運命の大・決・戦がここにはある4
「これで全員終わりでやがる」
心美は交渉に来たプロデュース科の生徒を見送り、一人呟いていた。
「凱斗はまだでやがるか。早く来るでやがるよ」
心美は凱斗の愚痴を零した。
「まだ、他のアイドル生と交渉してやがるのかな?」
契約交渉申請されたアイドル生たちにはタブレットで、その申請者の情報が見れる。
情報といっても指名したプロデューサー科の生徒がアイドル生に契約交渉を申請した人数しか見れない。
個人情報のため。
―バタン
威勢の良い音がタブレットを見ている心美の耳に流れ込んだ。
その音を連れて来たのは凱斗だった。
「やっと来たでやがるね」
「はぁはぁはぁ。悪い遅くなってしまって」
息を荒らしつつ、軽く頭を下げ謝る凱斗。
彼の登場に心美はやっと来たと呆れつつも、ホッとした。
絢音の言葉に釣られ、大幅にタイムロスしてしまった。
人は太陽の光には逆らえないと実感した。
太陽の光を浴びすぎると……
「遅いでやがるよ!」
「めんぼくない」
心美の声は怒気を少し滲ませている。
このような女の子には怒られる機嫌を損ねられる結果に。
すべて俺が悪いんだけどね。
頭を垂れ謝る事しか出来ない。
「どうして遅れたでやがるか?」
遅参してきた理由を訊かれ、俺は嘘偽りなく話す。
「一人目の女の子と喋りすぎてしまい、遅くなってしまった」
「そうだったでやがるか。分ったでやがる」
「お、怒ってないのか?」
俺は心美の表情を窺い恐る恐る訊く。
「まだ少し怒ってはいやがるけど、理由が理由でやがるから」
ここにもエンジェールがいた!
(詩乃もエンジェルだったが、心美もエンジェルだよ。俺は本当に心優しいアイドル生を見つけたと思う)
自分で自分を褒めたい。
「もう、凱斗と契約すると決めているでやがるから、サインするでやがるよ」
交渉もなくサインしようと促される。
俺、三人とも交渉してないな。
こんなに嬉しい事はない。
俺の熱意が伝わった賜物だな。
「ここにサインお願い」
契約書とペンを渡す。
達筆な字だこと。
心美の字は綺麗で丁寧な字。
口調は粗いのに。
「書いたでやがるよ」
「これで全員だ。職員室に提出すれば正式に契約完了」
「ワクワクしてきただやがるよ。他の二人はどんな感じの子でやがるか?」
心美は興味津々に絢音と詩乃の事を訊いてくる。
他のメンバーは気になるのは分る。
これから、同じステージで歌う仲間であり、共に夢に向かう同志でもあるからな。
「一人は明るく太陽みたいに元気な女の子で、もう一人は静かで凛として慎ましかな女の子かな?」
「正反対でやがるね」
「たしかに、言われてみれば」
たしかにそうかもしれない。
絢音は元気で前向きかつマイペースな気がする。
先ほどの余裕ぶりがそれを象徴している。
詩乃は黙って凛と待っていた。
何も言わず黙ったままご立腹だったけど。
「二人とも俺の心にどーーーーん! と来たからアプローチしただけだから気が付かなかった」
(凱斗は私を選んだ理由と二人と一緒なのでやがるかな? そうだとしたら、凱斗は自分の感性に合ったアイドルを取った事になるでやがる)
「心美もどーーーん! と来たからアプローチしたんだぞ」
「そうだったでやがるか」
(やっぱり、凱斗は自分の感性に合ったアイドルを取ったのでやがる)
「これから、よろしくな。心美」
「よろしくでやがるよ」
互いに挨拶を済ませ、俺は椅子から立つ。
「俺はこの契約書を職員室に出しに行って来る。次はメンバーの初顔合わせだ。日時は連絡するよ」
「分ったでやがる。次は遅刻しないでやがるよ」
「はい。心得ております」
最後に心美に釘を一本刺されれた。
次は絶対に遅刻しない!
三度目の正直です。
自分の心に戒め、自訓とする。
これから、俺が三人のストーリーを描いて行かないといけない。
重大な事だが、それ以上に白い譜面に好きな音符をふれる。
絶対に、最高の音楽を作ってやるぜ!




