Strike Back Blames 3
「だったら選ばせてんじゃねえよ! 何で止めねえ、何であのクソをさっさと殺さなかった!? オレが知ってるだけでも、ソフィアは3回も"Sheep Tumor"を使ってんだぞ!?」
声を張り上げたトニーは苛立ちから近くにあった椅子を蹴り飛ばす。急な動きに打撲傷が疼いたのか、水平に傷が刻まれた顔は歪む。だがブラウンの瞳は猟犬のような鋭さをクロードに向けていた。
「それとも、テメエもあのクソとグルか?」
「ご冗談を。私にとっての世界はソフィア様であり、レイアは敵でなかっただけです」
あの時に殺しておけばと悔やんでいますが、とクロードも口角を歪める。
レイアがいくら同門の義姉だろうと、今となっては主を戦場に連れ歩く害悪でしかない。
それでも納得がいかないと睨みつけてくるトニーを余所に、クロードは複雑そうな表情の2人へと向き直る。
「他の誰かではなく、私だからこそ、ソフィア様をお止めする事が出来ませんでした。皆様はソフィア様が私に下された命令を覚えていらっしゃいますか?」
「うちと初めて会ってくれはった日に"アタシ達を傷つけるものを、何もかも、全部燃やし尽くして"、やったかいな?」
「ストロムブラード邸が襲撃された際も同様、敵部隊を殲滅した後に"他の誰でもなく、アタシを試せ"と。日本では"これからは、アタシの事を放っておいて、自分の思うままに生きなさい"でした」
思い出すように浅葱色の袖で口元を隠す静音の言葉を継いで、ドロシーは咥えているキャンディの棒をつつく。
与えられたチェリーの風味に背を押されるように、ドロシーは日本に居た時点で辿り着いてた答えを口にする。
「これは推測ですが、全てはソフィアさんの無意識な判断や思考への介入のせい。それもクロードさんにはより深く、ワタシ達にも浅からず。だからクロードさんはソフィアさんの命令に逆らう事が出来なかった。最後に出された命令に逆らわないようにする事しか出来なかった」
「ソフィアがオレ達に何をしたって?」
「さっきクロードさんが言っていたように、ソフィアさんからは特殊なフェロモンが分泌されてるんだと思うの。それこそ、人の意識に干渉するくらい強力なのが」
話の猥雑さに苛立つトニーへのドロシーの答えに、静音は見当がついたように眼を見開く。
思い返してみれば、2人の胸に秘められていたはずのクロードへの感情が変わっていた。
恋愛がどういったものかは分からない。それでも静音は今まで出会った事のないクロードという男に、ドロシーは自分を守ってくれたクロードという戦士に惹かれていた。
だというのに、2人の関心はソフィアへと向いており、クロードは"惹かれていた男"から"ソフィアの保護者"へと変わっている。
同様とは言い難いが、トニーもソフィアというフィルターを通す事でクロードを戦友として認める事が出来ていた。反抗心はおろか、1時は殺意すら抱いていたというのに。
近くに居ただけの3人がそれほどの変化をしている事を考えれば、直接意識を感応させていたクロードへの影響力は計り知れない。
キャンディを欲しがるのはドロシーが集中している証である事を誰よりも知っているトニーには、導き出された答えを裏付けているようにすら感じられた。
「フェロモンという物質の在り様から考えれば、本来は異性に作用するものだったんだと思う。でもソフィアさんに限っては性差を越えた機能を発揮した。それがどうしてなのか、そうなるようにされたのかは分からないけど」
「しかも、うちらの無意識下での優先順位にソフィアはんを割り込ませ張るくらい、ことやんな?」
「そうです。それこそワタシから吃音をなくさせて、トトに近くに居づらく感じさせるくらいに強力なはず」
誰も私に近づくな。
いつかのソフィアの言葉を思い出し、あまりにも酷い話だと、ドロシーは不愉快そうに嘆息を漏らす。
結果としてトニーという親友を得られたとはいえ、ドロシーは公立の学校に通わされるのが嫌でしょうがなかった。両親しか見えていない教師のご機嫌伺いも、離れていくクラスメイト達も、突っかかってくる不良達も嫌でしょうがなかった。
当時加害者の1人だったトニーに縋りついてしまうほどに。
親の勝手に振り回される事の辛さを共感できるとは言えないが、家族を起点とした厄介に苦しむ静音とドロシーにとっては他人事とは思えない。




