去年の夏祭り
「……写真?」
水槽の向こうに見えたのは一枚の写真だった。
水槽を少し動かして、壁との隙間に指を差し込む。
それは、去年の夏祭りの写真のようだった。
小さな露店で、私と零波が金魚すくいをしている。二人とも浴衣を着ていて、零波の器には朝と夕が入っていたが、私の器の中には夜はいなかった。
私も零波も、笑っていた。
こんな風に二人で露店を回って、最後には一緒に、秘密の場所で花火を見たんだっけ……。
花火の音が響く。
私と零波は、神社の境内にいた。
この木には何故か、ちぎれそうな縄ばしごがかけられていて、それを知っているのは私と零波だけだった。
縄ばしごで、木の上に登る。
太い枝に座ると、ちょうど花火が打ち上げられるところだった。
「ね、来年はさ、二人で来ようよ。今日はたまたま会えただけなんだし」
零波が花火を見ながら言う。
「そうだね、露店を回って、また金魚すくいでもしようか」
零波の横顔と目に花火の赤や青が映される。
「……私達、もう中学生になるんだ」
「うん。なんか、分かんないな」
私は苦笑した。中学生って、今の私達よりだいぶ大人に見えたから。
零波が私を見て、笑った。
「来年も、何も変わんないよ、多分。だからさ、来年も一緒にここに来るよ。約束」
「そうだよね、うん、約束ね」
ひときわ大きな花火が、弾けた……。