Light My Fire...xoxo 1
ストロムブラード社ビル14階にある巨大な1室。イェテボリの街並みが一望出来る窓からは眩しいほどの日差しが差し込んでいる。
会議室の中央に置かれた巨大な円卓には、どこか困惑した様子の10人ほどの男女が席に着いていた。
その視線の先に居るのは1組の男女。
左胸に三つ編みの毛先を垂らすように結われた赤と白の長髪、エメラルドのような緑の双眸、ギプスで覆われた右手。派手と言う言葉すら役者不足なほどに赤いスーツを身に纏い、その胸に黄金で作られたハートのエンブレムを飾る可憐な少女。
光の加減で白銀に見えるプラチナブロンド。透き通る空のような碧眼。女性と見間違うような美しい顔。赤いタイ以外の何もかもを黒で統一された燕尾服を纏う180前後のスラリとした体躯の美青年。
その場違いな2人組は違和感を押し殺すようにそこに居た。
「それで、ご息女様はいかがされましたか。社会科見学は学校の方で済ませているはずですが」
「挨拶をしておくべきかと思ったのよ。分からせておいたほうが楽じゃない。誰に跪くべきか、誰に尻尾を振るべきか」
「……悪い冗談のようですな。若干16歳のご息女様に、我々が従うなど」
社長令嬢のあんまりな物言いに重役の男が頭を抱える。仮にも社長が失踪したストロムブラード社を支えたのは自分達で、ソフィアが腰掛けているのはグレナの席。その光景は悪い冗談のようだった。
しかし当のソフィアは嘲笑うように鳴らした。
「何言ってんのよ、アンタの粉飾決済と比べたら可愛いもんじゃない」
返された言葉に男は表情を一気に凍りつかせる。
いつその事実を知られたのかは分からない。だが、少女の傍らに寄り添い立つ執事の存在を考慮するのであれば、いつ知られていてもおかしくはない。
「処分は追って連絡させる。今は経理部でもう処分が下ってる息子と隠居の相談でもしておきなさい。次の人材はこちらで選んでおいたし、給料泥棒じゃない本当の泥棒はストロムブラードには必要ないの。精々後悔する事ね」
「この、世間知らずの小娘が!」
人を食ったようなソフィアの態度に、男は冷え切った感情を一転させていきり立つ。
温度差を感じる視線、歪められた口角。
あからさまに人を見下しているその態度は、長い時間をストロムブラード社で過ごしてきた男には耐え難いものだった。
しかし男はそれ以上の言葉を続ける事も、ソフィアに食って掛かる事も出来なかった。
殴るようにテーブルに突いた手の指と指の狭間に、ボールペンが突き刺さっていたのだ。
「……脅迫のおつもりで?」
「16歳の女の子を怒鳴りつけるのは脅迫じゃないとでも?」
顔を青褪めさせる重役の男に問い掛け、ソフィアはギプスに包まれた右手を上げることでクロードを下がらせる。
はっきり言ってしまえば、氏とその息子による粉飾決済はただの暗黙の了解でしかなかった。
ナノマシンの開発と自身らの計画以外に時間取られることを嫌った夫妻に代わりに、会社運営という面倒ごとを引き受ける事で得られる法外な別収入を与えられていたに過ぎない。
しかし夫妻は他人に委ねてはいたが、自身らの努力で作り上げた社を手放す事を嫌い、相続人として便利な傀儡を指名していた。
マザーは死亡、グレナも"失踪したまま"となれば、ソフィアが社を継ぐのは当然の話だった
ソフィア・ストロムブラードが、16歳の少女だと言う事を除いて。
「ねえ、アタシは同じ事を2度言わされるのは嫌なの。先代を支えてくれたあなただから大目に見てるだけと言う事を忘れないでちょうだい」
「失礼、します……」
脳裏で保身の策を交錯させ、おぼつかない足取りで会議室を後にする重役の男の背を見送り、ソフィアは円卓についている全員の顔を端から見渡していく。その顔色はどれも良いものとは言えず、全てが引きつっていた。
暗黙の了解であったと言う事は、誰もがその恩恵に預かっていたと言う事でもある。
だが全員を放逐してしまえば、社の運営は成り立たなくなってしまう。知識として社の運営法は"手に入れた"が、経験が伴っていない事も事実だ。ナノマシンの知識は十分すぎるほど頭に入っているが、不正を推奨していた先代と同じ轍を踏みたくはない。
だからこそ、ソフィアは先ほどの追放劇のようなデモンストレーションを行う必要があった。余計な事さえしなければ、こちらは重用してやるという意思表示をする必要が。
少なくとも、ソフィアには他の誰にも作れなかった太くて狭く、何よりも信用できる人脈があり、誰にも辿り着けなかった答えを用意しているのだから。
そしてソフィアは立てた左手の人差し指を、誰に突き立てるでも突き出して言う。
「全員覚えておきなさい。アタシはストロムブラード家当主にして、ストロムブラード社代表取締役ソフィア・ストロムブラード――アンタ達のご主人様よ」
犬歯を剥き出しにして笑うその様は、まるで獲物を前にした化け物のようだった。




