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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Callin' The Flames
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Nightmare Will Last Forever 5

「……仕方ない、か」


 激昂するトニーの熱量とは裏腹に、冷え切ってしまった指先を握り込んだソフィアはポツリと呟く。


 思い返してみれば、ソフィアは何も知らない。

 どうして静音が賭けのような取引を持ちかけてくれたのか。

 どうしてドロシーが契約外の自分に気を掛けてくれるのか。

 どうしてトニーが護衛対象ではない自分を守ってくれるのか。

 どうして父が"Sheep Tumor"をクロード1人で発動で出来るようにしなかったのか。


 だがその疑問の全てが、最強の傭兵(ファイアウォーカー)と|未知のナノマシン《"Sheep Tumor"》という答えによって霧散する。


 皆が集まったのはクロードの周りであって、決して自分の周りではない。

 皆の目を自分に向けさせたのは"Sheep Tumor"であって、決して自分ではないのだから。

 誰も彼もが、羨ましくて妬ましかった。


「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ! 言ってる事が違うじゃないですか!」


 すっかり腰を抜かしてしまい、地面に座り込んでいた明日香が突然声を張り上げる。

 その言葉に想うところがあるのか、楠本は小さく舌打ちをしてわざとらしく首をかしげた。


「なんのことでしょうか?」

「あなたが電話で言ってたんじゃないでしょ! 彼女が兄さんをお金で買って、兄さんはそのせいで辛い生活を強いられてるって! 何もかもあなたが言ったんでしょ!」

「僕はあなたとは初対面ですし、電話をした記憶も記録もありませんが、パーシヴォリがあなたにそう思わせたのは事実なのでしょうね。最強にして最高の傭兵、クロード・ファイアウォーカー。彼を傍らに居させるためなら、誰もがどんな手段でも使うでしょうし」


 記録を取っている訳もなかった明日香は、自分が騙されていた訳ではなく、都合よく利用されていた事をようやく理解する。パーシヴォリは契約通りこの場を整え、楠本は明日香とパーシヴォリを利用する事でソフィアとそれ以外の全員の分断に成功していたのだ。

 楠本の策の成功を裏付けるように、誰もが可憐な顔からは血の気が引かせているソフィアに声を掛けることも出来ないで居た。


「パーシヴォリの勝手を許した事は謝罪させていただきます。ですが、どうか僕に御身をお任せ下さい。手段こそ汚いものではありましたが、彼もきっとあなたを想って動いていたはずです」


 クロード達を尻目にソフィアに歩み寄り、楠本はドロシーに包帯を巻き直された左手を取る。あらゆる方面から殺気にも似た重圧が突きつけられるが、それでも楠本は確信した勝利に酔いしれているよう。

 パーシヴォリと明日香はあくまで手札でしかなく、切り札はこれから口にする言葉なのだから。


「あなたの母上を殺したのは――ファイアウォーカーなのですから」


 瞬間、形容しがたい鈍い音がその場を支配する。


 激痛を越えた無感覚に導かれるように、楠本はゆっくりと視線を降ろす。ソフィアの華奢な手を優しく包んでいたはずの、自分の手がそこにはあるはずだった。

 白いワイシャツの袖は赤黒く染まっており、2本の腕はそれぞれ真逆に折れ曲がり、その手で包み込んでいた華奢で小さな手は暴力の痕跡を残すように赤黒く染められていた。


「……づくな」


 自分に起きた異変を理解したのか、地面へと崩れ落ちる楠本を余所に、ソフィアはシャツを血で染めるように自分の肩を抱き締める。

 どうして楠本がジェスターとの接触を知っているのか、泰明との会話を知っているのかは分からない。

 自分には居ない皆の家族達のせいで、誰が味方なのかも分からない。

 そもそも、無意識に行使した暴力が、ソフィア・ストロムブラードという存在を意味不明なものとしていた。

 被検体として以外の利用価値を見出される事はなく、皆の優しさに縋りつく事で人間のように生きていた自分。そんな自分とは違い、静音には愛すべき兄弟達が居て、ドロシーにはトニーと社員達が居て、クロードには明日香とその家族が居る。


 耐えてみせると誓った孤独とは違う冷たい不快感に胸中を食い荒らされ、自分が意味不明な存在に作りかえられていくような錯覚に偏頭痛は増していく。何もかもを掛け合わせた苦痛はソフィアから冷静さを奪っていき、ソフィアの歯はぶつかり合ってガチガチと音を立てる。震える体はソフィアをより惨めに演出し、庇護欲と得体の知れない恐怖を駆り立てていく。


 それでも、だからこそ、ソフィアは乱暴に吐き捨てる。


「誰も、アタシに近づくな!」


 何もかもを突き放すように威圧する言葉、まみれた血の赤に映えるエメラルドの瞳。


 その全てが、ソフィアをまるで化け物のように演出していた。


 Seep Hurt OM >> error

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