞ、オルト」

「アイン様、なにを!?」

 俺の言葉に馬車に乗ろうとしていたオルトが慌てて振り向く。

「このまま我々が逃げれば、この村人たちに迷惑が掛かることになるぞ」

「そ、それは……」

「奴らは俺たちが逃げたことを追求するだろう。たとえ村人たちがしたこの行為がバレなかったとしても、ケルク村に対して何らかの形で責任を取らせる可能性も高い。相手はあのハルメルドなんだからな」

 思わずオルトは黙り込む。どうしてもお嬢様のことばかり考えてしまう悪い癖がまた出ているのだ。

「私たちは大丈夫です!どうかお逃げください、アーネス様!」

 村人たちはとっくに覚悟は出来ていたのだろう。でなければここへは来ない。だからと言って村人たちを犠牲にしていいということにはならない。

「みなさん、本当にありがとうございます」

 アーネスが馬車から降りてきた。村人たちが早く乗るように訴えるが、アーネスは首を横に振った。

「アイン様のおっしゃる通りです。村の方々を危険にしてまで、逃げる意味はありません」

「そ、そんな……」

 村人たちは素直に落胆している。本当にアーネスのことを助けたい一心なのだ。

「アイン様、お願いできますか?」

「お任せを、アーネス様」

 俺が軽く芝居じみたお辞儀をすると、アーネスは優しい笑顔を返してきた。こんな笑顔で接せられたら、村人たちが心酔してしまうのも分かる。

 改めて周辺探知をする。追手の包囲の輪は完成しつつある。そしてその輪はしだいに狭まっていた。

 向こうからも探知魔法を掛けているのが感じられる。ここの場所は確実に把握されているだろう。

「みなさんはここを動かないで。オルト、あとは頼む」

「お任せください」

 脅える村人たちをオルトに任せ、俺は追手のほうへと走り出す。

 ひとり飛び出して来た俺に気付いた追手たちの動きが、一瞬、止まった。その瞬間、俺は一気に追手との間合いを詰める。

 我々を包囲するため、追手は広範囲にバラけている。なので、いっぺんに全員を倒すことは出来ない。

 まずは一番近くにいた追手を白光の剣で一刀両断する。追手は斬られたことにも気付かなかったのか、何の声も発せず身体を左右二つ別れ倒れた。

 間髪入れず次の目標に駆け寄る。夜の林の中なので、かなり近付くまで相手は俺に気が付かない。気が付いた時には、もう白光の剣で斬り倒されている。

 状況を把握しだしたのか、追手が俺を包囲しようと動きを変えた。しかし向こうから集まってくれるのは俺としては大歓迎だった。手間が省ける。

 追手が集まってきたところに襲い掛かり、立て続けに3人を斬り倒す。さらにもうひとり斬ったところで、追手が今度は逆に距離を取り出した。

 逃がすまいと追いかけるかたちで後ろから追手を斬り倒していく。

 あと残り数人となったところで、一部の追手がアーネスのほうへ走り出した。俺を手強いと判断し任務達成だけでもと考えたようだ。

「遠いか」

 気合を入れて駆け戻らなければならない、と思っていたが、すぐにアーネスへ向かった追手たちの反応が消えていった。そうだ、オルトがいたことを忘れていた。

 すべての追手を片付け馬車のところへ戻ると、想像通りオルトの足元に追手が4人ほど転がっていた。みんな首や腕が変な方向に曲がっている。相変わらず容赦無い奴だ。

「アイン様、ご無事で」

 アーネスがすぐに心配して優しい言葉をかけてきた。村人たちも不安そうに俺を見てくる。

「全部、片付けました。ただ場所はバレたので、早くここは移動しましょう」

「分かりました」

 改めてアーネスを馬車へと乗せる。疲れているとは思うが、ここは我慢して頑張ってもらうしかない。

「アーネス様、どうかお気を付けて」

 村人たちが心配そうにアーネスに声をかけた。中には涙ぐむ者までいる。

「みなさん、ご心配おかけして申し訳ございませんでした。みなさまもどうかお気をつけて」

「アーネス様……」

 村人たちに見送られながらオルトは馬車を走り出させる。アーネスは村人たちが見えなくなるまで手を振り続けていた。

 もうここからは時間との勝負だ。俺たちは真っ直ぐにエルフの森を目指した。

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