Kneel Down Ye All Others 1
乾いた風に雑多に伸ばされた黒髪と真っ赤なコンバットスーツの裾が翻る。
白銀の刃と漆黒の刃は火花を散らしてぶつかり合い、風きり音と甲高い金属音が岩山に木霊する。振るわれる一撃一撃は必殺のものであり、その太刀筋は閃光のようですらあった。
「クロード、愛しの義弟、最強にして最高にして最後のファイアウォーカー。取引といっちゃなんだけど、今すぐここから消えてくんねえか」
「構いませんよ、レイア。我が愛しの主を返し、今すぐにその愚かな思想を捨てるのであれば」
心なしか顔に血色が戻りつつあるクロードの言葉に、口角を歪めてレイアは鍔迫り合いとなっていた刀身を力ずくで押し返す。"Sheep Tumor"によってリミッターが解除された腕力は凄まじく、両者は弾かれるようにして距離を開けた。
2回目の"Sheep Tumor"の起動のせいでソフィアは意識を失い、2人に間に割って入れる人間はもはや存在しなかった。
「そう意地を張んなって。ソフィアはああ言ってくれてんだ、アンタにもここでくたばる理由はねえだろ?」
「私には、ソフィア様をお救いし、お守りする義務があります」
「義務、ねえ」
銀色のエッジで縁取られた刃を向けてくるクロードに、どこか白けたように呟いたレイアは、人差し指の腹で白銀の刃の棟をなぞる。
両者が手にしているのは、グリップの上に真っ赤なデバイスが取り付けられた無骨なルックスの太刀。約70cmほど白銀の刃には青いヴァインが描かれた振動刃の名前はネイムレス・パニッシャー。ドロシー・リュミエールの作品にして、漆黒の刃には赤いヴァインが描かれたバプタイズド・ゴーストの対となる武器だった。
「……ふざけてやがるよな。何でアンタらだけ特別なんだよ、全員平等に従僕なんじゃねえのかよ。何で――」
レイアは右足を後ろに引き、左手に持った太刀を突き出すように構える。
光の加減で見えた色を欲しがっていた新しい名前としてくれてやったのも、師父では相手にならなくなった同士で重ねた訓練も覚えている。
だが思い出はただの過去でしかなく、クロードは数年の時を共に過ごしただけの義弟に過ぎない。
唇を奪い続けた自分とは違い、自らクロードにキスをした少女とは違うのだ。
「――私だけを見てくれねえんだよ」
地面の表層を削り取るようにレイアは右足を払う。コンバットブーツの分厚いソールがこすり付けられた地表からは砂の混じる石つぶてが撒き散らされ、クロードは防御を余儀なくされてしまう。
視界を赤い袖で覆うクロードを睨みつつ、前方へと飛び出したレイアは、太刀のデバイスを親指で打って躊躇いなく振動刃を起動する。
3分間という少ない時間はレイアにとってのワイルドタイムであり、他の誰でもないソフィアが与えてくれた最上級の加護。このチャンスを逃せば、最初で最後の強敵を仕留められる自信はレイアにはなかった。
その事を思えばこそ、レイアは甲高い嘶きを挙げる太刀を振り下ろす事を躊躇えない。
ソフィアが誰も愛さないでくれれば、それ以上を望みなんてしなかった。
ソフィアが望んでくれれば、世界だって相手にしてみせた。
ソフィアが近くに居てくれたら、それだけで良かった。
しかし短い呼吸と共に振り抜かれた白銀の刃は、同調するように起動する漆黒の太刀に阻まれてしまった。
流石だと思う半面で、最大のチャンスを生かせなかったレイアは、更に1歩踏み込みながら太刀を切り上げるように振り上げる。
クロードは跳ね上がるように急襲する刃をのけぞる事で回避し、僅かな隙を残したレイアの脇腹にプロテクターが乗せられた右膝を叩き込む。痛みを感じるかソレよりも早くか、レイアは直感に従うように広報へと体を投げ出す。その判断は正しかったのか、脇腹に走る激痛に顔を歪めつつも、レイアはまだ立っていられた。リミッターが解除されたファイアウォーカーの攻撃は、どれ1つを取っても必殺のものだという事を考えれば、生きているだけで僥倖と言えた。




