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輪ゴム
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目の端で何かが動くのを捉え、俺は顔を上げた。向かいの家、実結が机に突っ伏しているのが見える。
さっき勉強を始めたばかりの筈だ。よくもまあ、そんなに早く寝られるものだ。むしろ感心する。……自分が言えたことではないが。
俺は手元の勉強道具を押しやると、机の中から輪ゴムを引っ張り出した。何本か繋げて、両端を手近にあった鉛筆にくくりつける。──よし、準備完了だ。
俺は窓を開けると、長い輪ゴムのロープの先に付けた鉛筆を引っ張った。向かいの部屋の窓を目掛けて、それを離す。途端に、ゴムが縮んで先に付けた鉛筆が向かいの部屋の窓を叩いた。
実結がぴくっと動いた。そして、迷惑そうに顔を上げる。俺は思わずにやけた。作戦成功だ。




