Mortal Blood Suckers 2
ふと感じた危機感にトニーが咄嗟に首を傾げたその瞬間。好き勝手跳ねる黒い毛先が吹き飛ばされる。
サングラス越しのブラウンの双眸とCCDのレンズが捉えたのは、アースカラーや迷彩などの服装に身を包んだ無数の死に損ない。
トニーは掠めた熱に舌打ちをして、ハンドルに付けられたボタンで武装の安全装置を解除する。サングラスのレンズにターゲットマーカーが浮かび、マシンピストルの銃口が弾丸を吐き出す。
反動で大きく揺れ出すバギーを力ずくで押さえ込み、トニーはかろうじて残された木々に身を隠して辺りを探る。レイア・ブレームスが指導者としてのカリスマ性を持ち、トニー達が敵地へ乗り込んでいるとはいえ、仲間の死体から剥ぎ取った銃で的確に応戦してくるというのは異常だ。
そしてクロードがホテルへの襲撃を許した事を考えれば、クロードが近く出来るよりも遠くから攻撃できる手段を持った人間が居るはず。
死に損ない達に的確な支持を出せる観測手、ファイアウォーカーであったレイアを認めさせる腕の狙撃手を兼任できるような指揮官が。
そんなトニーの考えを裏付けるように、バギーのカーブミラーが弾丸によって吹き飛ばされてしまう。
「やりやがったなクソが!」
声を張り上げてトニーは銃撃を止めたバギーの進路を、アサルト・ホイールが作った道から残された木々の間へと変える。木々の間を抜けていくのは簡単ではないが、クロードに大して有効な狙撃を対処できるほどトニーは戦場慣れしていない。
何より未だアサルト・ホイールが暴れ狂う戦場を切り捨て、高速で走行しているバギーを撃ち抜く合理性。その実力がトニーの知るファイアウォーカー2人に劣るとはいえ、戦争をした事がないトニーには度し難いものだった。
「ドロシー、スナイプポイントは?」
『1時くらいの方角で上から、消音性を考えると多分ウチの商品だよ』
「てえと、とにかく面倒くせえって訳だ!」
トニーは前方に聳える岩山を睨みつけて吐き捨てる。ファイアウォーカーの本拠地であるこの島は中央付近で乱立する岩山群と雑木林、湖と川などで構成されており、クロードの情報を信じるのなら岩山群以外にはほとんど手は加えられていない。生活空間と市街地における模擬戦闘スペースが、岩山群を利用して作られているが、若い傭兵にゲリラ戦を教えるには手付かずの自然の方が都合がいいらしい。
限りなく精度の高い銃身、可変式の銃座、ドロシーが製作に参加したFCS。それらは腕を保障するには十分過ぎるバックアップであり、敵対者達の装備の豊かさをトニーに理解させた。
「特攻をかます。システムのモニタリングとアサルト・ホイールを頼む」
『了解。気をつけてね、トト』
任せろという言葉の代わりに鼻を鳴らして、トニーはバギーの速度を更に上げて雑木林から飛び出す。ドロシーの用意したコンバットスーツがいくら防弾性に優れていても、ホテルの部屋を吹き飛ばすような大型弾頭を撃ち込まれればひとたまりもない。
だが、それは弾丸がトニーやバギーに届けばの話。リュミエール製品のスペックとファイアウォーカーの精度を、ドロシーが知らなければの話でしかない。
バギーと岩山群との距離が2kmを切ったその時、3機のアサルトホイールがバギーの前方と左右を囲むように寄り添いその形を変えていく。高速で回転していた曲刃は動きを止め、重なり合う事で鱗のような防御シールドを構成した。
「流石に、これは持ってねえだろ?」
リュミエール製の装備で曲刃のシールドを突破しようとするテロリスト達に吐き捨て、トニーはシールドの狭間からサングラス越しに視線を岩山へと這わせる。スナイパーの対処法など知らないが、逃げる事が出来ないのであれば立ち向かうしかない。
次々と死んでいくテロリスたちと違い、トニーには最高の頭脳と装備、何より戦う為の理由があるのだから。
そしてシールドを打つ甲高い音の中に1つ。アサルト・ホイールを揺らすほどの鈍い音と衝撃を捉えたトニーは、犬歯を剥き出しにするように口角を歪めた。
「捉えたな?」
『完璧だよ――行こうトト。ワタシ、もう逃げたりなんかしないから』
親友の力強い言葉に背を押されるように、トニーは上半身でロックしたハンドルを押さえ込むように前傾姿勢を取る。
話下手な主であり、内向的な護衛対象であり、誰よりも大事な親友でもあるドロシー。用意された世界で生きるしかなかったドロシーが踏み出せた事が、トニーには嬉しくてたまらなかった。
安全装置を解除したのはトニーだが、ここに辿り着くまで引き金を引いていたのはドロシーなのだから。
動議としては間違っている事は誰よりも理解している。それでも
そして水平に並んだアンチマテリアルライフルの銃口から吐き出された弾丸は、岩山の頂の1つを吹き飛ばした。




