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風の幻影
あの時、零波は何を言いたかったのだろう。
私に何か伝えたかったんじゃないだろうか?
零波の兄、零人さんは確か、何かの病気で植物状態だったはずだ。いつもはあまり話さない兄の話題を零波から切り出すのは珍しいことだった。
零波は、私に何を……。
私の頭上で風鈴が鳴った。
その瞬間。
「実結」
すぐ側……、耳元で囁かれたような風を感じて、私ははっと声のした右側を振り向いた。
「零波、いるの?」
いるはずない。そんなことは知っている。私がいくら馬鹿でも分かる。
しかし、私は見たのだ。
私の手を握りながら微笑む零波の姿を。
私はしばらく呆然と、自分の右手を見つめていた。




