輝く新星たち10
桜川詩乃は一人歩いていた。
凱斗が去った後も、次のライブやらプロデューサー科の生徒たちの談合で遅くなった。
気づけば空は朱色に染まっていた。
彼女の双眸はせつなさを訴えっていた。
今日まで何十ものプロデューサー科の生徒と話しても、何も感じなかった。
「鷹月凱斗……」
ボソリと凱斗の名を口にした。
彼女は今日、凱斗と話して自分の何かが動かされた。
「凱斗は私を求めてくれています。アイドルとして、また、一人の女の子としても。何よりも私をちゃんと見てくれているのが嬉しいです」
詩乃は今まで談合してきたプロデューサー科の生徒たちの言葉を訊き飽きていた。
毎度毎度、同じような口答に自分ではなく、自分の声と彼彼女らが名声欲しさに勧誘しているようにしか聞えてならなかった。
アイドルになりたい気持ちはあるが、それよりも、話している最中に思うことがある。
自分を含めアイドル生を本当に必要としているのか? と。
ドラフト有力候補の者を取ればプロデューサーの者たちにとっても良い宣伝にもなる。
押し上げ活躍させて人気を獲得すればアイドル生も地位が上がるけど、一番はプロデューサー。
アイドル生たちを活躍させプロデュース出来る力があると見込まれる。
より、明るく見晴らしの良い未来が見えてくる。
詩乃はそれを知っているため軽く色好い返事を出さない。
彼女の返事はいつも『お断りします』の連続。
今回は違う。
凱斗に自分の心が射抜かれてしまっていた。
「『惚れた』ですか……」
ライブ以外では冷静かつ真面目な詩乃だが、今は凱斗の言葉に浮かれている。
心地よい気分の状態の彼女は
(凱斗……。あなたの言葉を信じてみようと思います。この身この心をもって)
詩乃の心は決まった。
決断を下した女は行動が速い。
ショルダーバックから携帯を出して凱斗の電話番号を押して行った。
呼び出しを音が彼女の心はドキドキと高鳴る。
『凱斗です。ただ今、電話に出ることが出来ない状態です。ご用の方はメッセージをどうぞ。どーん』
留守番電話だった。
詩乃はまだアイドル探しをしているのだと思い、伝言を残すことにした。
「桜川詩乃です。契約の件でお電話しましたが、留守番電話だったので、また、折り返し電話します」
伝言を残した詩乃は携帯を切りバックにしまうと家路と歩いて行く。
その足音は愉快な音色を響かせていた。




