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ハーフデッド ~半死者の異世界記~  作者: ウシネコ
一章 冒険者生活
4/5

目覚め

 リーガスの王都からみて東に位置するそれほど遠くない森の中。

日はすっかり沈み、数時間前までの土砂降りの雨の痕跡は地面に降り貯まった水たまりや

ぬかるんだ土、木々の葉についた雫にしか見受けられない。


そして、トールもそこに居た。

もう何時間も両膝を着き、うなだれた様な格好のままで動いていなかった。

一見すると死んでいるように見える。だが、血の気ある顔は死人とは違った。

そんな時である、トールの目が薄く開かれ、軽い瞬きをする。深く息を吸って吐きだす。

うなだれた姿勢からグッと背筋を伸ばす。


パキッゴキッミシミシボキボキ!

「うおごっ!!」


明らかに人体が発してはいけない様な異音がなると同時にトールの口から悲鳴が漏れた。

その痛みはぼんやりとしていた意識を戻すには強烈すぎるほどだった。


「あいででで……、体中バッキバキだ……」


そういうと少しずつ体を伸ばす、そのたびにバキボキという音が鳴りトールの口からは

「うぐっ」「いでっ」などの苦悶の声がでる。そうして少しばかりの時間をかけて

体をほぐし終わり一息つく。そして改めて体へと目を向ける。

体中に泥が付いていてひどい状態だが、幸いにも乾いているのが救いだ。

装備は革鎧は汚れているのは仕方ないとして急所などを補強している金属部分が

雷に打たれたせいで軽く変形したり脆くなっているように感じる。

剣についてはあまり信用ならない。変形が激しく、刃がほとんど無くなり

かろうじて切っ先がとがっているため刺突ならば出来なくはないだろうと言った所だ。


「はぁ、買い替えが必要だな。財布がさみしくなるが……」


仕方ないとばかりに溜め息をつき、そしてあえて意識せずにいた事を考える。

自分は「トール」か「トオル」なのか。


まずトールの記憶はある。

自分の生まれから今に至るまではもちろん、剣術、魔法、国の状況などだ。

ではトオルの記憶の方はというと、こちらもある。

日本史、世界史、数学、化学、などの知識。様々な料理の作り方もしっかりと覚えている。

心の中で自問自答するもののどちらとも言えなかった。


「……考えても分からんな。それに大事なのは自分がどうするか、だ」

そういうと一呼吸おき

「全力で生きる事を誓ったトール・オールドリバー、それでいい」

そう言い切って気持ちを切り替える。町に近いとはいえ魔物もでる森である。

「さて、となればまずは帰るか」


そうと決めたら行動は素早く行わなければならないため今の装備と今の状況を考える。

防具に関しては何とかなるが剣はあまり使い物にならないと考えた方が良いだろう。

とはいえトールは魔法での戦闘も行えるのでそこまで絶望的ではない。

しかし魔物とできるだけ出会わないことが重要となる。夜間は夜行性の魔物も動き始めるためだ。


そこでふと気づく、不思議と夜目が妙に効くのだ。夜間でも日中と変わらずによく物が見える。

月も出てはいるがここは森の中なのでほとんど月明かりも遮られてないはずだ。

もしかしたら死にかけたことで何か新しいスキルでも覚えたのかもしれない。

能力確認ステータスの魔法で確認するのも考えたが今はまず町に戻ることを優先すべきだろう。


「気になるが、とにかく町へ帰ってからだな」

そういって、森から出るべく移動を開始した。


予想に反して森を抜けるのは順調に進んでいった。

時折、森の奥の方から魔物のものであろう遠吠えが聞こえてきたりはしたが、

それ以外は寝ている魔物の横を数回通り抜けたぐらいである。

夜であるという事を考えれば非常に幸運だと言える。

三十分ほど休むことなく進んだおかげか森の終わりまでもう少しである。


もうすぐだ、と思った矢先のことだった。それまで静かだった前方と左右の草の茂みから

素早く、そして力強くこちらへ走ってくる音が聞こえる


「すんなりとは出られない、か」

トールが戦闘態勢に入ると同時に明らかに敵意を持った相手の姿が飛び出してきた。

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