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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Fallin' The Flames
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Kneel Down Ye All Others 7

「クロード、最後の命令よ――アタシを殺して、この体の何もかもを燃やし尽くして」


 ソフィアはこの瞬間まで知覚する事の出来なかった執事に命令しながら、その手で殺した父の死体を蹴りやる。用済みとばかりに腕を引き抜かれたグレナの死体は、重い音を立てて床へと叩きつけられる。

 生まれて初めての殺人。だというのに、それを行ったソフィアの表情には後悔に窺えない。

 しかしクロードは両手に持った2振りの太刀を床へと突き刺してしまう。


「お断りします」

「……命令よ、アタシを殺して"Sheep Tumor"を完全に処分しなさい。アンタの中の残滓がそれで消えるかは分からないけど、フェロモンに感応する事はなくなるはず。アタシにアンタ達を守らせなさい」


 久々に言葉を交わす事が出来た無責任な歓喜を押し殺してソフィアは命令を重ねる。その意識に深く埋め込まれた支配権はまだ生きているはず。

 だというのに、クロードは見覚えのない赤いロングコートからハンカチを取り出してソフィアの前へと跪いていた。


「命令なの! アンタだって分かってるんでしょ! 自分がどういう状況にあって、その原因が誰なのか!」


 ついに平静を保てなくなってしまったソフィアは声を張り上げてしまう。

 血まみれの手を拭う手は優しく、どこか抗えない強制力を持っているようでソフィアは振り払う事も出来ない。溢れ出す血はクロードにとって毒だと言う事など、分かっているというのに。


「アタシ以外の誰がクロードを守れるのよ! このままアタシみたいに訳のわからない存在にでもなりたいの!? この体はもう人間のものじゃない! 傷だってすぐに塞がるし、こんなになっても手が痛くないの!」


 意を決して突き飛ばそうとするが、ビクともしないクロードの顔を左手で殴りつける。2人のファイアウォーカーから学んだ効率的な殴り方は鋭いというのに、それでもクロードは治療をやめなかった。

 クロードの手に捕らえられた右手の指は全てが折れており、酷いものにいたっては骨が見えている。グレナに施された処置のおかげで治癒が促進されているとはいえ、右手はもう元通りにはならない事は明らかだった。


「アタシは、取り返しのつかないことをしたの! 皆を利用するだけじゃなくて、皆を変えてしまった! それがどれだけ惨い事かくらい分かるでしょ!?」

「それでも私には出来かねます」


 殴られた頬に構いもせず、ソフィアの右手をハンカチで包んだクロードゆっくりと立ち上がり、赤毛の頭を胸元に預けさせるように抱き寄せる。

 腕の中に捕えた華奢な体は恐怖と困惑から震えており、撥水仕様のコンバットスーツの生地を雫が伝っていく。


 孤高を選ばされてしまった可哀想な少女を守る。それこそが、クロードが選んだソフィアが下した命令への答え。ファイアウォーカーにも、ソフィアの全てにも縛られる事もなく、侵食された意識の中で自分がそうしたいと望んだ生き方だった。


「ソフィア様には義務がございます。その命を費やすに相応しい"終わり"に辿り着く義務が」

「……なにそれ。結局アタシに死ねって言ってるだけじゃない」


 いつかを思い出すような執事の言葉に、ソフィアはクスクスと場違いな笑みをこぼす。

 あの頃とは何もかもが違うというのに、何も変わらないクロードの態度がソフィアには嬉しくてたまらなかった。


「私だけでなく、皆様もソフィア様と寄り添い生きる事をお決めになりました。だからこそ、どうか私めにご命令(オーダー)を」

「……命令、ねえ。それで何が変わるってわけ?」

「何もかも全てが、ソフィア様の望むままに」


 ダメだ、とソフィアは唇を噛んで湧き出した願望を押さえ込もうとする。


 そうでもしないと、望んでしまいそうになるのだ。

 苦痛に耐えるだけの日々を送りたくない、と。

 このままで終わりたくない、と。

 助けて欲しい、と。


 だが、クロードはあの頃のようには安らかな強制をしてはくれない。

 今度こそ、ソフィアが選ばなければならない。

 絶対に辿り着くのだと。クロード達が傍らに寄り添うだけの価値がある終わりへと、必ず辿り着くのだと。


 そしてずっと心に秘められていた言葉が、噛み締められていたソフィアの薄い唇を突いて出た。


「……お願い。もう、1人にしないで」

「御心のままに」


 2人の愚か者によって生まれ、世界征服よりも尊いとされた願いは、確かに受諾された。


 Prometheus >> success

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