8話 アーモンドそのままでもボリボリいけちゃうくらいだね
アリアちゃんたちと別れた後、アイリスちゃんの元へ向かう咲実について行く。
「アイリスちゃんには、なんのお土産を買ったんだ?」
「これだよ。ダリオールっていうお菓子」
「ダリオール?」
「アーモンドクリームを詰めた折りパイ生地を、小さな型に入れて焼いたお菓子、って聞いたよ」
「へー」
「アイリスちゃんはアーモンドが大好きなんだよ」
「そうなのか」
「アーモンドそのままでもボリボリいけちゃうくらいだね」
「ヤバいな」
ヒマワリの種を次々と齧るハムスターのようにアーモンドを頬張るアイリスちゃんが脳内に浮かんだ。
かわいい。
そんな感じに勝手なイメージを抱きながら歩いていると、演習場に着いた。
中に入ると、視界に入る光景。
アイリスちゃんが、まだ鍛錬をしていた。
若草色のフリフリした魔法少女服を着たアイリスちゃんが、栗色のツインテールを揺らしながら、メタリックグリーンのステッキを振っている。
「『ヴィントウィンド』」
その言葉、詠唱の直後。
空気が震えたように見え、一つの木の的が削れ飛んだ。
視覚的に分かり難いのは、風魔法だからだろう。
アイリスちゃんは、風を操る魔法を使うと言っていたし。
彼女は自分の魔法が強くないとも言っていた。
確かに他の子の魔法と比べると見劣りはする。
けれど、十分強力な魔法なのでは、とも思えてしまう。
敵は、このレベルの魔法でどうにかならないほどの存在なのだろうか。
けれど、咲実たちは倒せると自信満々に話していた。
アイリスちゃんのこの魔法で力不足という事は、咲実たちの魔法は、あの時本気ではなかったという事か。
出力を出し過ぎると、演習場を壊しかねないとか、そういう理由で。
実際あの時、壁に当たる前に咲実は魔法を消していた。
「『ヴィントウィンド』」
アイリスちゃんは、何度も魔法を発動する。
熱心だな。
俺たちが買い出しに行っている間も、ずっと続けてたんだよな。
アイリスちゃんを眺める。
真剣な顔をして、魔法を操っている。
頑張り屋さん、その言葉が似合うだろう。
頑張ってる姿が、魔法少女らしいと思えた。
アイリスちゃんが魔法を放ち、一息。
鍛錬が一区切りついたように見えると、咲実がお土産を持ってアイリスちゃんの所に行った。
「アイリスちゃん」
咲実の声にアイリスちゃんは振り返る。
「わあっ、咲実ちゃん来てたの」
「これお土産~っ」
お菓子の包みを渡す咲実。
「これは、ダリオールですかっ! 咲実ちゃんありがとうです」
受け取ったアイリスちゃんはとってもいい笑顔をした。
それからすぐに、包みを解いてもぐもぐと食べ始める。
「おいしい?」
「おいひいですです」
なんだか、不思議な、のんびりとした平和を感じる。
咲実とアイリスちゃんの周りには、ほんわか空間が存在しているように見えた。
穏やかに二人とも笑んで、仲良く話している。
「お土産ってことは、どこか行ってたんです?」
「町に買い出しに行ってたんだよ。アイリスちゃんも誘おうと思ったけど、すごく真面目に鍛錬してたから、邪魔しちゃ悪いかなって」
「そうだったのです。誘ってくれたら行ったのに」
「なら今度またいこっ」
「うんですっ」
安心、といえるのか、俺はそんな気持ちになった。
咲実は、うまくやっている。
ずっと引きこもっていて、このまま駄目になってしまうんじゃないかと思っていた。
心配だった。何とかしたかった。
でも、咲実は俺が何かをしなくても、一人でうまくやっていた。
この異世界で、居場所を見つけていた。
――俺は、どうだろう。
他にまだ、咲実にしてやれることはないだろうか。
そして、俺自身は、この先どうしていきたいのか。
……真剣に、考えておく必要があるな。
「どう? アイリスちゃん頑張ってるけど、無理しないようにね?」
「うん。わかってるです。でも、強くなりたいから、いけるところまで、できる限りの全力を尽くすです」
「そう、だね……わたし応援してるから! それにわたしにできることがあったらなんでもするから言ってねっ」
咲実とアイリスちゃんは、気兼ねなく話している。
俺はまた安心する。
咲実は、本当に、仲のいい友達を作れたんだな、と。
……しかし、少しだけ、まだ少しだけ心配だ。
妹がちゃんとできるか、心配だ。
ここは兄の俺がもっと仲良くなるプランを考えよう。
余計なお世話かもしれないが、やりたいのでやってみよう。
ともあれ仲が良くなるには関わることだ、関わるとは、言葉もそうだが、スキンシップだ。
つまり。
俺は二人の元へ近づいていく。
談笑する二人、その空間へ入り込む。
「アイリスちゃん、ちょっといいかな?」
「? 私ですかです?」
「アイリスちゃんになんの用事?」
「ちょっとな」
アイリスちゃんの肩を掴んで、咲実から引き離す。
耳に顔を近づけ、小声で話す。
「アイリスちゃん、咲実にイタズラしようぜ」
「ええっ? だめですよぉ……」
「なら、俺がお手本を見せるよ」
「え? ま、待ってくださいです」
俺が言うとアイリスちゃんはギョッとして止めてくるが、敢行して見せて仲睦まじい様子が分かればアイリスちゃんも考えを変えるはず。
「咲実ー」
「アイリスちゃんは?」
戻ると首を傾げ訊いてくる咲実、俺はそれには答えず、後ろから追いかけてくるアイリスちゃんが止める暇を与えず行動に移った。
咲実のすぐそばに近づく。抱きしめられる距離だ。
「な、なにお兄ちゃん……? 近いよ?」
頬を染めて後ずさりしかける咲実の前で、両手を下から上へ一気に振り上げた。
俺の手には、咲実の薄ピンク色のスカートが引っかかる。
つまり、スカートめくりだ!
バサアッ、と盛大にめくれるスカート。
見える妹の下着は、白かった。
既視感。そういえば昨日見たアイリスちゃんの下着も、白かった。
友達揃って仲良く白い下着か。別に同じにしようとした訳ではないだろうけど。ふむ。
咲実は顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。
唖然として、しばらく何も言わず固まっている。
そして。
「――っ! バカが! スカートめくりとかいつの時代だよ!! ばかばか! ほんとばかだよ!!」
爆発するように怒り狂った。
どうやら逆鱗に触れてしまったらしい。
殴り掛かってくる咲実。
「ははは」
俺はそれを避け、振られた拳をいなしていく。
「むううぅぅぅぅ~~っ!」
顔を真っ赤にしたままかなり悔しそうな声をあげる咲実。
「はははは」
「ばか! あほ! すっとこどっこい! すけべ! しきま! ごうかんま!」
口撃に切り替えたようだ。
でも残念。咲実の罵倒はかわいいだけだ。
……。
ん? 強姦魔?
それは違うぞ!
「ま、まあまあ、咲実ちゃん落ち着いてです」
アイリスちゃんが頬に汗を垂らしながら宥めてくれる。
「そうだぞ咲実、少し落ち着け」
「お前がいうな!」
「咲実ちゃんの言う通りですよ大士さん、少し自嘲してくださいねです」
アイリスちゃんは困ったように頬を膨らませて言った。
「あ、はい」
年下の子に、しかも妹の友達に叱られてしまった。
でも、咲実とアイリスちゃんの仲は良好だ。
俺が何をするまでもなくそうだっただろうけどな。