輝く新星たち9
平静で椅子に座っている俺。
次々と人数は減って、今は俺を含め五人。
待っている時間はさほど長くなく短くもないが、少しだけ早いと感じる。
敵の情報は分らないが、交渉は上手くいったとは言えないかもしれない。
ここまでの時間で十五人から残る五人になった事と、終わった者たちの表情から見て。
(自分と合うプロデューサー生がいないのか? プライドが高いのか? 詩乃は一筋縄ではいかいか)
絢音とは正反対の詩乃だが、だからこそ、そこに生まれる色が良い。
元気系と小動物系、この二色は強い。
詩乃の人気で客は来る。それで、絢音も知ってもらう機会にもなる。
俺の最初の計画は出来た。詩乃が入ったらの話だが。
「君、もう行けるぞ」
耳に入って来た声に、少しビックと驚いてしまった。
考え事をしていると時間が過ぎるのが速く感じる。
俺の番が回って来た。
(準備は出来ている。後は詩乃がどう出るか……?)
廊下を歩き二部屋先の詩乃の控室前に立った。
「ふぅ~、はぁ~~~」
大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
「詩乃」
「どうぞ」
詩乃の許可を貰い入室。
ライブ衣装ではなく、詩乃は白とピンクの色を基調とした私服姿。
向かい合うように俺は椅子に座った。
(清楚で可愛いぞ。詩乃)
ライブ衣装を着ていた幼さは落ち着き、代わりに清潔で凛とした空気を出している。
「名刺渡してないから名前分らないよな。俺は鷹月凱斗。よろしく」
「よろしくお願いします」
名刺を受取った詩乃。
「では、さっきも言ったが今日のライブ良かったよ。ファンも盛り上がってハウスのボルテージが熱かった。さすが、ドラフト五十位以内に入っているだけはあるな」
「ありがとうございます。それで、凱斗さんも私を取りたくて来たのでしょう?」
冷めた口調でのっけから単刀直入で訊いて来た。
とても、先ほどまでライブしていた詩乃とは違う。
「そうだ」
「理由を教えて下さい」
(まさか、詩乃って俺たちを試しているのではないか? 理由を最初に訊いて自身が納得あるいは、感銘を受けない限り契約の約束をしない)
詩乃の翡翠に光る双眸は俺から眼を離していない。
表情見て相手の考えを考えているのか?
(この間は返って詩乃の評価を下げる。作戦変更、俺の気持ちを熱く語ろう)
「一言でいえば、詩乃に惚れたからさ」
「ほ、ほ、惚れた? そ、それはどういう事でしょうか?」
俺の言葉に動揺したのか詩乃は頬を微かに紅く染めた。
「ああ。その歌声とあの笑顔。男は一殺だぞ。おまけに、その幼い顔立ち。それで、男が何も抱かないことが可笑しい」
「他には?」
「他は……。ない!」
「な、ない?」
きっぱりと自身が思っていない答えを出され詩乃は瞠目した。
「まぁ、強いて言えば、俺の心にどーーーんと来たからかな」
「ど~~~んとは?」
口癖の擬音語を発した俺に詩乃は首を傾げ、その『どーーん』の意味を訊いて来た。
「俺の心に熱く感じたってことだ。詩乃が欲しい。欲しくてたまらないのさ。お前を輝きさせたい。今以上に。これは、俺の願望だけどな」
「わ、わかりました」
終始、慌てた素振りを見せた詩乃だが、今は落ち着いている。
「俺からは以上だ」
「もう、良いのですか?」
詩乃は拍子抜けた。
まだ、自身に質問やアピールがあると覚悟していたから。
「ああ。伝えることは伝えた。後は、詩乃の気持ちだけだろ?」
「考えさせて頂きます」
「では、ドラフト会議の時にでも訊かせて欲しい」
「―あ、あのー」
立ち上がろうとした瞬間、詩乃が言葉を漏らした。
「今日中に出します。良ければ、連絡先を教えてください」
「いいぞ」
俺はポケットからメモ帳を取り出し、紙を破って携帯番号を書いた。
「はい。これが俺の番号だ」
「こちらから、連絡します」
「待っている」
俺は再び立ち上がり帰るが、ドアの前で足を止めた。
首だけ振り向かせ詩乃を見る。
「詩乃は必ず指名される。それは、俺の口からでも絶対とも言える。だから、それを信じて、どこに行くか決めてくれ」
詩乃に伝え終り俺は控室から退室した。




