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嫉妬
去年の一夏の間、実結はずっとその記憶に縛られていた。その間、できることはしたつもりだ。ただ──。
俺はあいつ、死んだ零波に嫉妬した。
実結がこんなに悲しんでいるのは、零波が死んだからだ。親友であったあいつがいなくなったからだ。でも、あいつより長く実結と一緒にいた俺がそんなに悲しんでもらえるか、分からない。それが悔しかった。
「……まあ親友だしな。しょうがないか」
口に出して言ってみても、それは無くならない。親友だから仕方ない。親友だから──。
だったら、親友ではない俺は何なのだ。やはり、実結の中での優先順位は零波より低いままなのだろうか。
勉強していたノートを閉じて立ち上がったとき、下からドアの開く音がした。
「お邪魔しまーす」
実結の声だった。




