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風鈴
縁側に涼風が入ってくる。風鈴が鳴った。
「零波、何してるの?」
零波は立ち上がって風に当たっていた。
「実結、ここってすごく風が『甘い』よね」
「……『甘い』?」
零波は頷いた。
「水が甘いって言うでしょ。あんな感じ」
私は首を傾げた。甘い?
零波は私の隣に腰を下ろし、私に微笑む。
「これ、お兄ちゃんが言ってたの。病院の中は風が不味いんだって」
そうなんだ、と私は応えた。
「ねえ、実結。あのね」
零波が足元に視線を落とした。
「何?」
零波はしばらく黙っていたが、突然首を振り、いたずらっぽく笑った。
「……やっぱりなんでもない」
「零波!」
私が殴るようなふりをすると、零波が逃げ出した。
夜風が風鈴を揺らした……。




