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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Fallin' The Flames
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Bite The Sweet Virginity 6

「まったく、ご主人様が大人しいと番犬は獰猛になるもんなのかね」

「黙れ、ゆっくりとソフィアから離れろ」

「話をする気もねえってか。会話こそ文明人の証だってのによ」


 くつくつと笑いを噛み殺しながら、女はソフィアを解放してゆっくりと立ち上がる。2丁の銃を向けられているというのにその動作に緊張感はなく、女はトニーを挑発するように両腕を広げた。

 そして弾丸すら通さないはずの強化ガラスを砕きながら、白銀の金属塊が女の手に吸い込まれるように室内に投げ込まれる。


 それはヴァインの装飾が施された白銀の太刀だった。


「でも金髪で巨乳のあの子には伝えておいてくれよ――アンタの作品は最高だってさ」

「……テメエか、テメエがそれを!」


 頭に一気に血を昇らせたトニーが引き金を引いたその瞬間、女は姿勢を低くしてトニーへと踏み出す。吐き出された弾丸は渇いた銃声に僅かに震える窓枠を貫き、失態を悟ったトニーの腹部には太刀の柄が叩き込まれる。

 トニーは覚悟を決める間も与えられず廊下へと崩れ落ちるが、反撃を続けようと銃口を挙げようとする。

 訳の分からない衝動に突き動かされながらも、胸中には堪えようのない憤怒が暴れ狂っているのだ。

 自分を唯一助けてくれた親友を、傷付けたその女をトニーは許してはならないのだ。


 しかし女はトニーの銃の1丁を蹴り飛ばし、もう1丁を手ごとコンバットブーツの分厚いソールで踏み潰した。

 セキュリティシステムを警戒して武器の類を持ち込まず、武器を投げ入れさせるというスマートとは言い難い手段を取ったが、その様子は最初から敗北を意識していたとは思えないものだった。


 だというのに、勝者の優越感から歪んでいた女の顔から瞬間的に余裕が消える。


「ねえ、誰がそんな事を許したの――従僕?」


 背後から投げ掛けられた高圧的な言葉と、心を潰さんばかりに突き刺さる圧倒的な殺意に女は咄嗟に首を傾げるように頭を低くする。女の予想通り、鋭い回し蹴りが頭上を通過し、華奢な足がかすったフードは乱暴に引き剥がされる。

 フードに隠されていた雑多に伸ばされた黒髪は散るように広がり、左目周辺から胸にかけて彫られたヴァインの刺青が露わになる。


 顔から胸に掛けて彫られたヴァインの刺青、卑しく歪められた口元、悪夢のような黒髪。

 それはヨアキム・パーシヴォリが口にしていた"ファイアウォーカー"と一致する特徴だった。


「勝手を許した覚えも、アタシの大事な人を傷付ける事を許した覚えもない。アンタはアタシに頭を垂れていればそれでいいのよ」

「それは、ついて来てくれるって事でいいんだな?」

「さあ、アンタ次第よ」


 体制を持ち直し、トニーの手から足をどけた刺青の女に、ソフィアは左手を突き出す。

 相手がどう出るか、相手がどこまで理解しているか。それらを探るためのソフィアの策に躊躇う事もなく、女はソフィアの指先を口をつけた。

 プツリという小さな音と指先の痛みにソフィアの顔が歪み、強張るその頬に指輪だらけの手が添えられ、小さな唇は乱暴に貪らりつかれる。


 瞬間、ソフィアの体が内側から生まれた衝撃に仰け反り、刺青の女はその華奢な体を乱暴に抱き締める。

 血液は沸騰したように熱くなり、心は痺れるような陶酔に震え、体は快感に踊らされるままに恍惚にたゆたう。

 怯えるような視線を向ける女。散乱する死体と血濡れのナイフ。そして見覚えのある人影。

 脳裏によぎるビジョンすら、同性にキスされた不快感すら押し流すように、甘美な刺激はソフィアの内側で炸裂し続ける。


 内なる炎が燃え盛り、言いようのない絶頂に浸るその最中で、ソフィアは至った核心に堪えようのない怒りに拳を握る。


 やはり、間違っていたのは自分だと確信してしまったのだ。


「ソフィ、ア……」

「迷惑掛け、てゴメンね。でも、今度こそ、逃げずに、決着をつけるから」


 窓の外から聞こえるヘリコプターのローター音をバックに、ソフィアは途切れ途切れの言葉を紡ぎ、未だ起き上がれないトニーに微笑み掛ける。

 すっかり慣れてしまった偏頭痛と未だ慣れることのない甘美な刺激に、ソフィアの体は力を失ったように刺青の女にもたれかかっている。だがその態度には躊躇いは一切なく、トニーの顔が苦痛と不安にゆがみを増していく。

 出来る事なら、こんな状況になってソフィアなどと呼ばれたくなかった。初めて呼んでくれた自分のを忘れたくはない。


 それでも、ソフィアは足を止める訳にはいかない。

 つまらないペシミズムなんか捨てて、くだらないヒロイズムになんか酔わなければ良かった。どうせここまで仕込まれていたのなら、逃げられる訳なかった。最初から全部利用しておけば良かった。他の誰でもない、ソフィア・ストロムブラードが悪夢を終わらせなければならなかった。


 そしてソフィアは荒い呼吸を整えながら、自身の燃えるような赤い髪に手をかき入れる。倦怠感に囚われながらもその手は髪を纏めていき、1房の太い三つ編みを作り上げていく。

 与えられる恩情に縋り続ける弱者を切り捨てるように、いずれ訪れる苦難から目を逸らしていた愚者を切り捨てるように。

 燃えるような赤毛は刺青の女に差し出された革紐で結ばれる。


「皆に、伝えて、アタシは1人で大丈夫だからって」


 そう言ってソフィアは刺青の女に肩を抱かれるまま、窓へと歩み寄る。強化ガラスの向こうには縄梯子がたらされており、より近くなったローター音は爆風と轟音で整えられた庭園を荒らしていく。


 だがその光景よりも、トニーの目は編みこまれた赤毛に向けられていた。

 いつもワンサイドアップにしていた髪を結わいて下げただけ。

 だというのに、そこには愛情に飢えていた少女の姿はなかった。

 Supreme Hot >> error

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