三有谷決戦
長立。飯母や部田が率いる銀羽東路軍が通り越す町。普段は農作業で作った品を交通人にもてなして、稼ぎを稼ぐ休憩町である。しかし、銀羽の進軍を聞きつけた民は洲番城へと避難していた。その町の広場に天坊衆、桜火らが集まっていた。しかし、そこには千年の姿は無かった。この前の喧嘩から天坊衆を脱退、廃屋に戻ってもいなく。みんな少しながら心配する。
「これから、出陣前に話しましたが、この長立で銀羽軍を迎え撃ちます。軍を率いるのは飯母や部田の逆臣です。数は1000とその他よりも少ないですが、我々は8人ほどと、その差は絶望的な状況ですが、この町を利用して我らは伏兵となり軍が横断中に、出現して混乱を起こして迎え撃ちます」
その後、それぞれの配置に就いた。漉と稟は西に、中央には魅影と鐘楼に白蓮、東に滝と正鷹、町の出口の北には俺。そして、入口で一番危険の南には桜火が潜んだ。長立の町は、南北を街道が通っており、中央部に町と連絡目印の鐘楼塔があり、東西に二手に人を分けて物流のスムーズと商店街をよく見て商人の不公平が無い為の町づくりになっていた。しかし、この作りは敵にも警戒されるために、飯母や部田などの下級家臣や集めた兵の混成軍に進軍させた。統率と力いう面では最悪だが、こういう場所にとってプラスになる能力を持っているからだ。それは「乱取」と呼ばれる行いだ。「乱取」は、稼ぎや自給の少ない農民からなる兵が襲った村や町から食料や物や女・子供を攫って、市場で売り払う行い。この行為は国人などからも罪にならない行いとして認可されて戦時の際に、指定区域を「乱取認定地」とするくらい。許されるのは、「褒美」に理由があった。戦争を引き起こす理由は、防衛か侵略。防衛は家や家族の安全として挙兵するが侵略は、主に土地不足や食糧不足の改善で侵略する。さらに戦争後には、褒美を上げなくては反乱を起こされる為に、「乱取」を許して農兵への褒美の食料や金を賄っているのだった。人身売買の価格は高く、褒美よりも稼ぎが良かった。その為に農業を辞めて浪賊となり、盗みや人攫いとなる人も。同時に綾などの強姦などからの捨て子も増加。
飯母の第一陣が、長立へと侵入。東路軍は武闘派の飯母を第一陣、頭脳派の部田を第二陣として、波状攻撃の態勢で進軍をしていた。飯母率いる混成部隊は民家や庄屋を次々と破壊、「乱取」が始まった。それから時間が経った頃に、部田率いる自軍と飯母の軍が、南門に待機した。
「よし、そろそろ頃合い!進軍じゃな」
部田が第二陣を進軍させようとした瞬間に、馬から部田の頭が落ちた。馬に跨っていた部田の体も糸が切れたように、倒れた。
「・・・部田様」
第二陣の兵が叫ぶなか、桜火が第二陣に突撃。兵を次々と斬り殺していった。第二陣は急襲により、部田を失い統制が取れずに混乱をして山に逃げ出す物や後に下がるもの、町へと侵入して行くものもおり、第一陣へと知らせていく。知らせを受けた第一陣は引き返して桜火を打ち取りに行く。それが我の攻撃の合図だった。鐘楼に隠れていた白蓮が飛び降り、第一陣後方を襲撃、混乱となっていり危険だったが俊敏を生かし西側の道へと斬りかかった。その後、東西に伏せた漉・稟・滝・正鷹が襲撃。町を出かかっていた飯母の前に綾が立ちふさがり、後ろを突くように、魔獣へと化けた魅影が襲う。
「小僧!これが桜火の策か」
飯母の声が冷たい響きを伴って飛ぶ。しかし、綾の表情には動揺の色は見えない。
「そんなことはどうでもいい。俺はただ、天覇の命令に従う。そして侵略者であり裏切り者の貴様らを斬るだけだ。」
その声は低く、鋭く響く。
「浅いな、小僧。余程、世の中を知らなすぎる。」
「それがどうした? 貴様らは言葉を使って人を欺き、人を支配し続けてきただけだ。そんな言葉に惑わされることはない。」
綾は冷静な口調を保ちながらも、抜刀し一瞬で距離を詰め、宙を舞うように斬りかかった。その身のこなしはまさに凛とした剣士そのもの。飯母はすぐさま受け止め、刀が交錯する鋭い音が辺りに響き渡る。
「それが浅いというのだ!」
飯母は怒声を上げ、綾を跳ね除ける。その瞳には、経験に裏打ちされた冷厳な光が宿っていた。
「世の中の動きを見て、自分の考えで判断しなければならない。ただ力ある者に蹂躙され、欺かれ、死を迎えるだけだ!」
飯母の叫びが綾の耳に届くが、彼の冷徹な眼差しは揺るがない。
「ここで俺を倒したとしても、世の中の流れは変わらない。天覇は銀羽に殺される。五千という大軍の前には、俺一人の命では到底収まらない――それが戦だ!」
飯母は馬から降り、刀を振りかざして綾に斬りかかる。その一撃一撃には圧倒的な重さがあったが、綾は冷静に受け止める。剣技が繰り広げられる中、綾の表情はどこまでも冷徹で、一切の隙がなかった。
攻防が幾度も繰り返される中、綾は一瞬の隙を見つけ出す。そして千年との戦いで見せた技――流れるような動作で身を翻し、飯母の背後を取った。
「――流」
綾の声が静かに響く。その瞬間、飯母の右脇腹が切り裂かれた。
「ぐぅあああ……!」
飯母は膝を突き、刀を支えにして体勢を保とうとする。
「流だ。攻撃の中に生まれる隙間を捉え、体を滑らかに動かしながら斬る――これが貴様が馬鹿にした桜火から教わった技だ。」
綾の声には微塵の驕りもなく、ただ事実を告げる冷静さがあった。
「……くそがぁ……これだから若い奴は……」
飯母はそう呟くと、ついに意識を失い、その場に倒れ込んだ。綾は刀を静かに納め、その姿は冷徹な剣士の面影を残したまま、ゆっくりとその場を離れていった。
綾は飯母に止めを刺さずに、町の中の方へと行きみんなと合流した。長立での戦いは終わっており、仲間たちにも死傷者も無く無事に済んだ。その頃両陣営本隊中央の北路では、激戦を繰り広げていた。2000人を前後750人、銀羽と米童の周りを500人が取り囲んで進軍していた。北路は唯一の山道であった。山道と言っても少し膨れ上がった土地と森に整備の行き届かない道。大軍を率いる銀羽は一列に行進して進むしかなかった。その為前軍が山を抜けるのを待ってから、本隊、後軍の順番に行軍した。その為館以外を動かなかった銀羽の足はこたえ、木々の少ない場所で休憩を行った。森の出入口を前後の軍で固め、東側は50人を間隔で配置し西側の方を中心に450人の本隊が固めた。西路に町が多いため襲撃に備えての配地。これが天覇を銀羽の所へ連れていってくれた。天覇らは綾たちと同じで天坊衆で訓練を積んできた。もちろんコッソリと背後から兵を殺すことも。東側の見張りを一人一人殺し、銀羽の幕を見えた瞬間に突撃をかけるも・・・。
「東側からか」隆武面で顔を隠した武者鎧、米童だった。米童は手に持っていた薙刀を持ち、兵を斬り殺し、天覇の首を切り落とした。
「これでこの戦も終わった。後は2つの軍と合流して小間荷城を開城して終わりじゃ」
そう言いながら、天覇の兜を外して、首を持ち帰ろうとした。しかし、兜を持ち上げた瞬間に顔が上を向いた。
「これは・・・水信。機動部隊の・・・誘導・・・ならやはり西か」
米童は、水信の首を銀羽のもとへ持ち帰った。
「殿、天覇の刺客を一人打倒しました。この者は天覇の側近の一人で、機動部隊を率いて敵を攪乱し本隊などの攻めを有効に運ぶ部隊です。この者が、東側にいることは西からの奇襲があるかもしれません」
米童と銀羽が話し合っている中、早馬が報告を叫んだ。
「西の山から天覇の旗と成丸の旗と複数の人影を目撃」
との、報告に本隊が西に寄せ集まり、前後の軍が西の山へと向かっていく。
「これで戦は終わりか?」
「もしあそこに天覇が居れば、小間荷城を落として終わり・・・」
米童は決めかねていた、先ほど見たいに影武者ではないかと。しかし、その後の報告から西の山に天覇の側近中の側近である源平兄弟の姿が報告があった。その後成丸と共に、後退したの報告に、米童は確信を持った。しかし、この確信は間違いだった。
西の山には、成丸隊25人と本隊である源平兄弟、そして出綱の40人が配置されていた。一方で東側では、吉継隊の20人と梶時隊の22人が展開し、その中に天覇も加わっていた。
天覇と梶時は突然、東側の兵を次々と切り伏せ、猛然と本陣へ突撃した。悠然と敵を追い詰める自軍の様子に気を取られていた銀羽の陣は、この奇襲により大混乱に陥る。大軍の秩序と統率を保っていた兵たちも、本陣内という油断から次々と崩れ、本陣の守りが瓦解する。ついには、銀羽の周囲から守備兵が消え失せ、梶時を銀羽のもとへと導いた。
「おい、わしを守れ! 米童! 米童……?」
銀羽が振り返るが、その声に応える者はもういない。
「国人銀羽であるな?」
梶時が冷徹な声を響かせると同時に、槍を銀羽の背中に突き刺した。鋭い痛みに銀羽は膝を突き、その体勢のまま梶時の刃が一閃する。銀羽の首が胴から離れ、地面に転がった。
その頃、天覇は銀羽の配下である米童と対峙していた。戦場の騒音の中で、刀と刀が激しく交錯する音が響く。やがて天覇の刃が米童の左腕を切り落とし、続けざまに胴を三度突く。米童は力尽き、膝をついた。
「貴様が天覇か……! 家族を殺し、世の習いを無視して破壊を繰り返す――そんな破壊者が!」
「それだけか? なら死ね。」
冷酷に言い放つと、天覇は迷いなく剣を振り下ろし、米童の首を刎ねた。
その頃、銀羽の首を打ち取った梶時は、血濡れた槍に銀羽の首を突き刺し、掲げた。その首を見せつけながら、戦場に轟く声で叫ぶ。
「国人銀羽の首を、守人天覇が将、梶時が討ち取ったぞぉおおおおお!」
彼の叫びは、敵軍の兵士たちに恐怖を、味方に勝利の歓声をもたらした。銀羽陣営の混乱は決定的となり、戦場は次第に天覇たちの掌中に収まっていく――。
その一方を聞きつけた成丸と出綱は、西路で戦う重北と敵主力に告げた後、敵主力に突撃。報告を聞いた重北軍は激昂ともに勢いを上げ突撃。対する敵主力は、報告を信じる者と疑うもので入り乱れ統率がとれずに、混乱していた。そこに成丸と重北の突撃に軍は総崩れした。
天覇は敵が決死隊となり仇討ちを仕掛ける恐れがあるために、作戦に従い吉継や源平兄弟との合流地点に向かった。そこで天覇は敵との遭遇を避けるために、梶時は天覇と別行動で銀羽の首を持って洲番城へと向かい、勝利と援軍を呼びに向かった。合流地点に向かう天覇は敵との遭遇も無く、合流地点に向かうことができた。しかし、逆に一切これほどに遭遇がないのは不自然だった。合流地点に選んだ場所が、銀羽が陣を敷いている位置から南東に向かった位置にあるからだ。敢えて敵が来た方に合流地点を定めたのは、北側の位置にすると決死隊による襲撃の恐れがある。また東側だと、北側に侵攻した敵が敗走をする際に、偶然の合流がある。敗走中の兵は、考え道理に行動しないのが当たり前になっている。主人の命令で戦に参加してても、負け戦と知れば兵には命を捨ててまで従うことは無く、自分の命が大事になるため従来の考え方が通用しなくなる。その為天覇らは、合流地点を南東の位置に決めた。その場所は山の中に院が置かれている。昔に時の権力者がいろんなところにも、自分の像を置いて支配体制を充実させるために作ったが、現在その院の存在を知っているものは、定巖院の月定と地蔵の数人くらいしか知らことであったが、修行時代に耳に入れたことから、天覇はその場所を合流地点とした。
「天覇逃げろ」
天覇は全速力で走り込み、合流地点に到着した。しかし、目に飛び込んできたのは、源平兄弟をはじめとする本隊が、吉継や桜火の手によって次々と斬り殺されていく瞬間だった。
「おい……何してんだよ……桜火、吉継!」
天覇の声が怒りと困惑に震える。しかし、桜火はその声を受け流すように冷たく笑みを浮かべた。
「わりぃな、天覇。」
その言葉に怒りを爆発させた天覇は剣を握り締め、飛び出していく。しかし、付き添いの兵たちは吉継の部下たちの矢によって次々と撃ち倒されていった。
天覇は一人、桜火に斬りかかるが、その動きは荒々しく、冷静さを欠いたものでしかなかった。その剣はまるで泣き叫ぶ子供が振り回す玩具のように乱雑だった。
その様子を見て、桜火は軽く笑い声を上げる。
「どうしました? それでは、ただ駄々をこねる子供ではありませんか。何か欲しいものでもあるのですか?」
「貴様が欲しい……貴様の命が……そして、吉継を斬る!」
「そうですか……ならば。」
桜火は天覇の荒れ狂う剣に自ら身を晒した。次の瞬間、天覇の剣が桜火の首を刎ね落とす。
「え……先生?」
吉継がその光景に動揺の声を上げる。桜火が斬られるなど、予想もしなかったのだ。吉継は家族に見放され、裏切りへの恐怖を骨の髄まで知る身であった。そして、目の前で桜火を斬った天覇が自分へ向かってくるその姿は、悪夢そのものだった。
だが、天覇は吉継に届く直前、肩口に鋭い痛みを感じ、その場に崩れ落ちる。彼を刺したのは、斬られたはずの桜火の胴体だった。
「桜火……貴様……人間ではないな!」
天覇の震える声が響く。その言葉を聞いた兵たちも恐怖に陥る。
「桜火様……ひぇ……化け物だ……!」
兵たちが恐れ逃げ出す中、桜火は冷然と動き出す。彼らを瞬く間に斬り伏せた後、自らの首を拾い上げ、胴体へと戻した。断面が徐々に合わさり、まるで時間を巻き戻すかのように傷が癒えていく。
瞳孔に光が戻り、首を左右に回して音を鳴らしながら、桜火は冷たく笑みを浮かべた。
「どうやら君では私を殺せないようですね……」
桜火は静かに微笑みながら言葉を投げかけた。その余裕に、天覇は苛立ちを募らせる。
「おい、人の話を無視するな!」
天覇の声に、桜火はわざとらしい仕草で肩をすくめた。
「あぁ、そうでしたね……でも、失礼ですね。これまで一緒に修行を重ねてきた相手に向かって、人間ではない、だなんて。まぁ、あの辺の兵よりはマシですが……バケモノ呼ばわりは傷つきますよ。」
「話をはぐらかすな! お前は一体何者なんだ!」
天覇が剣を構えながら詰め寄る。その鋭い視線を受けながら、桜火は深く息をつき、遠い過去を見るように語り始めた。
「15までは、私も普通の人でしたよ。しかし、ユルシア大陸に学識を求めて遠征していた時、生死を彷徨う出来事がありました。命を落とす寸前で、ある者によって救われたのです。」
その言葉に、天覇は一瞬、剣を握る手を強くした。
「ある者……?」
「そう。その者から命を救われた代償に、いや、むしろそれ以上の力を手に入れました。そして、私はその者が持っていた“コア”という存在の凄さを知り、感動しました。それ以来、私はそのコアに従うようになった。それが全てです。」
桜火の言葉は静かだったが、どこか底知れない狂気と神秘を孕んでいた。天覇はその話に動揺しながらも、言葉を飲み込む。
その時だった――。
突如、西の方角で大火が上がり、赤い炎が夜空を照らした。その場所では、全身鎧を纏った男が銀羽軍を焼き払っている。
「弱いな。これが銀羽の主力ってやつかよ?」
鎧の男は、燃え盛る炎の中で冷笑を浮かべていた。その姿は圧倒的な存在感を放ち、場の空気を一変させる。
「ちょうどいいタイミングですね。雅竹という名をご存知ですか?」
桜火が口元に不敵な笑みを浮かべながら話し始める。
「あの者は、先日あなたが対峙し、火の海へと突き飛ばした二蔵の将です。その後、私が彼を救い出し、“コア”の施術を施しました。そして――雅竹は炎をその身に宿し、生き返ったのです。今や彼も“コア”に忠誠を誓うしもべとなりました。」
その言葉に天覇が顔を強張らせたその時、不意に斬撃の音が響いた。桜火のすぐ横を、綾の剣がかすめる。
「これは驚きです。まさかこんなところに君が現れるとは……。」
桜火は軽く笑みを浮かべながら、綾の姿を見つめる。
「それはこっちのセリフです。長立を制圧した後、先生の姿が見えなかったので、山に続く死体の跡を追ってきたら、こちらから兵たちの悲鳴が聞こえたものでね。」
綾は冷静に言葉を返しつつ、剣を構え直した。
「持ち場を離れるとは何ということですか?それに、ここは軍議の真っ最中です。部外者が立ち入っていい場所ではありませんよ。」
「何を芝居じみたことを言っているのですか、“コア”の桜火?」
綾の言葉に、桜火の目が鋭く細められる。そして一瞬の沈黙の後、彼は肩をすくめて笑い出した。
「……はぁ~、ばれてしまいましたか。でも訂正させていただきますよ。ただの“コア”の桜火ではありません。“コア”における私のコードネームは、“モザイク”です」
桜火は綾に向けて挑発的な笑みを浮かべると、冷たい声で命令を下した。
「吉継君、綾君を“やりなさい”」
「は」
短く答えると同時に、吉継は剣を抜き、鋭い動きで綾に斬りかかる。綾も一瞬の遅れもなく応戦し、火花を散らす剣戟が響き渡る。二人の剣技は互角に見えたが、その場の緊張感はさらに高まっていった。
桜火はその様子を静かに見守りながら、薄く笑みを浮かべていた――まるで全てが自らの掌中にあるかのように。
「やめろ! 吉継、仲間だろう! お前は俺や天覇と共に過ごしてきただろう!」
綾の声が震え、必死に吉継を止めようとする。しかし、吉継は冷たい視線を向けながら、嗤うように口を開いた。
「ああ、そうだよ。だがなぁ、それと同時に、あいつと一緒にいて落ち着く日々なんて一度も無かった。天覇の周りには、仲間を思いやる人間なんて誰一人いない。それどころか、俺たちはただのゴミ扱いだ! もう、嫌なんだよ!」
「だからって……!」
綾が叫ぶも、吉継はその声を遮るように言葉を続けた。
「それにな……俺は王様になりたいんだよ! 俺なら仲間を見捨てない。あいつなんかより、よっぽどいい統治ができるんだ! でもな、源平兄弟たちはそれを分かってくれなかった。だから――殺した。それだけのことだ。そしてお前も邪魔をするなら、同じだ!」
吉継の言葉に、綾は愕然としながらも剣を握り直す。その時、桜火――いや、“モザイク”が拍手をするような仕草で口を開いた。
「さてさて、邪魔者はいなくなりましたね。私“モザイク”は、この天生を神宮での営業拠点とするために、この地に戻ってきたのです。計画はこうです。まず、あなたたちを育て兵隊に仕立て上げ、御父上様の秀桃を殺し家督争いを起こさせる。そして兄弟同士で争わせ、国人銀羽を殺し、最後にあなたを始末して完了――というわけです。」
「そのために吉継を担ぎ上げたのか!」
綾が憤怒の表情で叫ぶと、桜火は薄く笑って頷いた。
「そうです。」
その言葉が響いた瞬間、綾の剣が閃き、吉継に上段からの一撃を浴びせた。吉継はたまらず膝を突き、血を流しながら叫ぶ。
「そんな考え方で、いい統治なんてできるわけがない! 自分勝手な思考では……!」
「うるさい! 桜火……俺にも“コア”の力を……!」
吉継は手を伸ばし、必死にモザイクに助けを求める。しかし、桜火は冷たい視線を向けるだけで、一切動こうとはしない。ただ、無表情でその光景を見つめていた。
それでも吉継は手を伸ばし続け、命が尽きかけたその瞬間――。
彼の体が突然、轟音と共に爆発した。
爆風に巻き込まれた綾が倒れ込む。煙が晴れると、そこには吉継の無残な姿が跡形もなく消え去っていた。モザイクは微かに笑みを浮かべ、ただ静かにその場を見下ろしていた。
「吉継――!!!」
綾の叫びが響き渡る中、どこからか足音が近づいてきた。体を黒いマントで覆った少年の姿が現れる。少年の肌や髪は白く、目は大きく見開かれ、頬には斑な赤い模様が刻まれていた。その異様な風貌に、綾はふと見覚えのある面影を感じ取る。
「……秋餅?」
その名前を口にした綾の声には困惑と驚きが混じっていた。しかし、少年――いや、ラエルは冷たく嗤い、声を上げる。
「お前なんか、ただの傀儡なんだよ!」
その言葉が響くと同時に、ラエルの左腕が筒状の形に変形し、綾たちに向けて砲撃を放った。
「くっ……!」
爆風に巻き込まれ、綾たちは大きく後退する。桜火がその様子を眺めながら、薄く笑みを浮かべた。
「すみませんね。彼は“ラエル”。“BBベット”という人造魔導器を施した秋餅なのです。ですが、術後の後遺症で人格が変貌し、以前の記憶を失っています。まぁ、“BBベット”は生前にその力を取り込み、死後に覚醒する魔導器なのですが……どうやらそれが問題だったようですね。」
桜火の冷ややかな解説が響く中、ラエルは再び動きを見せた。今度は右腕を鋭い刃へと変形させ、猛スピードで綾に襲いかかる。綾はギリギリでその一撃をかわし、距離を取ろうとするが、ラエルの左腕が再び砲へと変化する。
「逃がさない……!」
砲撃が炸裂し、周囲の地面がえぐれる。綾たちは疲労の限界に近づいており、動きは鈍く、足元がふらつき始める。息を荒げる中、綾の心に焦りが募る。
「くそっ……!」
状況は明らかに不利だった。ラエルの圧倒的な力と自在に変化する体に、綾たちは防戦一方となる。桜火はそんな彼らを冷淡な目で見下ろし、静かに囁いた。
「さぁ、“鬼ごっこ”はここまでだ。」
桜火の言葉と共に、ラエルの目が赤く輝く。その瞳には、かつての秋餅の面影など微塵も感じられなかった――。
ラエルが砲を向けたその瞬間、突如として背後から騎馬武者が突撃してきた。驚くラエルの隙を突き、馬の後ろ脚がラエルを蹴り倒す。現れたのは、綾に倒されたはずの飯母だった。彼は白蓮たちの拘束を逃れ、この場へ舞い戻ったのだ。
「お、おい! ここは一体……桜火! 貴様の首、この飯母が討ち取る!」
飯母は馬から飛び降りると、桜火に向かって突撃した。しかし、桜火は冷ややかな笑みを浮かべながら、瞬く間に飯母を斬り伏せた。
「綾、倒した敵はちゃんと最後まで仕留めましょう。」
桜火の淡々とした声に、綾は歯ぎしりしながら叫ぶ。
「お前もな――!!」
だが、斬られた飯母はまだ死んでいなかった。重傷を負いながらも桜火の下半身に飛びつき、力任せに寝技で押し倒す。もみ合う二人の姿に、綾はすぐさま判断を下した。
「今のうちに逃げるぞ!」
「何をほざけたことを! 俺は逃げん!」
天覇は反発するが、綾は真剣な眼差しで言葉を続ける。
「今なら桜火も動けない。ラエルも死んだか、気を失っている。逃げるなら今だ! 今逃げないと、俺たちは全員殺される! 奴らの目的は天生の乗っ取りだ。それだけは阻止しなければならない。そのためにも――生き延びて、この怒りをいつか晴らす!」
綾の言葉に、天覇は歯を食いしばりながらも頷く。そして飯母が乗ってきた馬に跨り、綾と共にその場を後にした。
「はぁ……やってしまいましたね。」
桜火は動かなくなった飯母の体を押しのけると、逃げ去る彼らの背を見送りながら冷静に呟いた。その横でラエルがゆっくりと起き上がる。
「いいのかい? 逃がしてしまって。」
ラエルの問いに、桜火は淡々と答える。
「構いません。恐らく、天坊衆の連中が見張っているでしょう。この飯母という男から、“落葉”の気配を感じます。“落葉”とは、守霊の術に使われる物を操る技として知られるものです。そして、この飯母を操っていたのは……おそらく地蔵か、月定でしょう。」
桜火は少し考え込むように間を置いたが、再び冷ややかな笑みを浮かべた。
「まぁ、いいでしょう。それも含めて楽しみです。それに――君たちを“コア”に紹介する段取りが必要でしたからね。」
そう言うと、桜火はまるで全てが計画通りであるかのように、ラエルと共にその場を立ち去った――。
花冠の言葉を胸に刻みつけながら、俺は剣の柄に手を添え、一歩を踏み出した。この旅の目的はただ一つ――桜火、桜火、そしてその背後に潜む“コア”という組織の正体を暴くこと。
これまでに失ったものを取り戻すため、そしてこれ以上奪われないために。俺は全てを背負って進む。たとえどんな闇が待ち受けていようとも、俺はこの道を進み抜く覚悟だ。
難を逃れた綾と天覇は、洲番城へと逃げ込んだ。綾は一目散に定巖院の秋餅の埋めた場所に向かうも、そこには人が掘り返したような跡があり、掘り返しても秋餅の遺体は無かった。一同同然のショックであったが、一番ショックだったのが稟だった。俺と稟はよく秋餅と話していたため、思い入れが多かった。その後天覇は、月定や地蔵に駆け寄った。モザイクの予想通りにあの飯母は地蔵が送った落葉だった。
その後天覇は小間荷城へと移り、戦勝祝いを行い国人へと天生の地に宣言した。それから、モザイクの屋敷をすべてくまなく調査し、ありとあらゆるものを調べつくし、モザイク、ラエル、雅竹を指名手配して三有谷の決戦は幕を閉じた。
それから半年後、廃屋組はそれぞれの道を歩むこととなった。
決戦後すぐに花冠が天覇のもとへ移ったことをきっかけに、自由奔放な白蓮が忽然と姿を消した。さらに、花冠と白蓮を失った喪失感に打ちひしがれていた稟も、二人の失踪に背中を押されるように旅立ちを決意した。こうして、仲間たちは次々と去っていった。
俺もまた、旅立ちを決めていた。だが、もう少し修行を積もうと考えていた矢先、地蔵が桜火を討つために旅立っていったことで状況は一変した。本来ならすぐに追うべきだったが、その時、月定が修行を引き受けてくれると言ってくれた。俺はその提案を受け入れ、半年間、自分を鍛え直すことに専念した。
そして――半年が経ち、いよいよ俺も旅立つ時が来た。
「気を付けてね……必ずみんなの仇を討って、桜火の首を取って。そして、無事に帰ってきてね。みんな旅立ってから、誰も帰ってこないから。」
花冠の声は震え、涙を堪えているのが分かった。その言葉に、俺は苦笑いを浮かべながら答えた。
「わかっている。花冠、俺は必ず帰ってくる。それに――夫以外の人をそんなに心配してはいけないだろう?」
「でも、私にとってみんなも家族なの! だから帰ってきて……それに天覇も、少し寂しがっていたから。」
花冠の言葉には、彼女の不器用な優しさが滲んでいた。それを感じながら、俺は短く頷く。
「わかったよ。」
「気を付けて。」
花冠が最後にそう言うと、俺は振り返らずにその場を立ち去った。彼女の祈るような視線を背に感じながら――。
こうして、俺――綾の旅が始まる。
花冠の言葉を胸に刻みつけながら、俺は剣の柄に手を添え、一歩を踏み出した。この旅の目的はただ一つ――ラエル、桜火、そしてその背後に潜む“コア”という組織の正体を暴くこと。
これまでに失ったものを取り戻すため、そしてこれ以上奪われないために。俺は全てを背負って進む。たとえどんな闇が待ち受けていようとも、俺はこの道を進み抜く覚悟だ。




