9話 咲実と同じでな
アイリスちゃんと別れた後、特にやることもないので帰った。
そして夜。
夕飯後のダイニング。
俺は、真剣に話しておくべきだと思った。
「咲実、話いいか?」
咲実は俺を見る。
「うん。いいけど」
姿勢を整えて、聞く姿勢に入ってくれた。
「咲実は、あの世界に行ってどれぐらい経つ?」
思い出す素振り。
「そうだね……たしか、一年くらいかな」
一年。
「そうか。咲実はその間に、自分のやりたいことを見つけたんだな」
「うん……」
咲実は、その一年で何を考え、何をしてきたのだろう。
「咲実は、やめるつもりないんだよな」
「うん」
「やめて、引きこもったままでいいと俺が言っても? 俺が養ってやるから生活の心配はするなと言っても?」
「それでもだよ」
即答だった。
世の人間の大半が魅力的だと思う提案に対して、この妹はバッサリと即答した。
でも、それでこそ、俺の好きな魔法少女なのかもしれない。俺が憧れた咲実なのかもしれない。
「だったら、俺もあの世界で何ができるか探すよ」
「お兄ちゃん……」
咲実は、諦め顔だ。
俺も、何を言われても譲る気がないと解ったのだろう。
「真剣に、俺はあの世界が、自分が何かできる場所だと、いや、何かしたい場所だと思った。何ができるかって言われたら、確かに何もできない。それでも、俺はあの世界で見つけたい。あの世界でこそやりたいことがあると思うんだ」
この現代世界よりも、誰かを助ける人が必要とされている世界。
魔法少女の咲実という、俺の憧れたヒーローが存在する世界。
「そう、なの……」
「例え、今度レノラさんに調べられる俺の体が、咲実たちの力になれるものでなくても、俺は自分のできることをするよ」
ただの人間でも、やれることはあるはずだ。
「とめても、無駄なんだよね」
「咲実と同じでな」
「うん……」
咲実は、諦め顔だったが、微笑んで頷いていた。
咲実side
複雑な、心境。
そんな感じ。
――あの世界でやれることをやりたい。
わたしとお兄ちゃんは、奇しくも同じことを考えている。
でもお兄ちゃんは、魔法少女ではない。
敵と戦えない。
わたしの場合。
この世界、現代世界ではいじめられてる子を助けて、逆に自分がいじめられた。
しかも助けた子は助けてくれない。
そんな理不尽に耐えられなかった。誰かを助けられる人でありたかったのに、助けても、自分が傷つくだけだった。
わたし一人が何かをできる世界ではなかったんだ。誰かを助けるなんて、おこがましい考えだったんだ。
そう思って、何もかも嫌になってしまって、引きこもった。何もしたくなくなってしまったんだ。
そんな時に、引きこもってた部屋でいきなり異世界に転移させられて、最初は戸惑ったけど、あの世界ならわたしはやっていけるって思えた。
だから、わたしはあの世界の方があってるんだよ。
守る為に、助ける為に進んでいける。わたしの力が必要とされている世界。
友達もできたんだ。だからわたしはあの世界がいい。
でも、お兄ちゃんはこの世界の方が、できることがあると思う。
そもそも、お兄ちゃんはわたしなんかよりずっとすごいんだよ。
わたしは、諦めてしまった。
けど、お兄ちゃんは誰かを助ける人を、ヒーローを続けていた。
ボランティアとか、人助けとか、小さなことだけど、まだ続けてた。
意味のあることだって信じて、貫き続けていた。
道場にも通っていて、人相手だとかなり強い。
だから、すごいって思ったんだ。
この世界で、人を助けられる人であろうとし続けた。
失敗しても、めげなかった。
だからわたしは、そんなお兄ちゃんに憧れてたんだよ。
お兄ちゃんみたいになりたいって、ずっと思ってた。
そんなお兄ちゃんだからなのか。
あの異世界で、わたしよりも何もできないあの世界でも、何かしたいと考えたんだろうな。
でも、それでこそ、わたしの憧れたお兄ちゃんなのかもしれない。