りんご飴
薄暗い本殿の前で、晃太は待っていた。走ってきたのか、肩で息をしている。
「なんか、すっきりしたよ」
私は石段の頂上で告げた。
「そっか。よかった」
短い言葉だったが、晃太は本当に嬉しそうだった。
花火の音が、境内に響いた。花火はそろそろ、フィナーレを迎える頃だ。
「すっきりしたよな。顔が違うし。ちょっと大人になったかもな」
晃太はそう言って自分で笑った。そして、後手に持っていたりんご飴を私にくれた。私は一年ぶりのりんご飴を口に入れ、尋ねた。
「それで、どうしたの? まさかりんご飴を渡すためだけじゃないよね?」
晃太はりんご飴を舌先で舐めて、
「りんご飴あげるだけじゃ呼び出しちゃ駄目かよ」
と笑いを含んだ声で文句を言った。
「こっち」
歩き出した晃太の後に続いて、私は本殿の裏に回った。晃太の着崩れた浴衣を見て、自分の浴衣も後で直さなきゃ、と考える。
本殿の裏はお祭りの喧騒がほとんど聞こえなかった。境内には、私と晃太の足音だけだ。
晃太が不意に立ち止まった。そして、指先を本殿の壁の隙間に突っ込んだ。
「ちょっと何して」
「もう今更だけど、これ、見て」
私の制止を振り切って、晃太は壁の隙間から小さな紙を取り出した。それを私に手渡す。
「町内会でここの掃除してる時に、見つけた。どうしても本殿が気になって、見てみたらあった」
それは嘘ではなさそうだった。こんな無駄な嘘を、晃太がつくとも思えないからだ。
「俺、なんとなく、それの中身のこと分かる。でも、俺は見ない。俺が見るもんじゃない気がするから」
私はその紙を見た。それは封筒に入れられた、手紙のようだった。私は封を切り、中から折りたたまれた手紙を取り出すと、そっと開いた。




