Light My Fire...xoxo 3
「そういえば、ドロシーさんとトトさんは?」
「今帰ったっつの。寝るならベッドで寝ろよ。ドロシーがまたソワソワするじゃんか」
ソフィアの問い掛けに答えるように扉が開き、あきれ果てたような声がため息混じりの言葉を吐き捨てる。
ドロシーは作業を終えてそのまま来たのか、真っ赤なパーカーの上に白衣を羽織ったままで、トニーは疲れ果てたと言わんばかりに赤いタイを緩めていた。
「ゴメンゴメン――それでそっちはどう? こっちは幹部連中全員黙らせる事が出来たけど」
「おかげさまで取っ掛かりはつかめました」
急かされた事に嫌な顔を1つもせず、ドロシーはポケットから取り出したスマートフォンを操作して、壁に掛けられたディスプレイにデータを表示する。
それは、ソフィアがマザーの復活の代わりに選んだ答え。
「採取したDNAを中核に、ナノマシンに代替の器官を作らせる。きっとこの技術は世界を変えますよ」
「拒絶反応をクリアできれば、ね」
跪いてギプスに覆われた右手を撫でてくるドロシーに、ソフィアはクスリと笑みをこぼす。
親指以外の全部の指が骨折し、人差し指を根元から、薬指を第2間接から先を失った右手。ソフィアは皆が見る度に辛そうな顔をする右手を、生まれ変わらせる事にしたのだ。
ソフィアがドロシーと共に模倣に成功した代替技術で新たな肉体を作り、意識や記憶などをソフィアから採取した3分間は使用可能な"Sheep Tumor"で移送する。それこそがストロムブラード夫妻の不老不死の計画で、都合の良い肉体を生み出し続ける練成術でもあり、ソフィアにとっては世界を変えたいと望んでいたレイアへの餞でもあった。
この技術が発達すれば、世界は少しだけ優しくなれるはずなのだから。
「ねえ、クロード。アタシはアンタが好きよ」
「光栄の極みでございます」
突然のソフィアの言葉に、いつの間にか淹れていた紅茶をローテーブルに置いたクロードは微笑む。温度は丁度良く、ミルクはたっぷり。3人の人間を受け入れつつも、ソフィアの紅茶の好みに変わりはなかった。
「シズネさんも、ドロシーさんも、トトさんも大好き。だからね、アタシは皆に幸せになって欲しいの」
紅茶に口をつけながら、ソフィアは胸中の罪悪感を誤魔化すように好意を口にする。
ソフィアは皆と共に在る事を選んだが、その意味を理解していないわけではない。
"Sheep Tumor"の自壊による死を避ける事は出来たが、他に施された処置を無効化できた訳ではない。
今でも放たれ続けているフェロモンは皆を狂わせ、ソフィアの傍らに皆を繋ぎとめてしまうだろう。
奥深くまで毒された皆の意識は腐敗していき、やがて皆をただの抜け殻としてしまうだろう。
だからこそ、ソフィアは代替の肉体を作り上げ、毒を放ち続けるこの肉体を捨てる事にしたのだ。
その時が訪れるまで、許されるはずもない罪を背負い、辿り着いてはいけないクロードの答えから目を背け続ける。グレナの言っていた誤った世界から、皆をあるべき場所へと帰さなければならない。
そして荘厳なチャイムが来客を告げた。
「クロード、命令よ。客人を迎えに行ってあとは好きにしなさい」
「……御心のままに」
全てを察したのか、困ったように苦笑を浮かべるクロードに、ソフィアは楽しそうにクスクスと笑う。
クロードを向かわせた玄関に居るのは、緊張した面持ちで迎えを待つ、茶の髪を持つ東洋人の少女なのだから。
Hope Muster >> poor connection




