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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Closin' The Flames
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Baby Blindly Beauty

>> Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back. Baby Please Back.

 どうしようもない。もはや、どうしようもない話となってしまった。


 乱雑に延びた灰色の髪を撫で付けた老人は、諦観を飲み下すように傍らのベッドへと視線を向ける。

 お世辞にも綺麗とは言い難いシーツに横たわるのは1人の女。真っ白なワンピースから見える手足は枯れ枝のようにやせ細り、乾燥から広がっている灰髪の頭にはケーブルで繋がれたヘルメット。


 彼女の名前はソフィア・ストロムブラード。老人の娘であり、プロジェクト・プロメテウスを成功させた立役者だった。


 プロジェクト・プロメテウスとは複雑系ナノマシン技術、生体技術、記憶を含めた生体干渉技術、特殊兵装。それらの技術が生まれた旧時代を再現し、シナリオを用意する事で技術の側面を見詰め直し、よりハイクオリティに実用化させるためのオーガナイズ・プラン。

 ソフィアは父である彼が中心となっていたプロジェクトに参加を申し出た。それも、プロジェクトに高いリスクが伴う事を知った上で。

 プロジェクトに使用されるデバイスの中には、被検体の生体が含まれていたのだ。

 当時まだ試験段階だった生体干渉技術で被検体の脳にアクセスし、脳と機械に構築した仮想空間で用意したシナリオを追わせる。言ってしまえば、脳を自由にいじられるようなもの。命の保障など出来るはずもない。


 それでも、まだ若かった老人には自分の娘を止める事は出来なかった。

 ソフィアは生まれつきの全身不随だったのだ。

 物資が豊かで、福利厚生が整っていた時代は遥か昔。人命を懸けたプロジェクトで覇権を奪い合う世界に、首から下が動かない人間に居場所などない。

 そんなソフィアにとってプロジェクト・プロメテウスは最後の希望だった。

 現実世界では歩く事はおろか、自分で食事を行う事すら出来ないソフィアでも、仮想空間の中であれば普通の人間と同じ暮らしが出来るのだから。


 だが、プロジェクトは誰もが予想した通りに難航した。

 接続しただけで、脳への付加に耐え切れなくて、仮想空間で。ありとあらゆる状況とシナリオで多くの被検体達が死んでいく中で、ソフィアだけが最後まで生き残り、プロジェクトを成功させた。


 これが運命というものなのか。


 手元のデバイスに浮かぶシナリオの名前に、老人はただただ深いため息をつく。

 シナリオに振られた名前は、ソニア・ストロムブラード。

 同名のソフィアの先祖の過去を元に作られたシナリオだ。


 人心掌握に長け、レイア・ブレームスに劣らないカリスマと悪辣さを持ち合わせたソニア。自身の魅力と才能を完全に理解し、凋落していたストロムブラードの再興を決意した悪女は、庇護欲をそそる事で御巫静音、ドロシー・リュミエール、トニー・トバイアスという自身が認めた人材を手中に収めた。

 部下の横領を見てみぬふりしか出来ない無能で邪魔な両親、自分に目を付け始めていたファイアウォーカー。

 その両方を葬るために悲劇のシナリオを用意し、そのシナリオによって自身を救いたいと申し出たレイアと関係を持つようになる。


 最強のファイアウォーカーであるレイアに両親を殺させ、ファイアウォーカーとメサイアを皆殺しにさせ、その後に自身の汚点となりえるレイアをナノマシンを使用して暗殺した。

 ストロムブラードの再興に成功したソニアは跡継ぎを作ろうとするも、生まれつき子供が産めない体質だった事を知る。

 そのため、自身の細胞から精子を作り、静音とドロシーに自分の子供を産ませた。


 しかし腹を痛めて産んだ子供に情が湧き、ソニアとレイアの関係に嫉妬し、我に帰ったドロシーは洗脳されていたフリをしていただけのトニーと共にリュミエールに逃亡。ドロシー達の裏切りを嘆きながら、最後は静音と2人の間に出来た子供に見送られた。


 つまり、全ては茶番だ。


 ソフィア・ストロムブラードも。

 グレナ・ストロムブラードも。

 マザー・パス・ストロムブラードも。

 クロード・ファイアウォーカーも。

 誰もがその時間軸には存在せず、存在していた誰もが遥か昔に死亡している。


 ソフィアはソニア。グレナはソニアに殺された父。マザーは殺された母の代わりで、ただの記号で解答欄の1つ。クロードは彼が娘に寝物語に聞かせていた最高傑作と、ヒーロー願望が強かったソフィアの理想。そしてファイアウォーカーの2人はソフィアに情報を与えるためのソースでしなかった。

 現実にクロードの出自のモデルとなったとされる桜井蔵人はストロムブラードの研究員であり、ソニアに篭絡されて暗殺用のナノマシンを作成していたが、そのナノマシンの実験と称して他ならぬソニアに殺害された。それは兄の死に疑問を抱き、真相を探ろうとした桜井明日香も同様だ。


 だが、そんな事は老人にとってどうでもいい事だった。


 そこに自分達のルーツの痕跡があったとしても、所詮は過去の赤の他人。旧時代の記録などほとんどが朽ち果てており、その真実を証明しようもない。

 そんなことより、ソフィアが再構成した生体技術があれば、動かない体を作り変えてやる事が出来るかもしれない。ソフィアの境遇を嘆きながら死んだ妻に報いる事が出来るかもしれない。肉体的なハンディキャップから悲観的だった老人も娘の活躍に歓喜していた。


 しかし、そこで大きな誤算が生まれる。


 ソフィアは仮想空間の中に理想の世界を見出し、シナリオに用意されていたエンドマークを無視してしまったのだ。

 マザー・パスという答えに至る記号は黙殺され、老人自身を模した人格はソフィアによって殺された。それによってソフィアと現実のバイパスはとても不安定な物となり、外側から帰還を促す事が難しくなってしまったのだ。

 かろうじて繋がったパスから接触を試みはしたが、結果はあえなく拒否。記憶の混濁は覚悟していたが、状況は最悪以外の何物でもない。老人にはソフィアが得るはずだった報酬で延命を続けさせる事しか出来なかった。都合の良い幻影に囚われてしまった娘を取り返すことは出来なかった。


 だが、もはやそれもどうしようもない話となってしまった。


 プロジェクト・プロメテウスが始動したのは30年前で、技術を共有していたビジネスパートナーは殺された。今更ソフィアが目覚めたところで2人にはもう居場所などない。

 そして遠くから聞こえる断末魔が理解させるのだ。

 圧倒的な死が、戦火を踏み荒らしてにじり寄ってくるのを。


 老人は骨ばった娘の手を握る。

 娘が仮想空間で過ごしている30年という時が、どれだけ幸せなものなのか彼には分からない。

 ただ、ソニアと同じように安らかに眠らせてやれない事が哀れだった。


 Mother Pus >> success

 Mother Pus = Sheep Tumor = Prometheus

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