輝く新星たち13
控室には俺と同じ者が二人いた。
(あいつ、この前のライブの時もいたな)
一人だけ見覚えのある顔。
イケメンで身長も高い。
ギンギラギンとさり気なく茶髪を掻き上げている
俺より数倍カッコいい。所謂、モテ男。
クール系な男だ。
俺は熱血で勝負。顔では負けるけど……。
イケメン男が呼ばれ、俺は一人残された。
すでに、イケメンではない。もう一人のプロデュース科の生徒、てっか、女の子だったけど。
その人は終わっていた。
一人取り残された俺は二人の事を考えた。
絢音と詩乃の二人。
詩乃が入ると仮定して。
最初はどんな曲で勝負させるか。
上手くいけば心美もメンバー入りだから三人の場合も考えていかないと。
センターは絢音に確定と決めている。
今は絢音しか出来ない。
アップテンポで元気が漲る曲がデビュー曲に相応しい。
曲作りはプロデュース科の仕事の一つでもある。
けっこうプロデュース科は仕事が多く、出来る者しか出来ない。
(心美が入れば異色のアイドルになるな。楽しくなってきたぞ)
頭の中で三人の活躍を描く。
一番歌が上手いのは断然に詩乃。
詩乃がリードしてくれれば絢音のカバーでき結果が付いて来る。
絢音はまだまだ荒削りの原石で、磨くのには時間が必要。
センターにするのは、彼女の声が人の心を鼓舞してくれる力があるから。
自然と元気が漲り燃え上がるような。
今は飽くまでも俺個人の主観だが、きっと、これが現実になる。いや、してやる。
―ガチャ
「次、君の番だよ」
ドアが開きイケメンが俺の番だと告げて来た。
「ああ。わかった」
「君、あの時も居たよね? ここでも会えるとは、どうやら、同じ感性の持ち主かな。僕の名前は柊歩夢。よろしく」
「俺は鷹月凱斗。よろしく」
軽く握手をしたが、今後、俺の前に立ち塞がるライバルになるかもしれない。
微笑む歩夢から何か圧されているような気がした。
『負けない』と言っているような。
「次はドラフト会議で会おう」
歩夢は控室を後にして帰って行った。
俺は心美の所へ。
何度もアイドル生たちと話しては交渉失敗をしてきたが、次があると前向きに考えて来たが。
今は不安しかない。
歩夢から感じ取れた静かで笑顔の中に隠している威圧感に圧された。
心美は歩夢に取られたと仮定して話すしかない。
―コンコン
「いいでやがるよ」
心美のきょかを得て俺は入室した。
「凱斗でやがるね。そこに座ってでやがる」
椅子に座り心美との交渉スタート。
「さっきのライブ盛り上がってたな。歌っている時は普通なんだな」
「これは口癖出やがる。普段はこれで話してやがり、歌う時は治してやがる」
「いつから、そんな喋り方を?」
普通に気になる心美の口調の生まれた時期を訊きたい。
「う~ん。昔見たアニメのキャラクターの真似をしていたら、こんな風になったでやがる」
「それって、『戦国戦隊、カイレンジャー』か?」
「それでやがる。あれは面白かったでやがるよ。凱斗もみていたでやがるか?」
「見てたよ。本当に面白かったな。毎日、カイレンジャーごっこをして遊んだぐらいだ」
『戦国戦隊、カイレンジャー』は俺が子どもの時に(幼稚園生時期)に放送されていた戦隊ヒーローアニメ。
戦国武将をモチーフにした戦隊ヒーロー。
レッド、ブルー。ミドリ。クロ。シロといた。
男の子なら誰でも見ていた。
放送された次の日には幼稚園で感想を言い合い、熱くなったシーンなど語った。
外での遊びはもちろんカイレンジャーごっこ。
運命のジャンケンで役決め、この時に何を出すか必死に考え戦う。
ジャンケンではめっぽう強い俺は敗けたのが覚えている範囲で一桁に留まっている。
憧れのレッド役を何度もした。
そのレッドが今の心美の口調で喋っていた。
俺も真似した時期はあったが、すぐに普通の口調に戻った。
ここまで、引きずる心美はそうとうカイレンジャーにハマったに違いない。
「やっぱりレッドが人気あったでやがるよ。そのレッドの真似をしていたらこうなってしまったでやがる」
申し訳なそうに心美は言った。
「でも、歌っている時は普通だが良いんじゃないか?」
「そうでやがるが、いつ、これが出るんじゃないかと怖いでやがる。直そうとは思っていてもなかなか」
不安げな顔になった心美は自身の口調を恐れている部分がある。
先ほどのライブでは普段の口調を出した事に後悔があるのかと。
「さっきのライブでは普段の喋りで喋っていたじゃないか」
「そうでやがるが。あそこにいたファンは馴染みのファンでやがる。今こうして喋っているのは、いずれはバレると思っているからでやがるから……」
「さっきの二人にも普段の喋り方を?」
「二人だけではなく、話し合いに来るプロデュース科の人たちには。大半はさっきの女と同じく直せと言うでやがる、さっきの歩夢という男の方は好きにして良いと言ったでやがる」
二人の言葉に迷って考え込む心美。
それにしても歩夢も俺と同じ考えか……。
だから、あの時、同じ感性の持ち主だと言ったのか?
強敵だ。柊歩夢。
いや、今は歩夢より心美だ。
(ここで心美に掛けてやる言葉が勝負の分かれ道だな。ここで心美は訊いて来る。自身の喋り方をどうしたら良いかと。俺の出す言葉は決まっているさ!)
「凱斗はどうした方が良いと思うでやがるか?」
よし、来た!
「俺はそれが武器だと考える。俺もその喋り方を真似したがしだいに抜けていった。心美は抜けていないのは、その喋り方を気に入っているからではないか? 直そう直そうと言う気持ちで歌う必要があるか? 本当に歌えるのか? 俺は歌えないと思う。今は歌う時は普通で心配はない。仮にその口調が出ててしまっても仮に出てしまっても、それはファンを魅了する武器だぞ。大丈夫。恐れることはない。カイレンジャーだって言ってたじゃないか」
俺はカイレンジャーの名台詞の一つを心美に送る。
「俺は仲間を使うじゃない。仲間と共に戦い仲間の業を信じて戦うんだ」
レッドが言った名台詞。
心美が瞠目していた。
「凱斗は私を指名するでやがるか?」
真剣な面持ちで訊いて来た。
これは、俺が心美を獲得できることが決定的になったな。
「そのために来た。心美が欲しいのさ。その歌声もそうだし心美自身も欲しい。俺の心にどーーんと来たからな」
心美の顔が薄らと紅葉色に染まっている。
「凱斗としか契約を結ばないでやがる。凱斗と一緒にアイドル活動をしたいでやがる」
「よっしゃ。やろう。心美。俺がお前を輝かせてやる。必ず」
決まった。歩夢に勝った。
どやぁ!
「ありがとうでやがる。初めてでやがるよ。私の口調を褒めてくれたのは」
「俺は武器だし魅力の一つだと思うからな。そのままでいいさ。普段は普通に歌い。その口調で歌って欲しい時は言う。これで良いか?」
「良いでやがるよ。この口調で歌って欲しい時があれば言って欲しいでやがるよ」
「ありがとう。これから、よろしくな。心美」
「よろしくでやがるよ」
俺は真田心美をゲット出来た。
後は、詩乃の連絡を待つだけ、詩乃もゲット出来たら万々歳だぜ。




