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黒電話
この前張り替えたばかりの新しいフローリングの上に、古ぼけたテーブルが置いてある。私は、昔母の姉が座っていたらしい席に着いた。
白米に味噌汁、野菜のお浸しに鰹のたたき、という、千代ばあにしたら奮発した夕食の中に、卵焼きの黄色とケチャップの赤が妙に目立つ。
いただきます、と手を合わせたはいいものの、私はイマイチ食欲が無かった。
「どうしたの実結ちゃん」
千代ばあが首を傾げた。食事が美味しくないのだと勘違いしたらしい。
「ちょっと食欲が無くてさ」
こういう時、どうしたらいいだろう。
あ、と私は手を叩いた。こういう時はあいつに限る。
「千代ばあ、ちょっと電話借りるね」
私はずっしりと重厚な黒電話の受話器を取り、ダイアルを回した。




