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頼み
私は窓の上の時計を見上げた。
もうそろそろ十二時だ。
「昼、食べた?」
「まだ食べてない。食欲ねぇし。夏バテかもなぁ」
晃太は、はーぁと溜め息をついた。疲れたのか、うちわを持つ手を止める。
晃太のうちわは、去年の夏祭りのものだった。
それに気づいた晃太が、そういえば、と呟いた。
「実結さ、今年の夏祭りも行くよな?」
私は答えに詰まった。本気で。
だって、零波は……。
そんな私を気にもかけずに、晃太はいつも通り返事を待つ様子もなく続ける。
「今年は、山車を曳く人数が足りないんだ。それで、俺もやらなきゃいけないんだけど。実結、どうせ暇なんだからやってくんねぇかな? 昼の間だけでいいからさ」
「え……」
言葉を濁す。
しかし、彼の頼みとあっては断れない。
「分かった。昼の間だけなら」
私は頷いた。
「よしよし、これで親父に勧誘訪問させられなくて済む」
晃太が冗談めかして笑った。
「じゃ、あとで」
私はそっと窓を閉めた。