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一夏の終章
「暑いなぁ、今年も」
立ち止まって街路樹を見上げる。
もう夏だ。蝉がとにかくうるさい。白線が夏の光で輝いている。目の端では、信号が青く点滅していた。
「零波、もう一年だね」
うん、そうだね。
「……なんてね」
私は苦笑した。
「夏休みになったら、またお墓参りに行くよ。久しぶりに、山百合も見たいしね」
分かった。待ってるね。
私は空を仰いだ。
あの日を、私は忘れない。あの夏の夜の幻、いや全てを、一生忘れない。
私はまた歩き出した。
交差点が、青い光に合図されて動き出した。




