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遅れ
「姉ちゃん、行くよ」
実紀が用を終えたらしく、私の肩をつついた。我に返り、うん、と生返事を返す。
実紀は相当怖いらしく、全速力で廊下を駆け去った。
一人廊下に残されるのは、いい年した私でも怖かったけれど、今は別のことが私の役立たずな脳みそを占領していた。
なぜ、当時は気づかなかったのだろう。
零波のお兄さんは、危なかったということに。
馬鹿だ。私は本当に馬鹿だ。
零波は隠していた。──でも、十二歳になるかならないかの当時の私たちに、悩みを隠し通すだけの仮面なんてなかった。せめてどこかに吐き出さなければならなかったのだ。
それを、私は盗み聞いた挙句、それの意味することを理解しなかった。
どんな耳をしてるんだ、と私は耳を引っ張った。
ごめん零波。でも、私には何も言わなかったよね。
だから──お兄さんは、無事なんでしょ?
甘い、淡い期待が生まれた。
もしそうだとしても、私が零波にしたことは変わらないと知っているけれど。




