Bite The Sweet Virginity 5
「話が逸れたな。それで選ばれた孤児はファイアウォーカーのファミリーネームが与えられて、一線に出て傭兵家業を始める。初めての任務は"兄弟"と一緒に戦場に出てそのサポートをするんだ。敵を殺したり、"兄弟"を守ったり、まあいろいろな」
「最後の選別に生き残る基準は?」
「最初とあんまり変わんねえよ。優秀で美しくある事だけだ。ナイフ1本で敵陣の中央から帰還するとか、さっき言ったみたいに出来損ないや裏切り者を処分するか――これで分かっただろ。アンタの執事がどうして選ばれたのか。ファイアウォーカーとして、アンタの従僕として選ばれたのかさ」
顔を僅かに強張らせたソフィアは、口元へ運んでいたサンドイッチを皿に戻して女へと向き直る。エメラルドの双眸は本人のか弱い雰囲気とは裏腹にフードの向こうを睨みつけていた。
猜疑心を露わにされているというのに、フードから覗く口は子を描いていた。
「それで、ここまで話に付き合ってくれた目的は何?」
「アンタが欲しい。それだけだ」
確かめるように問い掛けたソフィアは、予想通りの答えに嘆息を漏らし、女は寝癖がついたソフィアの赤毛を指で梳き始める。幸運にも髪に痛んだ様子はなく、赤毛は女の指に並べられた指輪に引っ掛かる事もなくすり抜けていく。
「分かってると思うけど、状況は最悪への一途を辿ってやがる。ミカナギの1部は優秀な人材をダメにされた事で当主候補の1人を糾弾、リュミエールに至っては社長令嬢がクロードに絆された尻軽扱い。アイツらがいくらアンタの事が好きだからって、いつまでも守ってやる事は難しいだろうよ」
「……アタシは、守って欲しいなんて言ってない」
「それでもって周りを巻き込みたくもねえんだろ。そうじゃなきゃ優秀な執事を手放す理由なんてねえしな」
眉間に皺を寄せて不愉快そうに吐き捨てるソフィアに、女は諭すように言葉を紡ぐ。
ストロムブラード社は裏切り者を生み、ストロムブラード邸は半壊し、余所へ出向けば赤の他人を巻き込んでしまった。それらはソフィアを起点として起きた事件であり、それらを切り抜けて見せたクロードを近くに置かない理由はない。
だがソフィアはクロード達との面会を拒絶し、押し付けられた唯一の防衛戦力であるトニーもどこに居るのかすら分からない。全ての責任がトニーに行かないようにはしたが、ソフィアの身柄を保護したがっていたストロムブラード社が何を言い出すかは分からない。
ついこの間まで笑って過ごせていた仮初めの平穏でさえ、クロードという犠牲の上に成り立っていたのだから。
そして女はソフィアの肩を抱き寄せて囁く。
「だから、私にアンタを守らせてくれ。私にはソフィアが必要なんだ」
髪越しに首筋への口付けを感じつつ、ソフィアは望外な申し出に真っ直ぐに降ろされた赤毛の先を指で玩ぶ。
現在のソフィアはなし崩し的に保護を受け入れているだけで、トニーに1人に自分を守らせている現状は好ましいものではない。これまでの襲撃を考えれば、トニーがどれだけ強くてもソフィアを守りきる事は出来る訳がない。
それくらいであれば、赤の他人を身を任せる事で当初の予定通り、1人になるための手段を模索するべきではないのか。ソフィアにはそう思えてしょうがないのだ。
少なくとも、乗せられた手の平から逃れる方法など、ソフィアには分からなかった。
しかしそんなソフィアの苦悩をよそに、寝室の扉は守りたい存在によって開かれてしまう。
「ロングアイランドの中でも有名な店のケーキ買って来させたぜ。甘いもんなら食えるってシズネが――」
そう言って扉を開けたトニーの手は、ケーキの箱を床に落としてジャケットの中の銃に手を掛けられる。一本傷の走る顔は一気に強張り、吊り上がり気味の目は顔も見えない侵入者を睨みつける。
侵入者が武器を持っているようには見えないが、ボールペンを武器として扱っている執事を知り、優秀なセキュリティシステムを突破されてしまえばトニーの警戒心が露わになるのも無理はない。
しかし侵入者である女はソフィアの方を抱き寄せたまま肩を竦める。
「随分物騒じゃねえか。アンタはゲストのもてなし方も知らねえのか?」
「テメエがゲストなら茶でも馳走してやったけど、厄介者にくれてやれるのは弾丸だけだ。さっさとソフィアから離れろ」
取り返しのつかない事になっているだろうケーキの箱を蹴りやり、トニーはソフィアの肩を抱いて肩を竦める女に銃口を向けて安全装置を解除する。
本能とも意思とも違う衝動がトニーを突き動かすのだ。
ソフィアを守らなければならないと、ソフィアを傷付けようとするソレを排除しろと。




