それでは現場にお返しします!
はい、こちら現場です!
現在、王国を旅立った勇者様一行ですが、魔物との交戦の真っ最中です。そもそも今回の旅立ちは国王陛下の鶴の一声で決まったもので、かなり急な旅立ちとなりました。
さて、勇者様一行が戦っております間は私やることも特に有りませんので、今回旅立ちました勇者様一行についてご紹介することにいたします。
まず、最前線で戦っている銀髪長髪の美貌の剣士。魔物をバッタバッタと切り倒し、返り血など浴びないその流麗な戦いはまさに貴人に相応しい! 剣聖との呼び声も高い「銀閃の貴公子」、王国洋裁店の息子フェヒター!!
そう、これだけ見目麗しいのに平民なんですよねー。年頃のお嬢様方残念無念!! だがしかしそこで諦めてはいけませんよ! 今回の魔物討伐の旅が大成功を収めれば、叙勲行賞も思いのままでしょう。もしかしたら騎士の位を賜る可能性もあります。彼には王国中の若く美しい野心溢れるお嬢様方のためにもぜひ、輝かしい功績を収めてほしいものです。
おっとぉっ!!
動きの素早い魔物が、銀閃の貴公子の後ろから襲い掛かる!!
しかしその動きを見越していたかのように、軽く避ける! そして一閃!!
危なげ無く敵を屠る!素晴らしい!!
ただこのフェヒターさん、唯一の欠点が極度のあがり症。今も私が現場から映像をお送りしていることで、顔を真っ赤にして戦っております。恥ずかしくても戦闘からは決して逃げない! 素晴らしい根性だと思います。ですが顔が真っ赤! 鬼神の如き戦いぶりとの落差に大変おかしさを感じてしまいます!
実はこのあがり症のせいで、勇者様一行だというのに一切人前には出ないという徹底ぶり。例えば村に立ち寄った際、我々の一行が勇者様一行だと判明してしまった瞬間に忽然と姿を消します。そりゃもう「え、今ここにいたよね?」っていうくらい一瞬の内に。面白い特技ですよねー。
この剣技自体も、人からなるべく注目されないように素早さを徹底したという、その間違った努力の方向性! いやー。それでもここまで強くなれるとは、人間面白いですよねー。
お次はいつでも無口無表情な「鉄壁な冷血」こと王国軍所属の文官マヌーヴル! 上司に頼まれようとも頷き一つで声を発さず、可愛らしいお嬢さんに話しかけられても無視!年頃にもかかわらず浮いた話題どころか、友人さえもいないという徹底ぶり!!二つ名に相応しい徹底っぷり!!!
文官特有の線の細さに定評のある彼なのですが、なぜ文官が勇者様一行に?と疑問を持たれた方も多いのではないでしょうか。実は彼、魔物や魔法生物、果ては精霊まで使役できるというかなり珍しい家系に生まれており、幼少のころからその才能を発揮! 自身の戦闘能力が無くとも、勇者様一行の戦闘要員としてかなり役立つ人員なのです。
これまで、彼自身の普段の能力の平凡さから見落とされてきましたが、今回の戦闘をご覧いただくだけでその秘められた能力の高さは十二分にお分かりいただけるでしょう!!
そして、その戦闘中がかなりの珍物件! 百聞は一見に如かず、ということでご覧いただきたいのですが……かなりの衝撃映像なので、心してご覧ください。
「アノマロカリスちゃーーーん!!可愛いよぉぉぉぉぉっっっ!!!!」
「あ、嫉妬?嫉妬なの?ルチェルトラ!!大丈夫、君はカッコいい枠だからっっ!!」
「タペジャラっ!そんなもの食べちゃダメっ!!ペッしなさい、ペッ!」
「危ない!フォーヴ!!あああぁぁ、君の美しい毛並みが……!!ぶっ殺すぞっ!!!」
はい、ご覧いただいた通り。普段の無口無表情はどこへやら。戦闘中、というよりも彼の溺愛している契約獣の前では、こんなにも表情・感情表現共に豊かになってしまうのです。
ちなみにアノマロカリスちゃんは、全身を硬い棘に覆われた獅子猿で、硬い棘で相手をぐちゃぐちゃになるまで突き刺し、柔らかくなった肉を好む習性があります。成体になると人間もぺろりと一口で飲み込める大きさになるとか。その赤い目で睨まれたら、石化の効果もあるという大変珍しい魔物です。怖いですねー。
他の三匹については、また後程ご紹介する機会もあると思いますので、楽しみにしていてくださいね。
おっとぉ。溺愛しているフォーヴくんの毛が若干相手の魔物に切られてしまって、激怒してしまいましたねー。彼が激怒して見境なくなると、若干使役している子たちの統制が取れなくなってしまうんですよね。ここが街中じゃなくて良かったですね! まあ、この森の一部が焼け野原になるくらいでしょう。
あ、実はこの放送をお送りしている生物や精霊たちも、彼の使役している子たちなんですよー。いやー、凄いですね!
ちなみに映像をお送りしているのが、ドウメキという目が沢山ある魔獣の一種なんですね。ぎょろぎょろぎゅろぎゅろとしたその目玉たちからは、どんな悪事も悪党も逃れられないと大評判です!
私、今回の映像放送をするにあたりまして、彼からこの子を借りるためにかなり苦労をしましたよ……。ですがこれも、王国に勇者様一行の旅路を知らせるため、皆様に娯楽を提供するため!!粉骨砕身努力しております!
「あんたたちぃ、何やってんのよぉ。あんまり土埃あげないでくれるぅ? ケープが汚れちゃうじゃないっ!!」
おっとぉ!大事な人をご紹介するのを忘れていました!!
勇者様一行紅一点、「残虐なる非道の魔導王」あの奇人変人と名高い先代ストレーガの唯一の後継者にして、この世の魔導師の頂点に君臨する存在になる予定!「可憐なる魔導姫(自称)」ソルセルリー・ストレーガその人です!!
いやー、自分の周りにだけ防御結界を張り巡らせ、戦場でも優雅にお茶を楽しむその姿。まさに戦場に咲く大輪の花ってかんじですねー。
「あぁー、もうっ! 早く出発しましょうよぉー! あたしはゆっくり休みたいのっ!!」
おおおおおぉ! 皆さんご覧いただけたでしょうか?
彼女が指を軽く振れば、空から私たちを狙って攻撃していた飛行魔獣の群れたちが、あっという間に黒い霧に飲み込まれて消えてしまいました! 流石は魔導姫!!素敵!!!
……? 反応がよろしくないですね……? 何ででしょうか……?
あ、もしかしてソルさんの見た目に圧倒されちゃいましたか? ですよねー。
ソルさんの見た目迫力ありますもんねー。すらりと高い背!豊かな金春色の艶やかな髪!赤紫色に輝く瞳!スッと高い鼻!呪文を唱えるたびに妖しく動く紅色の唇!
魔物を打ち砕く逞しい二の腕!一瞬で相手を締め上げる包容力の高い胸筋!その見事なる脚から繰り出される蹴りは、岩をも軽々と打ち砕く!!魔導だけではないその力強さは、我々勇者様一行全員を軽々と持ち上げることすら可能です!!
「ちょっとぉ! 何言わなくてもいいことまで言ってんのよっ!!」
あ、すみません。ここからさらにこの間あった「どき!ぽろり☆勇者様一行が立ち寄った村で起こる事件! 湯煙の向こうで倒れ伏す笑顔のマヌーヴル。その時、銀閃の貴公子は山奥で山菜を抱えたまま迷子に……? 何がどうしてどうなった!? 「面倒なのはごめんよぉ」と言いつつ、立ち上がる魔導姫(自称)。その強引な剛腕ですべてを解決するのか。真実はどこにあるのか、そして意外な犯人とは……? 美味しいご飯で私は大満足。もうこの村から動きたくない」についてもお話ししたかったんですけども……残念です。
さてさて、ここまでお送りしてきました勇者様一行の戦闘風景、いかがだったでしょうか。お楽しみいただけましたか? 次回もお楽しみいただければと思います!
え? 勇者様についてご紹介していない?
それは当然ですよ!! こんな雑魚との戦闘ごとき、勇者様のお手を煩わせるわけにはいきません!
むしろ勇者様のご勇姿を、そんな安売りするとか!!神への大冒涜ですよ!!!もうね、そんな簡単に勇者様を王国中の若いご婦人という名の猛獣共に見せられるわけが無い!!
大体、こんな辺鄙な森の中で勇者様が戦闘なんてなさったら、勇者様の箔が落ちるでしょう。勇者様がご活躍されるのは、もう私たちでは到底敵わないような強敵が現れ、味方が力尽き、もう後がない!みたいな状況で颯爽と登場しないと! ……それでもまだまだ勇者様の威光を示すには、到底及ばないですかね……。もっと良い登場場面の構想を練らなければ!!!
それでは。担当は、勇者様の忠実なる下僕。「幻影」ことユリンがお送りいたしました!
その頃、王宮内は静寂に包まれていた。それもそうだろう。勇者一行の送ってきた映像は、王宮の中枢にいる人々の想像を越えていたのだから。
到底たった数人の力では立ち向かえないほどの魔物の数、そして強さ。しかも全く苦労もせず易々と彼らはそれをやってのけたのだった。それは彼らの想像の域をはるかに凌駕していた。そもそも彼らは国内のはみ出し者だったのだから。
事の始まりは二十年程前のこと。大陸にある各国がそれぞれ自国内で勇士を集い、魔物討伐を行うことを表明したことであった。それだけ世界は魔物の被害に切迫しており、被害は増すばかりであったからだ。
だがこの王国では魔物の被害は大したことが無く、各国が魔物討伐に名乗りを上げ始めた頃は討伐を行う気は無かった。国力を削ってまで、他国に恩を売る必要を感じなかったのだ。
しかし、魔物の出現は活発化の一途をたどり王国の周りの国が我も我もと討伐隊を結成し始めた。このことに国王をはじめとした中枢が焦りを覚え始めた。国際社会において各国と足並みをそろえることは重要である。自国内から勇者一行を送り出し魔物討伐を行うということは、ひいては自国の力量を見せつけることにも繋がる。逆に、勇者一行を自国から出せないということは、それだけの余力が無いということを示してしまう。つまりは他国から攻め要られる隙を与えるということだ。
国王は勇者の選定を行い、自国内から優れた勇士を集めようとした。だがそれは上手くいかなかった。国内の人々は魔物の被害を甘く見ていた。自分たちが何故魔物討伐などという他国のために我が身を犠牲にしてまで戦ってやらねばならないのか。そう考えていたのだ。
それは国王たちも同様で、自国の力をなるべく削らずに、しかし他国に対する見栄だけは張りたい。ついでに恩も売りたい。そう考えるのに時間はかからなかった。
そこで一人の大臣がこう言った。「国内の出来損ない共を勇者に仕立て上げ、送り出しましょう」と。
その考えは満場一致で可決され、国内の扱いずらい戦力たちが集められた。それがパン屋の息子でしかないのに一騎当千の力を持つフェヒターであり、魔物を操るという怪しげな魔導を使うマヌーヴルであり、残虐非道な魔導王の唯一の弟子であるソルセルリーであり、異世界から落ちてきた若者であった。彼らは無理やり勇者一行に仕立て上げられ、送り出されたのだ。
旅立ち以来何の音沙汰もなく全員儚くなったかと国内で話題にすら上らなくなった頃、今回の映像を映す魔導結晶が送られてきた、というわけであった。
「へ、陛下……」
「……いかがいたしましょう」
王国の中枢たちは恐れ戦いていた。それはそうであろう。彼らは捨て駒として送り出してのだから。活躍など全く期待していないし、むしろ向こうからの連絡など想定すらしていたかった。
「……こちらからの連絡手段はあるのか」
「いえ。魔導研究室の奴らにこの魔導結晶を解析させましたが、全く能力の解明ができず……」
「使えぬ奴らめ」
「まあまあ、皆さん落ち着いてくださいよー。国のお抱え魔導師如きじゃ、ソルさんの魔導の解明なんて夢のまた夢ですよー。人間と蟲、いやいや神と寄生虫くらいの差があるんですからー」
「!!」
そこは王宮内でも特に秘された内容の会議を行う部屋で。入口どころか建物に入ることすら不可能とされている。そんな部屋に侵入者など到底あり得ない。しかしそこに誰であろう先ほどの映像に移っていた人物、「幻影のユリン」がいた。
「幻影のユリン」といえば、他国でも名の知れた暗殺者である。報酬さえ積めば、どんな危険な任務だろうが確実にこなすと言われている。そのユリンを名乗る人物が、先ほどまでの映像と同じように人畜無害な顔をしてそこにいた。
「き、貴様はっ!!」
「どうもー。幻影のユリンこと、勇者様の下僕ユリンでーす」
ニコニコと、人の好い笑みを浮かべるユリン。その顔だけ見ればとても希代の暗殺者には見えなかった。しかしその室内は、身の凍るような緊張感に一瞬にして包まれていた。誰かがごくりと生唾を飲み込む音がした。その様を見てユリンはさらに笑みを深め、話し始める。
「私たちの活躍、ご覧いただけましたか? 素晴らしいでしょう! 流石は勇者様がおまとめになっているだけのことはありますよね!! ああ、勇者様の素晴らしさ!この目で実際に見るだけでなく、魔導結晶越しに見てもその素晴らしさは損なわれませんねー!!!」
国王や大臣たちがあっけにとられている中、ユリンはニコニコと笑いながら別世界に行っているかのように周囲の様子を気にかけずに勇者賛美を続けた。
それが一段落着いたのか、国王たちに視線を合わせ子どもに話しかけるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「はあ。私としたことが、皆さんを待たせてしまいましたね。申し訳ありません。ですが、映像をご覧いただいたことで私たちの実力は分かっていただけたかと思います」
つきましては、とユリンは言った。その後に続く言葉を、国王たちは固唾をのんで見守る。自分たちはこれまで勇者一行に一切の援助を行ってこなかった。その報復をされるのだろうか。それとも膨大な資金の提供の要求だろうか。それとも稀有な能力の高い武具や魔道具を請求されるのか。何にせよ。自分たちにとって良い結果とはなりえないだろうと、最悪の想像ばかりが頭をよぎる。
「つきましては、各国への通行手形の発行をお願いしたいと思っているのですが、いかがですか?」
「「「は……?」」」
ニコニコと笑いながら、ユリンは話し続ける。
曰く、これまでは国内で魔物の被害が増えているところを中心に移動を続けてきていた。しかし、この国よりも周囲の国、ひいては大陸の果ての国々の方が魔物の被害が大きい。勇者はそれを憂い、王国から出てそうした国々を救いたいと言っている。そのためには、王国に各国との通行手形を発行してもらわなければ移動が難しい、とのことであった。
「まあ、不法入国しても良いのですが、勇者様がそういうことは嫌がられるので」
それだけの能力は十二分にあるのだと言いながら、ユリンは勇者の意思を優先させると言う。
国王や大臣としては、その程度の事ならば容易く行える。すぐに許可を出そうと思い、そこで別の考えが、簡単に言えば欲深い思いが国王の脳裏を駆け巡る。手形と引き換えに自分たちに有利な取引ができないだろうか、と。これを機会に勇者一行を自分の配下に置ければ、自分たちの国力をさらに高めることができるのではないか、と。
その侮りは、ある意味当然であったのかもしれない。この場にいるのは先ほどの映像で見た、一騎当千の強者でも大火力を持っている者でも、魔法生物を操るという荒唐無稽な能力の持ち主でもないのだ。ただの噂でしかない影の者。しかも本物かどうかすら定かではないのだ。
しかし。国王が自分の良くにまみれたそれを言い出す前に、ユリンが口を挟む。
「「あ、そうだ」……何だ、まだしゃべり足りないのか」
自分の発言を遮られて、いささか憮然とする国王。しかしそこは度量の大きさを見せつけようと、ユリンの発言を許容し促した。
「もし、受け入れてもらえなかったら」
かつり、と音がした。
それは、自分の喉元からした音で。
大臣たちが息をのむ。
守護兵たちが自分の目に飛び込んできた光景を見て、腰の剣に手をかける。
国王が恐る恐る自分の首元に視線を向ける。
「この国の中枢全部、すっぱりいっちゃうかもしれません」
そうニコニコと楽しそうに笑いながら言うユリンの手には、鋭く尖った暗器が握られていた。その切っ先は国王の首筋に軽く当てられていた。そして大臣や守護兵たちの足元にも似たような暗器が刺さっており、動きを牽制していた。その早業に誰もが自分との力量差を痛感させられる。国王や大臣はもちろん、守護兵たちすらもが全く感知できなかったのだから。
そして現在誰も怪我をしていない状況が、最終通告だということを意識させられた。彼らを舐めて軽く見ていた自分たちを。この者の力ならば、いつでも自分たちの首を簡単に刈れるだろうことを。
しかし現実にはそうはならなかった。この暗殺者は軽く見られたというその怒りを押し殺し、敬愛しているのだろう勇者の要望を優先させたのだ。
ではもし、その要望に対して取引をしたらどうなるのか。
「国王陛下、お返事は?」
ユリンが、先ほどまでと微塵も変わらない笑顔で国王に促す。
国王の答えは、もちろん。
「あれ、ユリン。どこに行ってたの?」
その一声で、私は泣きそうになる。ほんの少し離れていただけで、勇者様はこんなにも私のことを心配してくださるのだ!!歓喜!!!
本当は、本当は、勇者様のお傍を片時も離れたくなかった。しかし、この先の旅路を思い憂いている勇者様のご心痛を少しでも軽くして差し上げたくて、ソルさんのお力を借りてゴミ屑共の所に行くしかなかったのだ。私が適任とはいえ、正直勇者様と離れるのは辛かったっっ!!
「勇者様ー!!下僕の分際で、勝手にお傍を離れて申し訳ありません!!!」
「え、いや、べつに、その」
「あ、そうだ勇者様。こちらを」
「え、何これ?」
「あらぁ、通行手形じゃない?」
ソルさんの言う通り、これは各国との通行手形なのです!これさえあれば、勇者様が行きたがっていた隣国の海を見に行けたり、美食の国にだって行けちゃうんですよ!!
「え、凄いね」
「いいじゃなぁい?」
ああああああああああぁぁぁぁぁっっ!!!
勇者様に褒めていただけたっっ!!!それだけでユリンは、ユリンはっっ!!!
少し困惑している様子の勇者様ですが、私とソルさんとで全力で話を流しますよー。勇者様のお耳に入れるほどの話ではないですしね。と、そうこうしている内にみなさん後片付けが終わったのか集まってきましたね。
あ、フェヒターさんお疲れ様です。マヌーヴルさんのはっちゃけで燃やしてしまった森の鎮火無事に終了したんですか? そうですか。あ、マヌーヴルさん。フォーヴくんの毛並み整いましたか? ああ、相変わらず綺麗な毛並みですね。牙と爪の鋭さが際立ってますよ。
「出発するか?」
「あ、うん。そうしようか。マヌーヴルも準備大丈夫?」
「ああ」
さあ、行こう。と勇者様が私たちを促す。それが嬉しくて嬉しくて、私の心は遥か高い空の上まで舞い上がるのだ。あ、フェヒターさん。勇者様の荷物は私がお持ちしますよ! あ、勇者様!そんなっっ!!お持ちしますってばっっ!!!
あああ、流石勇者様! 下僕に任せないその優しさっ!! 素晴らしいですっっ!!!
私たちの旅路に、その優しさや包容力、寛容さは無くてはならないもの。私たちは、あなたのその力に救われたのだから。
たとえ、こちらの世界に来てすぐのあなたを簡単に捨てたこの王国への憎しみと憎悪は消えなくとも、あなたがそれを許している内はこの王国を滅ぼさず利用しつくしてやりましょうとも!!
「ユリン行くよー?」
「はいっ!! 只今参りますっっ!!!」
こちら勇者様一行、新たなる土地への旅立ちの現場です!
これからも勇者様のご勇姿とご活躍を、お送りいたします。楽しみに次回放送をお待ちください。