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俺の妹が異世界で魔法少女やってたんだが  作者: ソウブ
一章 Magical Girl Guardian
5/14

5話 はい、咲実ちゃんは友達ですから



 演習場の見物が終わると、また敷地内を歩く。

 俺は、なんとなく裏庭の方が気になったので足を向けようとした。 

 しかし、咲実が俺の腕を引っ張る。


「そっちじゃなくて、こっち」

 そう一方的に言われると、反発したくなるというか、少し気になってしまう。

「いやでも、こっちも見てみたい」

「だめ、こっち――そうだ。お兄ちゃん、わたしの友達を紹介するよ」

「お、おう?」

「そうと決まったら早く行かないと」

「お前、友達出来たのか…………」

「なにその顔! そんなに驚かなくてもいいじゃん!」

「だって、引きこもりぼっちだったし」

「ひどい言いよう! わたしにだって友達ぐらい作れるんだから!」


 さっきの四人の女の子たちは、友達という雰囲気とは違った。対等という意識が多分なかったからだ。

 きっかけさえあればすぐにでも友達になれそうな程度のものだったけれど。

 

 俺の気になる意識は咲実の友達の方へと行き、腕を引っ張られるままに歩いた。



 俺たちがこの世界に最初に来た時に出た部屋、この世界の咲実の部屋のすぐ近く。

 その部屋の前に来ていた。


「アイリスちゃーん」

 咲実が名前を呼びながらノックをする。

「はーいです」

 ドアが開けられる。

「咲実ちゃん、いらっしゃいです」

 咲実を見て微笑み言う。


 と、俺に向けられる顔。

「そ、そちらの方は……?」

 おどおどと咲実に尋ねる。

「わたしのお兄ちゃんだよ」

「お、お兄さま……?」

 俺をじっと見つめてくる。


「お兄ちゃん、紹介するね。この子はわたしの友達のアイリス=ブレーメちゃんだよ」

 アイリスちゃんは、栗色の髪の、咲実と同じツインテールだ。

 赤と琥珀の中間のような瞳。

 全体的に白い服、スカート、クルーソックス。白いおみ足が眩しい。

 

「俺は如月大士だ、よろしく」

「は、はい。よろしくです。大士さん」

 上目遣いに、遠慮がちな瞳。

 穏やかで気弱な印象。

 最初の咲実への態度を見るに、仲良くなったら気やすく接してくれるのだろうか。


「アイリスちゃんも戦ってるのか?」

 こんなにか弱そうな少女が。想像できない。魔法少女と成って、敵と戦うなんて。

 いや、それこそが魔法少女なのか。

 

「アイリスちゃんはまだ修行段階なんだよ」

 咲実が答える。

「そうなのか」

「は、はい」

 おどおどと肯定するアイリスちゃん。


 話が途切れ、居心地悪そうに視線を彷徨わせるアイリスちゃん。

 咲実はこの状況を見守っている。助け船を出すつもりはないらしい。

 というより、俺が何とかしろということか。


 話が続かない状況の打破。何かないだろうか。

 話といったら。

 共通の話題。共通の知っている事。が話しやすいか。

 となれば、咲実の話。

 

「アイリスちゃん」

「は、はい」

 緊張した面持ちのアイリスちゃん。

「咲実は正義感が強い、それが長所の一つだ」

「はいです」

 アイリスちゃんは知っているというように頷く。

「だけど、その結果無茶をしそうになるから、アイリスちゃんも見てやってくれな」

「はい、それは、よくわかってます」

 俺たちは二人してうんうんと頷く。


「でも、咲実ちゃんは凄いんですよ。みんなの憧れの的です」

「そんなにか?」

「はい、魔法少女の鏡ですから」

 笑みを浮かべて、アイリスちゃんは友達の自慢をする。


 確かに、咲実に魔法少女はこの上なく似合う。

 それに、尊敬されているのはアリアちゃんたち四人の女の子の態度から見て取れた。


「二人で咲実を見ていこうな」

「はい、咲実ちゃんは友達ですから」

 とてもいい笑顔を見せるアイリスちゃん。

 少しは、打ち解けてくれたように見える。



「――もうっ! 二人ともわたしの話で盛り上がらないでよっ。なんか恥ずかしいよっ。それに無茶しそうなのはお兄ちゃんも同じでしょ!」

 今まで黙っていた咲実がついに耐え切れなくなったのか喚き立てる。

「俺は、問題ないから」

「何がどう問題ないの!」

 ぷんすかと白いツインテールをブンブン上下させている。


 しかし俺は咲実の言葉をスルーした。

「むむむむむ……」

 唸る咲実。

「むむむむむむむむむ……」

 唸る。唸る。唸る。

 

 そんな妹の頭を撫でてみた。

「むむむむむ…………」

 綺麗でサラサラな白い髪を、撫でる。

「むむむむ…………」

 撫でる。

「むむむ…………」

 撫でている。


「――って、こんなことでごまかされないよ!」

 咲実は撫でる俺の手を振り払った。


「だったら、アイリスちゃんについて何か知りたいな」

 もっと妹の友達のことを知っておきたい。

 いい子そうだし。


「ええっ? 私についてですか……?」

 アイリスちゃんは困惑している。

「だったらって、何も繋がってないんだけど」

 咲実は少しムスッとした表情。


「いいから、いいから」

 俺は強引に話を進める。

「むう……」

「友達の話をしたくないのか?」

「アイリスちゃんは戦闘術が得意なんだよ!」

 今までの自分の流れをぶった切って話し始めた。

 友達を大切にしているようで何より。


「そ、そんな、わたしなんか……魔法少女は魔法が強くないと意味ないし……」

 俯きがちに、アイリスちゃんは言った。

「魔法が強くないのか?」

「はい……」

「どんな攻撃魔法を使うんだ?」

「か、風を操る魔法です」

「風かあ」

 

 色々できそうなものだけれど。

 俺は魔法のまの字も知らないが。


 それにしても、戦闘術か。

 俺もたしなんでいる身、気になる。


「ちょっとお手合わせ願えるか?」

「え、は、ええっ?!」

 アイリスちゃんは吃驚仰天(びっくりぎょうてん)といった風に変な声を上げる。


「俺も戦闘術ならそれなりにやれると思うからさ、咲実が得意っていうならアイリスちゃんは強いんだろうし、戦ってみたいんだ」

 戸惑っているアイリスちゃんに説明する。


「いいねいいねっ。観てみたいっ」

 咲実は乗り気のよう。


「咲実ちゃんがそういうなら……」

 アイリスちゃんは何とか了承してくれた。


「まあ、怪我しない程度にやろうか」

「は、はい」



 また演習場にやって来た。

 今は俺たち以外には誰もいない。 


 俺とアイリスちゃんは向かい合わせに、お互い素手で立つ。

 咲実は横で座って見ている。


「準備はいいかい?」

「はい。いけます」

 準備運動をして、一息。


「よし、咲実頼む」

「わかったよー」


 咲実が右手を上げて。

「よーい」

 振り下ろした。

「スタートっ」


 同時。

 アイリスちゃんが先に動く。走ってくる。

 かなり素早い。

 俺はここで待ち、迎え撃つことにした。


 正面から俺に肉薄するアイリスちゃん。

 右の手を拳に固め、俺の脇腹辺りに突き出してくる。

 その拳を、取った。

 結構速い拳だったが、正面からなら取ることは容易い。

 そのまま投げに入ろうとするが、アイリスちゃんは構わず反対の拳を放つ。


 俺は投げを中断し、身を逸らせ避ける。

 アイリスちゃんは流れる様に、躱された勢いを利用して回し蹴り。

 俺はしゃがんで避けた。


 と。

 ここで、思わぬ事態。


 俺は今、しゃがんでいる。

 アイリスちゃんは、回し蹴りで大きく足を上げている。

 そしてアイリスちゃんのスカートはそこまで長くない、()つ、スパッツも履いていなかった。下着、一枚だけだ。 

 故に、スカートの中が見える。

 

 白い。

 眩しい。

 うおおお。


 こちらは一瞬の動揺。

 アイリスちゃんは気づいている様子が見られず、真面目に戦闘を続けている。

 回し蹴りの機動が変わり、踵が振り下ろされる。


 俺は動揺していた、それでも、鍛えてきた経験がある。

 何とか手を当てて踵の軌道をずらす。

 そのまま足を取ろうとしたが、後ろに跳ばれて失敗。

 跳びながら蹴りを放たれたが、こちらも後ろに引いて避ける。


 距離を取った状態。


 ――強いな。

 アイリスちゃん、思ってたより全然強い。

 戦闘術は俺と五分五分なのではないか。


 アイリスちゃんも同じように思ってくれているのか、目元と口元に小さな笑みが浮かんでいる。

 俺たちの目は合っている。

 僅かな手合わせだが、武人同士の不思議な友情、みたいなものが今ここに芽生えた気がした。

 周りが魔法ばかり使っているから、アイリスちゃんは余計にそうだろうと思う。


「君もやっぱり、魔法少女なんだな」

 か弱そうなのに、強い女の子。

「はい、みんなを護りたいんです」

 アイリスちゃんは意志の籠もった声でそう言った。


 さて。

「ま、アイリスちゃんが強いのは分かったし、堪能したし、この辺にしとくか。怪我してもいけないしな」

「お兄ちゃん中途半端―」

 咲実から抗議の声。

 体育座りをしたまま、渋い顔で右腕を振り上げて揺らし、遺憾を示している。


「いや、でも、な」

 俺はアイリスちゃんの方を見る。

「?」

 アイリスちゃんはキョトン顔で首を傾げる。


「あ! もしかして、あの角度どうなのかと思ってたけど、やっぱり見えてたんだ!」

 ぬ、目敏い。

 これ以上続けたら見過ぎてアイリスちゃんに悪いと思い、中断したのだ。


 アイリスちゃんは頭に?を何個も浮かべたような様子。

「女の子の下着覗くとかさいてー!」

「あれは仕方がないだろ」

 咲実がごちゃごちゃと騒ぎ立てる。


 そんな中、アイリスちゃんはようやく理解。

 顔を真っ赤にして俯いていた。

 短いスカートで動き回ってしまったことに気づき、スカートの端を掴んでいる。

 かわいいなおい。




 アイリスちゃんと別れた後。 

「あ、お兄ちゃん、もう転移装置動かせられるけど」

「え、そんなこと分かるのか」

「分かるよ。あの転移装置にわたしを登録しているからね」


 空を見れば、オレンジ色、夕刻。

「今日は帰るか」

「そうだね」

「レノラさんに挨拶、しておいた方が良いかな」

「いたらしておこう」

「いたら?」 

「レノラさんは忙しいから」

「ああそうか」

 確かに、一つの組織の長となったら、暇ではないだろう。


 レノラさんの部屋に行くと、やはり何か用事があったのかいなかったので、俺たちは帰ることにした。

 この世界の咲実の部屋に戻ってくる。


 部屋の隅にある灰色の円状の台座、これが転移装置なのだろう。

「ここに乗って」

 咲実の指示通りに台座の上に乗る。

 咲実も続いて乗ってくる。


「じゃあ、今から転移するからね。これで帰れなかったら、わたしも帰らないで考えるから」

 魔法少女の恰好になった咲実の言葉に、俺は頷く。

 例によって、フリフリの、ピンクと白と黒を基調とした魔法少女服に、メタリックピンクの精緻なステッキ。

 ここでどうなるかで、今後の方針はだいぶ変わってくる。

 少し緊張しながら、待つ。


「『世界転移』」


 咲実が言葉を発する。

 と。

 すると、感覚。

 ここに来た時と同じ、移動するような、変わるような、不思議な感覚。

 白く視界が明滅したと思ったら。

 瞬時にして、場所が変わっていた。


 薄いピンク色を基調とした、女の子っぽい部屋。

 元の世界の、咲実の部屋だ。


「あっさり、だったな」

「そだね……」


 俺たちは、あっさり、あっけなく、元の世界へと戻れた。

  

「飯食べるか」

 この世界とあの世界の時間は、同じだった。

 だからもう、夕飯時だ。

「うん、食べる。作るから待ってて」

 引きこもりな咲実は、料理をしたことはほとんどない。

 けれど引きこもる前は、結構していたような気がする。

 どういう心境の変化か、今日は作ってくれるようだ。

「楽しみに待ってるよ」

「うん……」


 俺は食事が出来上がるのを待っている間、自室に戻ってベッドに寝転がる。

 そうすると、やはり今日のことが思考に上ってくる。


 魔法少女、本当にいたんだよな。

 あの世界、凄いな。

 異世界や魔法があるなんて、まるで夢物語だ。

 でも、あの場所に、現実にあったんだよな。

 俺の好きな魔法少女は、実在した。

 また、あの世界に行きたい。

 

 妹が、魔法少女を、正義の味方をやっていたことを、心配な気持ちもあるが、嬉しく思った。誇りに思った。思い出の中の、憧れた妹はいなくなっていなかった。ここにいた。と。

 

 咲実はかなり優秀みたいだし、応援してもいいかもしれない。

 あれだけ強いなら、危険もそこまで心配するほどではないのかも。

 回復魔法なんて言う万能なものも、この目で見ているしな。

 

 この時の、何も知らない俺はそう思ったんだ。

 最初に、咲実の傷だらけな姿を見ているくせに。



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