連行
晃太はすっと立ち上がった。途端に右手が引っ張られる。彼の手は既に、私の右手首を掴んでいた。
「ちょっと待って、何言ってるの? 私、山車を曳きに来たんだよ?」
「交差点に行く」
「交差点? なんでそんなとこ……。今日はお祭りでしょ」
私は半ば晃太に引きずられるような形で交差点に向かっていた。
恐怖に足がすくむ。何が何でも、晃太を止めなければ……。
私は無理に腕を振り払おうとした。しかし、やはり晃太は離さなかった。いつの間にこんな力が強くなったのだろう。掴まれていて痛くはないのに、振り払えない。
晃太はまたも黙っていた。ただ前を向いて交差点を目指している。
「だめだめだめ……。晃太、本当にやめて。もう二度と行きたくないの。今日は特に……。お願い、やめて晃太!」
真っ昼間から泣き叫ぶ中学生を連れた晃太を、お祭りに行く人たちが怪訝そうに見る。それでも、晃太は止まらない。
「お願い、やめて晃太。私だって、もう今日で最後にするって決めてるの。無理矢理そこに連れて行かなくったって私は自分で事故と向き合うから……。だから、もう大丈夫だって」
露店がなくなり、街灯がぽつぽつと並んでいる通りに出た。ここをまっすぐ行けば、あの場所に着く。
「嫌……だめ……」
スポーツ飲料を持った高校生とすれ違った。そのラベルは、あの時と同じ水色だった。




