Bite The Sweet Virginity 1
窓1つない薄暗い部屋。ベッドの上で大きな1つの影がうごめき、静寂を衣擦れと吐息、そして嬌声が犯していた。
やわらかな肌にかさついた唇が押し当てられ、組み敷かれた女の体が、抗いようのない甘美な被支配感に震える。
他の誰にも与えられなかった快感は女をより高みに上らせていき、女はこのまま溺れていたいとばかりに覆い被さる影に腕を回した。
そしてかすかな水音と共に組み敷かれた女の体が反り返り、引きつったような声と共にマットレスにその身を沈めていく。そばかすの残る顔は恍惚に歪み、くすぐられた嗜虐心に突き動かされるままに、覆い被さる影は熱い吐息の漏らす女に口付けを落とした。
だがその先を乱暴なノックが阻んでしまう。
嬌声の代わりに舌打ちが室内に響き、女を組み敷いていた影は苛立たしげにベッドを降りて扉を開ける。
デジタル時計が唯一の光源だった室内に乱暴なほどの光が差し込み、2度目の舌打ちを掻き消すようにため息が漏れる。
「……恥じらいとか、そういうのも求めるのも無駄なのかな」
黒い肌の眉間に深い皺が刻み込まれ、ブラウンの瞳を飾る目は冷ややかに部屋の主に向けられ、訪問者である少年はあきれ果てたように肩を落としながら口を開く。
LEDライトの灯りは部屋の主の姿を、文字通り一子纏わぬ豊かなプロポーションの裸体をを浮かび上がらせているというのに、部屋の主は隠そうという意思すら見せなかったのだ。
「あァ? 人の女をジロジロ見てんじゃねえぞ?」
「そういうつもりはないし、レズビアンにも興味はない。だから、朝から盛らないでくれるかな。すっごいうるさいんだけど」
「朝からじゃねえ、夜からだ」
「なおさらだよ、チクショウが」
屁理屈を通り越した暴論に少年はついに両手で顔を覆ってしまう。一見すれば少年が見慣れぬ女の裸体から目を逸らしているようだが、両者に恥じらうような様子はなく、あるのは呆れと楽しみを邪魔された苛立ちだった。
「それより、分かったんだろ?」
「その察しの良さを僕の居心地の良さに還元して欲しいところだけどね」
仕方ないとばかりに話を切り出した女に少年は嘆息を漏らしながら、ポケットから取り出したスマートフォンを差し出す。
比較的大き目のディスプレイに映し出されていたのは不鮮明な映像、赤毛の少女とプラチナブロンドの執事がキスをしている防犯カメラの映像だった。
「やっぱり、だよな。上出来だ、ジョン」
「そんなに凄い相手なんだ」
「当たり前だろ。他の誰でもねえ、この私を認めさせた唯一の男だぜ?」
面倒臭そうに、それでいて楽しそうな女の様子にジョンと呼ばれた黒人の少年は理解出来ないとばかりに首を横に振る。
ルックスには恵まれているが、態度は男勝りを通り越して粗雑で猥雑。長い黒髪と豊かなプロポーションだけがその存在を女としているが、繰り出される暴力は純粋なほどの悪意を内包している。
そんな女と共に暮らし、日夜嬌声を聞かされ続ければ女への幻想と共に、ここに居る大人達への期待が失われていくのも無理はなかった。
「とりあえず起動方式はジョンの考え通りみてえだし、あとはやっちまうだけって訳だ」
「世界を変えた天才の問題の割りには低レベルだったってだけだよ――装備は用意させたし、人員は最低限がベストで、拠点ごとの移動の準備も完了。いつでもいけるよ」
「そりゃいい。とりあえずあと1時間くらい待ってろ」
「……一応、理由だけ聞いておいていいかな?」
突きつけるように立てられた人差し指にジョンは顔を引きつらせて問い掛ける。
対象の護衛が手薄である今が最初で最後のチャンスであり、そのためにジョンは装備などを用意させていた。享楽にふける女のために指導者であり、恩人である女のために。
恩を押し付けるつもりも、そういった関係を望んでいる訳でもない。
ただ、そんな理由で待たされるのは嫌だ。それがジョンの偽らざる切実な願いだった。
しかしそんなジョンの願いを余所に、刺青が彫られた美しい顔が浮かべたのはシニカルな笑み。
「決まってんだろ、時間まで楽しむのさ」




