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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Rollin' The Flames
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Secret In My Ashes 3

 薄暗い廊下からゆっくりと姿を現す白銀の麗人にミカエラは口角を歪める。


 存在を知ったのはつい1ヶ月ほど前。

 まるで作り物のような美しい容姿を持ち、完璧なエスコートでソフィアをストロムブラード社へと連れてきた執事。


 2人がもたらしたものは、ソフィアの体内にある未知の可能性だった。

 ナノマシン技術を生み出したグレナ・ストロムブラード。新時代を築いた天才が手ずから正体不明のナノマシンは、誰もが欲するものであり、ミカエラにとっては不意に訪れた金の卵だった。


 しかし"Sheep Tumor"には採取後3分で死滅し、絶対数以上の増殖も培養も出来ないという欠点があった。

 その意図的に仕組まれたのだろうルールは、最先端を行くストロムブラード社の施設ですらクリアする事は出来ない。


 だが、ミカエラには他の誰にもない切り札があった。

 マザーの死後、その後釜に居座る為に築き続けてきたソフィアの信頼が。

 だからこそ、ミカエラは躊躇いなく選択した。

 自分に一言もなく姿を消した金づるではなく、金の卵を連れて現れた絶世の美男子を。

 特殊ナノマシン課という檻を用意し、信頼という目に見えない首輪でソフィアを縛りつけてしまえば、ナノマシン採取後のルールも培養不可能のルールも無効化できるのだから。


 だというのに、クロードはミカエラに微笑むばかりで踏み込ませようとはせず、それどころかソフィアさえ遠ざけてしまった。

 会場を用意させられる事でソフィアと接触する機会を奪われ、会見内容に口出しを許されない事でソフィアを管理する権利を得られなかった。

 その圧倒的な敵意を向けられてしまえば、ミカエラは最悪の状況を想定した第2の切り札を切る事しか出来ない。

 そして第2の切り札が有効的に機能したと、ミカエラは傭兵に抱擁を解かせた。


「ようやくこちらについてくれると、そう考えて良いんで――」


 歓迎するとばかりに両手を広げていたミカエラは、風切り音と続けて聞こえた何かが地面に叩きつけられた音に言葉を失ってしまう。

 ミカエラがゆっくりと振り向いた背後には、先ほどまで自分の腰を抱いていた男の死体が、ひしゃげたボールペンに深く胸を穿たれた傭兵の死体が転がっていた。


「あなた方は見せしめです。お嬢様に牙を剥けばどうなるのか、愚かな考えの結末がどういったものなのかを示すための」


 一方的に言葉を投げ掛けたクロードは、何かを確かめるようにゆっくりと1本ずつ指を畳みながら拳を握る。ブラックレザーの手袋に仕込まれた樹脂製のパットは、その力に耐え切れないとばかりにギチギチと悲鳴をあげる。頑丈さだけが売りの樹脂が。

 ミカエラと銃を持っている男達は、その異常な光景に体温が引いていくのを感じる。

 隊長格の男を殺した獲物はどこにでもあるようなボールペンで、それを投擲する動作は誰にも捉えられなかったのだ。

 それは、彼らの知っている人間の速度ではなかった。


「それでは皆さん、"さようなら"」


 美しい笑みを浮かべたクロードはそう言うなり、姿勢を低くして男達へと駆け出した。

 ミカエラが雇った傭兵達は5人。1人は既に死亡し、横に並んでいた4人は慌てて銃口をクロードに向けようとする。

 しかし辺りを包み込んだのは銃声の轟きではなく、形容しがたい鈍い音。

 銃口が弾丸を吐き出すよりも早く、クロードのアッパーが中央の男の顎に突き刺さっていた。


 殴られた傭兵の頭部は跳ね上がり、叩きつけられた運動エネルギーに導かれるように決して軽くはない体が背後へと弾き飛ばされる。首と胸が間逆の方向を向いた、出来たての死体が。

 3mほどの彼我の距離一瞬にして詰め、正面から横列の中央へと割り込んだクロード。平然と並び立った圧倒的な死に傭兵達は咄嗟に銃口を向けるが、その向こうに見える仲間への被弾を恐れて発砲を躊躇してしまう。その躊躇いをクロードが許すはずもなく、美しい横顔を眺めていた2人の傭兵の視界が指の股越しに物となってしまう。


 次いで訪れたのは、真っ暗な視界と聞き慣れない鈍い音。

 クロードに片手ずつ掴まれていた頭部は、ぞれぞれありえない角度まで傾かされていた。

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