Mortal Blood Suckers 1
水面が煌めく海を数隻の高速艇が駆け抜け、トーチカから放たれた弾丸達が水飛沫を撒き散らす。銃声はまるで1つの音のように連なり、1秒ごとに孤島へと世界最高水準の速度が迫っていく。
荘厳な騎行というにはあまりにも乱暴で、愚連隊の行進というには統率が取れすぎていた。
ジグザグな軌道を描く脅威を恐れるように、殺到する弾丸の1つが1隻の高速艇のエンジンを穿つ。熱波と共に生まれた爆音が金属片を撒き散らしていく。
射手が勝利の美酒に酔いしれたのか、弾雨が途切れたその瞬間、高速艇の残骸から複数の金属塊が飛び出した。
排気管を脇から生やし、曲刃を規則性を持って並べられたホイール。電磁を纏って吐き出された金属塊は島のビーチへと着地し、甲高い嘶きを挙げて走り出していく。
慌てたようにトーチカからの銃撃が再開されるが、曲刃は鬱蒼と生い茂る木々を次々と切り倒し、弾雨に硬化ゴムと曲刃を抉り取られていく。だがその進撃は止まる様子はない。
そしてトーチカの群れに辿り着いた無人の襲撃者が炸裂した。ガソリンに引火した火種は爆炎を産み、ホイールやエンジンの金属片を孕む破壊力を撒き散らし、悲鳴や断末魔が銃声の代わりに空に響く。
それでも高速艇からは次々とホイールが吐き出され、熱帯気候の島は分かりやすい地獄絵図へと変わっていく。ズタズタに引き裂かれた死体達はあらゆる残骸に埋もれていき、悪辣なほどに燃え盛る炎に消えていく。
何もかもが炎に沈んだビーチに悠々と高速艇がつけられ、炎を踏み荒らすように艦首から道板が降ろされる。
ゆっくりと道板を降りてきたのはバイクとバギー、赤と黒のコンバットスーツに身を包む男女だった。
「着いたぜ、ドロシー」
『うん、見えてるよトト』
イヤホンから聞こえるドロシーの声に、トニーはCCDカメラが搭載されたサングラスを押し上げる。プロテクターと特殊樹脂で作られたコンバットスーツ。ライダースジャケットの意匠のそれはやや重いが、トニーの動作を阻害する事はなかった。
『御巫の回収部隊も位置につきましたえ。あとはあんじょうお頼み申します』
『了解しました。アサルト・ホイールをこのまま先行させるから、トト達は予定通りお願い』
「目に物を見せてやるよ、お前の作品は最高じゃんってさ」
海上でそれぞれ待機している2人に答え、トニーはバギーのハンドルを握る。ボンネットから生えた可変アームには大口径マシンピストルがつけられ、座席の後部には連結された状態の連装アンチマテリアルライフルが搭載されている真っ黒なバギー。それこそが"Sheep Tumor"を使用せずに、ドロシーの作品を使いこなす唯一の方法だった。
「おい、クソハンサム」
「どうなさいましたか、トバイアス様」
バギーのエンジンを巡航モードから戦闘モードに切り替え、トニーは真っ赤なカウルに黒いラインが走るバイクに跨るクロードにを呼び止める。
背中を預ける訳ではないが、同じ目的を持った戦友に、残された最後の切り札。
戦力として唯一ソフィアに信頼されていたクロードに嫉妬をしない訳ではない。その嫉妬がフェロモンによるものなのかは分からない。
それでも、トニーにはソフィアの唯一にはなれなかった。傭兵でも執事でもなく、不良上がりのボディガードのトニーには託すしかなかった。
「絶対に2人で帰って来い。まだアイツに食わせてねえんだよ、ドロシーが気に入ってる店のケーキをさ」
「……必ず、帰りますから」
ソフィアから離されてからというもの、ずっと仏頂面をしていたクロードの顔が僅かに緩み、満足したように口角を歪めたトニーはバギーを発進させる。リュミエールの新製品候補であったアサルト・ホイールによって木々は切り倒され、侵攻には便利な道が出来ていた。
切り倒された木々とあらゆる残骸をバギーのタイヤで踏み荒らしながら、トニーは作戦を改めて脳裏で反芻する。
アサルト・ホイールを使用することで敵戦力の大半を殺し、トニーが残存戦力を相手取る事で陽動となる。この要塞然とした島を熟知しているクロードがソフィアを奪還し、ソフィアと合流した静音が御巫の全てを使用して逃亡。その後、クロードがレイアを殺害し、トニーとドロシーと合流して島から脱出する。
酷くシンプルでクロードに負担を強いる作戦ではあるが、だからこそ確実でもある。この島に居たファイアウォーカーを殲滅し、ソフィアと"Sheep Tumor"を手中に収めたレイアに対抗出来るのはクロードだけなのだから。




