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俺の妹が異世界で魔法少女やってたんだが  作者: ソウブ
一章 Magical Girl Guardian
10/14

10話 なんだ、これは……



 それは、突然だった。

 突然で、唐突だった。

 理不尽なほど、脈絡も予兆もなかった。

 真実、何かの終わりというものは、得てしてそういうものなのかもしれない。


 寝て起きて、次の日。

 いい天気の、日が差す朝。

 朝食後、直後のダイニング。

 食器を片付けようとした時だ。


「……っ」

 咲実が、何かに気づいたような、驚いたような反応を、急に見せた。

「どうした?」

「あ、う、うん。ちょっとね」

 咲実はそれだけ言って、椅子から立ち上がる。

 それから二階へと走っていく。


 ただごとではない。


 咲実の様子から、俺はそう判断した。

 物心ついた頃から一緒にいるのだ、悟られないなどと思ってもらっては困るぞ咲実。

 

 俺は食器を放り出し、咲実を追う。走る。

 ダイニングを出て、廊下を走り、階段を駆け上がった。

 咲実の部屋のドアが、急いでいるからか強く閉められる。

 すかさず俺はその扉を開けた。

 そして。


「『世界転移』」


 魔法少女姿の咲実が、そう言ったところを見た。

 

 視界が白に染まる。

 一瞬にして。

 世界は変動する。


 視界と感覚が戻ると、異世界の咲実の部屋。

 ベッドに、古めかしい机に、俺たちが今立っている台座、転移装置。


「来たんだね……」

「来たぞ」

 咲実は諦めた表情をしていた。

 そして気を取り直すように首を振り。


「お兄ちゃんは待ってて。わたしが帰ってくるまでこの部屋から出ないで」

 咲実は、今までで一番と言えるほど、本気な顔だった。

「なんでだ? 何が起こった?」

「敵が来たんだよ。それで魔省国から緊急招集の連絡が来たの」

 咲実のあの反応はそういうことか。

 恐らく念話とかテレパシーとかそういう類だろう。


「だから、お兄ちゃんは待っててね。いい? 『ゲシュペンスト』とは魔法少女しか戦えないからね。お兄ちゃんが来ても足手まといにしかならないから。絶対にここにいてよ」

 咲実は、俺の身を案じてだろう、そんな言い方をした。

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 咲実は、部屋から出て、走っていった。


 一人になった、静かな部屋。

「…………」

 俺は、ここで待っているべきなのか。

 

 さっきまでいた世界では、いい天気だったのに、この世界では今、雨が降っていた。

 ザアザアと、昏い空から雨粒が降り注いでいる。

 窓は水に塗れていた。

 

 咲実が心配だ。自分も少しでも力になれればと思った。

 敵とは魔法少女しか戦えない、と咲実は言っていた。

 けれど、今まで鍛えて来たのだから、少しは力になれるのでは。

 少なくとも、直接の戦闘は出来ないまでも、何か、ほんの僅かでもやれることがあるんじゃないかと。

 咲実が、魔法少女としてヒーローをやっている姿が見たい、とも思った。

 妹の晴れ姿が見たいんだ。

 俺は長年、その姿をずっと見たかったのだから。

 望んでいて、失われていなかったことを知れたのだから。


 魔法少女たちは、自分たちなら敵を倒せる。今まで倒してきた。と、自信満々だった。

 なら、大丈夫なのではないか。

 実際、他には手が負えなくても、魔法少女ほどの強力な存在なら、楽勝なのかもしれない。

 だったら、隅から覗くぐらいならいいのではないか。 


 ――それと。

 いやな予感がした。

 どうしても無視できない、いやな何か。

 それは得体が知れない、確信めいていた。

 

 理由がなくても、俺はこの予感だけで動いただろう。

 そして俺には、この根拠のない嫌な予感と理由がある。


 だから、ここで待っているなんてことは、できなかった。


 ドアを開け、部屋から出る。

 駆ける。

 歩いてなんて、いられない。


 魔法少女たちの、寮のようなこの建物を走る。

 廊下を進む。

 進んでいると。


「大士さん?」

 かけられる声。

 振り返る。

 栗色のツインテールの女の子がいた。

 アイリスちゃんだ。

「アイリスちゃんも、今から戦いに行くのか?」

「私はまだ修業中の身なので、任務には駆り出されませんですよ」

 アイリスちゃんは恐縮した様子。

「そうか……」

「大士さんは、どちらへ?」

 首を傾げて。

「ちょっとな」

「……?」

 訝しげなアイリスちゃん。

「急いでるから、もう行くな」

 俺は追及される前に、走り去った。


 

 建物の外へ出てから、自分が傘とか、雨具を持っていないことに気づく。

「まあ、いいか」

 咲実の部屋にあるかは分からないし、そもそもこの世界に傘があるのかどうかも知らない。

 わざわざさっき出てきた咲実の部屋まで戻っている時間も惜しい。

 俺は雨に打たれながら、すぐ近くの町に向かって走った。


 ずぶ濡れになりながら、走っていった先。

 町の近くまで来た。


 服が濡れて重くなった不快感も忘れて、立ち止まる。

 火が、見える。

 雨が降り注ぐ中、街の中に火の手が上がっている。

  

 いやな予感は、増すばかりだった。

 増大し、(こご)り、こびりついて離れない。

 

 敵が来てるのだ。火の手ぐらい上がるだろう。

 確かにこんな光景は実際には見た事はないが、敵が襲いに来ているのだから、これは当然に起こり得る事だ。


 なのに、俺はなぜこんなにも狼狽えている。

 それほど初めて見る本物の危急が怖いのか?

 …………。

 いや、違う。


 これは、根拠のない確信の予感だ。

 俺は、この先に進むのなら、覚悟を持つべきなんだと。

 そう思った。


「……」

 俺は。

 この世界で、やることを見つけるんだ。

 誰かを助けられるヒーローを、この世界でも目指し続けるんだ。

 憧れた魔法少女の咲実を、追いかけたい。

 咲実の力にもなりたい。

 

 だから、進む。

 ここで立ち止まるわけにはいかない。

 いやな予感という理由もあるが、俺にはその考えが、信念があるから、進むんだ。

 

 俺は、町に足を踏み入れた。

 

 悲鳴が、聞こえた。

 何度も聞こえる。

 雨音の間から聞こえる、老若男女の悲鳴。


 振動音。

 のち。

 悲鳴が、途絶えていく。

 いやな予感は、増すばかり。


 俺は足を止めることなく、進んでいく。

 

 異臭がした。

 雨の匂いの先の、新鮮な異臭。

 鼻をつまみたい衝動に駆られるほどの、嗅いだことのない臭い。

 

 赤。

 赤に染まっていた。

 赤に染まった町。

 

 雨に流される赤。

 この町は今、死の気配に包まれていた。


 ――妙な、光景。


 沢山の、巨大な水晶玉。

 それが、街のいたる所に転がっている。

 そうとしか言えない、光景。

 割れている物も、割れていない物もある。割れていない割合の方が高く見える。


 水晶の下から、血が流れてきている。

 あらゆる水晶の下から、大量の赤が染み出していた。


「なんだ、これは……」

 

 潰された、のか。

 これに、人が。

 

 不気味さと残酷さに比例して、水晶は綺麗だった。

 普通に飾られていたら見惚れてしまうほど、純粋に綺麗だった。

 丸くて、透き通っていて、神秘的だった。


 けれど、この場には酷くアンバランスで、心底気持ちが悪かった。

 人を潰している水晶など、綺麗な嗜好品ではなく、ただの凶器の石ころだ。

 

 これは恐らく、敵の何かだ。

 少しでも情報を得るために、触れてみた。

 水晶の感触。

 つるつるとした、硬い感触だ。

 割れないかと、殴ってみた。

 この状況への動転と怒りもあり、少し強めに。

「――つぅっ」

 拳を痛めただけだった。

 この水晶の硬度は、多分、かなりある。

 人間の拳や剣で破壊できるものではないだろう。

 大砲とかならまだ分からないが、俺は恐らく破壊できないと思える。

 いやな予感が、これはただの水晶ではないと訴えてきている。

 

 俺は調べるのをやめ、先に進んだ。

 情報は欲しかったが、そんなことを長く続ける時間が在るとは思えなかったから。

 

 落ちている肉塊。

 それと死体。

 どちらも死体。

 血がこびり付いた水晶。

 倒壊している家屋。建物。

 火事になっている家。


 進んでも、進んでも、そんなものしかなかった。

 目に映るものは、地獄絵図だけだった。

 

 けれど、見つける。

 先までとは違ったもの。

 立ち止まる。


 (たお)れている、少女。

 ひらひらした、華やかな服を纏った見知らぬ少女。

 けれど、同じ系統の服を見たことがあるような、生きていない少女。


 魔法少女が、死んでいた。

 マスコットが、その死体に縋っている。

 その少女は、下半身が水晶に潰されていた。

 瞳は光を映していない。


 別の所にも、魔法少女がいた。

 死体だったけれど。

 上半身が潰されて、下半身だけがはみ出て横たわっている。

 その傍らで寂しく浮いているマスコット。


 水晶のすぐ近くでマスコットが項垂れている。

 その水晶の下からは、血液が大量に流れ落ちていた。

 下には、魔法少女が潰れているのだろう。

 人の形を保てないまま、死んでしまっているのだ。


 俺の知り合いではない。

 それでも、魔法少女が死んでいる。

 その事実。

 

 俺は、胸が締め付けられる思いだった。

 苦しい。

 話したこともない魔法少女の死に、俺は強い悲しみを覚える。

 視界が滲んだ。

 恐怖する。

 絶望が、押し寄せてくる。

 

 だって、魔法少女は、俺の憧れた咲実の象徴で、強くて、あんなに華奢な少女が、強くて。

 こんなにか弱そうな女の子達でもヒーローになれるんだ、と希望を貰えた。

 俺はその英雄の女の子たちが大好きで。

 俺も、ヒーローで在りたくて。

 なのに、こんな。

 こんな、年端も行かない少女が無残に殺されている。

 生前は、とっても可愛い女の子だっただろう。

 なのに、だというのに。

 人生を、呆気なく強制的に終わらせられた。

 今は、ただの、物言わぬ肉の塊だ。

 

 ――――立ち止まるな。

 まだ、何も終わっていない。

 俺は、咲実を追いかけるんだ。

 いやな予感は、もう止まることを知らないほど増大している。

 ならば、早く行かなければ。

 咲実が、どうにかなってしまう前に。



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