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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Fallin' The Flames
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Light My Fire...xoxo 2

 ――お前は、本当にそれで良かったのか


 虚無。他にたとえようのない真っ暗な空間に響き渡る声に、ソフィアは辺りを見渡す。

 辺りにはただただ闇だけが広がっており、どこか聞き覚えのある声だけがソフィアの存在を裏付けてくれるよう。


 ――人を超越したお前に相応しい配役など、この偽りの世界にはもう存在しない


 だから何だ、とソフィアは鼻を鳴らす。

 この世界を変えてしまったからこそ、責任を取らなければならない。

 変えられるだけの力も、それを行うための手段も。何もかもを手にしてしまったからこそ、ここで手を退く訳にはいかない。


 ――その強大な力を持つお前を、誰もが化け物のように恐れるだろう。それでも、か?


 それでも、とソフィアは恐れる事もなく頷く。

 孤独が恐くないわけではない。

 得体の知れない状況に順応できたわけでもない。

 だがそれ以上に、ソフィアは何者にも服従するわけにはいかない。

 ソフィア・ストロムブラードは何人もの命を喰らい、何人もの可能性を焼き尽くして存在しているのだから。


 だから、これ以上は許さない。

 干渉も、阻害も、同情も。

 これはソフィア・ストロムブラードのために用意された物語であり、この世の全てがソフィア・ストロムブラードの所有物なのだから。

 この世界には、愛しくてたまらない人々が居るのだから。


 ●


 頭に感じるやわらかな温もりに、ソフィアはゆっくりと意識を覚醒させていく。

 鼻腔をくすぐるのはやわらかな睡蓮の香り、頭の下には真紅の布地のサラサラとした感触。

 幼い頃には得られなかった安寧に身を委ねたくなる衝動を押し殺し、ソフィアはゆっくりを体を起こした。


「おはよう、シズネさん」

「おはようさん。ソフィアはんはお寝坊はんやな」


 静音(シズネ)はやわらかく微笑み、体を起こすソフィアの背中を支える。

 ソフィアとクロードが帰宅したそこはスウェーデン、イエテボリの郊外に全ての他者を遠ざけるように建てられた屋敷。

 ハートをモチーフにした鉄柵、首のないガーゴイル、黒を基調にした外壁は新技術の特殊装甲で固められ、広大な庭は美しく整えられている。

 その屋敷の名前はストロムブラード邸、"5人"の男女が住まう屋敷だ。


 寝顔を見られていた気恥ずかしさから寝返りを打ったソフィアは、横たわる体に掛けられていた真っ赤なジャケットに顔を埋める。両親のメチャクチャなセンスで選ばれた物と違い、カーペットと合わせられたその色はソフィアのお気に入りだった。

 右側に座る静音に三つ編みをほぐされながら、ソフィアは波乱万丈と言い換えられるエピローグに思いを馳せる。


 "Sheep Tumor"の残滓が第3者に渡る事を恐れたソフィアは、レイアとグレナの死体の焼却を見届けてクロードと共にビーチへと戻った。ビーチには御巫とリュミエールの揚陸艇がつけられており、見覚えのある顔が待ちわびたように居た。静音、ドロシー、トニー、そしてメイが。


 その時のメイの顔を、ソフィアは今でも忘れられない。

 武装テロ組織メサイアの唯一の生き残りとして公安機関に引き渡されたメイが、レイアの隠し財産とプライマル・セイヴァーのバックアップの引渡しを条件に司法取引を持ち掛けた事を鑑みるのであれば。それは間違いなく、メイが復讐を決意したという事になる。


 レイアのメイへの愛情の深さを誰よりも知っているソフィアだからこそ、メイが死ぬまで復讐を諦めない事を理解していた。それこそメイはその時を辛抱強く待ち続けるのだろう。

 クロードが死ぬその時までを待ち、待てなければ子供にその遺志を託し、永遠にストロムブラードを恨み続ける。それこそがメイの選んだ復讐なのだから。

 しかしそれよりもソフィアがより深く記憶したのは、リュミエールの揚陸艇にメイが押し込まれた後だった。

 ずっと俯いていた静音が、ソフィアの頬を張ったのだ。

 決して痛くはない。どちらかといえば、静音の方が痛かったのではと思うほどにその手付きは不慣れなもの。

 だというのに、エメラルドの瞳を飾る双眸からは涙が溢れ出し、小さな背中は嗚咽と共に震え出していた。


 守るはずだった静音達に余計な事をさせてしまったことが悔しかった。自由にすると言いながら、皆の傍らに寄り添う事を望んでいた自分が惨めだった。静音とドロシーが流している涙が、とても嬉しかった。

 それからというもの、特別な言葉を交わすでもなく、5人全員が完成したストロムブラード邸に住居を移した。元々部屋は有り余っており、ドロシーの独断専行によってそれぞれに専用のラボが割り当てられていたため、ソフィアはすっかり変わったドロシーの性質に驚く事しか出来なかった。

 そして墓石下のグレナのプライベートラボの何もかもを焼却させ、隠すものを失った庭を手入れさせたソフィアは、遺言状を盾にストロムブラード社を掌握する事にした。御巫の手の者(パーシヴォリ)に殺されそうになった事実で御巫を、振動刃バプタイズド・ゴーストを取り戻した事でリュミエールを黙らせて。

 重役の1人を失う事にはなったが、御巫の流通網とリュミエールの生産性を考えれば、誰もがソフィアを否定する事は出来はしない。


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